第17話 後ろの席の観察日記

四月某日 天気がいい。最近よく晴れている。吉報だと思う。前の席の人は髪がセミロングでどこにでもいそうな人なのに何か他のひとと違う気がした。よくある思春期の妄想というやつかもしれない。私はそんなに身長がないので普通くらいの彼女の背の高さでも少しいいなと思った。そういえばアニメのヒロインって学園ものだとあんまり可愛くないとういか普通っぽい見た目の子がなぜかモテる。普通の可愛さって安心できる。誉め言葉には聞こえないからこれは一生言えない誉め言葉だ。

まなは勉強できそうだと思ったが前の席の女子がただのガリ勉タイプじゃないのはすぐ気づいた。人間観察は趣味ではないが小さくて可愛いまなには色んな人が寄ってくるので見分けくらいつく。可愛いけど馬鹿ではない。朝から根暗だと思われるのに文庫本をリュックから取り出して読んでいるその背中は三次元を拒否しているようにも見えた。物好きなイケメンだったら声をかけて秒で撃退されるのでは。イケメンの自分よりそんな触れない紙束の方が大事なのか。変人すぎてスクールカーストを爆破しそうなので寄るな触るな近寄るなで正解だとは思うけど。それじゃあんまりだ。

青春するために学校に来ているわけじゃなさそうだからいじめられでもしない限り出ていかないんだろうけど。少し心配になるくらい彼女の瞳にはこの教室にいる誰の姿も映っていない。そう、誰も。まるで決まった恋人か婚約者がいるみたいに。

背筋は伸びていないのに凜としていた。それか、もっと崇高な目的でもあるのだろうか。世界平和の実現だとか。夢物語みたいな何かが。そこに書いてある世界を実現しにきたのだろうか。ないない。まなは半笑いになった。この手のタイプのヒロインは

攻略こそ難しいが一度なつけばこちらのものだ。この子が自分から進んで声をかけ

お友達をつくるとも思えない。異世界にでも行ってきたみたいだな。そんなに現実はつまらないのか。ここまでぼっち丸出しだといっそのこと清々しいじゃないか。このぼっちの聖女様には凡人じゃ相手にならないんでしょうか。ぼんやり窓の外を眺める彼女の横顔は綺麗だ。思ったよりまつ毛が長い。こうしてみると少し男っぽいが眼鏡を外すとそれなりの顔をしているんじゃないか。見てみたい。好奇心に駆られていたまなは横の席の付き合いが長くなりそうな女子がこちらを見ているのに気付いた。君も彼女が気になるのかね。じゃあ私たちは今日から共犯者だ。彼女のかんばせは大人になりかけの少女特有のあどけない危うさを秘めていた。

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