勝利だギューちゃん

第1話

桜が散った。

今年は、春が短かった気がする。


お花見をしている人は見なかった。

まあ、このご時世にお花見をする非常識な人は、さすがにいないか・・・


花は咲く。

その花にはいろいろな、色がある。

桜はピンクだ。


まったく、自然の芸術家はすばらしい。

桜が、ピンクでなかったら、ここまで人の心を打っただろうか?



打たなかったと思う。


すっかり葉桜となった、桜の木に手を当てる。


「君も来てたんだ」

「ああ」


背後から聞きなれた声がする。


「今年は、お花見できなかったね」

「僕は、一度もしたことない」

「どうして?」

「人混みは嫌いだ」


そう・・・

僕は、人が嫌いだ。


桜はどうだろう?

多分、迷惑だと思う。


もし、桜がしゃべることが出来たら、なんというだろう・・・


「桜は、春に咲くね」

「秋に咲く二期桜もある」

「コスモス?」

「違う・・・」


彼女と話している間、僕は背を向けたままだ。


「・・・そろそろ行く?」

「・・・いや、もうしばらく、僕はここにいる」

「でも、時間ないよ」

「構わない」

「置いて行かれるよ」

「それも構わない」


桜の木に手を当てる。


『あなたは、行かないの』

「ああ」

『彼女さんが、待ってるよ』

「後ろの子は、彼女じゃない」

『人間は不思議だね。彼女はあなたと、彼氏と思ってるよ』

「なぜわかる?」

『さっき、話したから』

「そうか・・・」


僕は手を離す。


「・・・行く?」

「ああ」


それを見上げる。

かすかに残っていた、花びらが舞う。


僕はここで、彼女の顔を見る。

彼女は腕を絡ませてくる。


「行こうか・・・ふたりの頂上へ」

「本当に、僕でいいのか?」

「嫌なら、断ってるよ。そのくせ、なおしてね」

「努力する」


今、ふたりで頂上を目指す。

上の見えない、険しい山だ。


頂上に着いた時、「絶景だ」と、ふたりで笑いたい。

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勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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