第42話 お前を守る

 少女たちとプランテッドのアレクは、エレベーターに乗った。

 エレベーターはごく小さく、五人で乗ろうとしたら重量オーバーのブザーが鳴った。オートメイドの身体は、同じ体躯の人間よりも重たいのだった。


 五人はじゃんけんをした。花恋が負けて降りるも、ブザーは止まない。再度じゃんけんをしようとしたら、蘭がすすんで降りた。


「私たちは階段を走って、染井正化の場所まで参ります。お三方で行ってください」

「みんな、気を付けて」


 紫苑は、花恋と蘭のそれぞれと抱き合ってから、エレベーターを閉じた。厚いドア越しに、二人が走る足音が分かった。

 エレベーターが、三人の身体にGをかけながら上昇した。紫苑は、二人に挟まれている。


「アレク。あなた、オートメイドなのね」

「え!?」


 沙耶が驚いた。


「何故、そう思う?」

「彼の臭いがしないんだもの」


 アレクはそのサングラスを外した。荒川梗治とは違う、紅い眼をしていた。


「正確にはプランテッドだ。荒川梗治の人格を移されている」

「一体誰が造ったの?」

「いずれ分かる。それよりも、〈人間シュレッダー〉だ」


 それきり、無言の間が続いた。紫苑が、我慢できずに訊いた。


「ね、怖くない?」


 傍らのアレクは、「どうかな」といなした。


「私、今度こそ死んじゃうかもしれないよ? 背ぇ高い癖に、はっきり言わないよね」

「背は関係ない」

「関係ある」

「どうして?」

「私が関係あるって言ったら、大ありなの」


 前にこんな会話をしたな、と、ふと紫苑は思った。


「紫苑――」


 アレクが何か言いかける。エレベーターのベルが鳴り、ドアが開いた。

 廊下の、僅か十メートル先に、〈人間シュレッダー〉がいた。その白いマスクの黒い双眸が、光った。そして、ババババと、銃声が響いた。

 沙耶はエレベーターのボタンの裏に貼り付いた。紫苑は、アレクに押し倒されて、銃弾から守られた。あの〈人間シュレッダー〉は、ガトリング砲を両眼に拵えていた。


「アレク!」


 彼の頭が、紫苑の耳元にあった。


「動くなよ」


 銃撃が、何回かに分けて続く。一本道を制圧されており、進むのは困難だった。


「――紫苑」


 アレクは、さっき途切れた言葉を続ける様に囁いた。


「俺の身体には、自爆装置が入っている。今から奴の懐に突っ込んで、自爆する」

「そんな!」

「よく聞け」


 アレクは、さらに紫苑の耳元へと唇を近づけて、言った。


「紫苑。俺は、荒川梗治は、お前が好きだ。ずっと好きだった。だから、俺は荒川梗治の想いを、その代理人として果たす。俺は鉄腕代理人だからな。この近くに、生身の俺がいる。俺に、よろしく頼む」

「アレク――」


 弾が切れたのか、銃撃が止んだ。エレベーターの壁は蜂の巣状態になり、硝煙〈人間シュレッダー〉に薄い靄をかける。


「お前を守る」


 プランテッドのアレクは、紫苑の頭を撫でてから、立った。

 その背中は既に何発かの銃弾に撃たれていた。ジャケットに出来た幾つかの穴から、メタルの艶が光った。彼はよろめくも、迷いなく、〈人間シュレッダー〉に走っていった。


 紫苑は、溢れそうになる涙をこらえて、その場に伏せた。

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