無再生

ハシビロコウ

第1話 ブルドッグ

 私がその女と初めて会ったのは平日の午後だった。

 小学校から帰ると、自宅の居間で母と談笑していた。

「あら、おかえり。ほら、〇〇ちゃんのお母さん。あいさつしなさい」

「こんにちは」

「こんにちは」

 私はその女に会釈した。

 保護者会か何かで懇意になったのだろう。

 同級生の女の子の母親だった。

『胡散臭いな……』

 私の直感が働く。

 その女は呆けた印象で人相が悪く、ブルドッグのようだった。

 自室に入った私は、お気に入りのキャラクターがプリントされた肩がけバッグを勉強机の端のフックにかけた。

 小学校高学年ともなるとランドセルの文化はとうに廃れており、おのおのが手提げや肩がけやリュックサックなどの好みのバッグで登校していた。

「本、返しにいってくる」

 友だちと図書館で待ちあわせていた私は、本と〇ルテンのバレーボールが入ったボールネットを持って早々に家を出たが、なんだか嫌な予感がした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る