05

 机と床には設計図や工具が散乱して壁には濡れた青緑色の作業服がかけられている。ストーブの横の流し台前で少女は木箱に立ち、やかんを両手に握って茶を入れている。

 部屋の中に流れる暖められた生温い空気。

「妙ね……エルフでも無いのにあの幼さ……」

 机に置いた杖を手で転がしながらケシィが呟く。

「お待たせ、お茶あいったよー」

 トレーに湯気の上がるコップを五つ並べて、少女はそっと木箱から降りた。



 机に着いた一同は茶をすする。

「しょれで……義手だっけ。見た所その女の子の、だよね」

 少女はケシィに目をやった。少女の椅子には分厚いクッションが置かれ、その上に少女は座っている。

 右肩から先が垂れたローブを少し見て、ケシィは頷いた。

「ええ……そうです」

「じゃあちょっと見しぇてもらうよ」

 クッションを落として少女は椅子から机に這い上がる。ケシィの前で止まると、垂れているローブの袖から中を覗いた。

「…………ふみゅ。これなら問題なさそおだね」

 ローブの袖を下ろし、少女は頷いて机の上を後退し椅子に戻る。

「完せえするのは明日になるかな……しょれまでこの子を借いさせてもらうよ」

 聞いていた三人の表情が明るくなった。

「よかった…………あ、なら先にお代を」

 セルがズボンのポケットに手を入れる。

「お代? お代ねぇ…………」

 考え込む少女。


 ふっと顔を上げ少女は手を叩いた。

「そおだ! お代の代わりにぜろぜろいちを止えに行ってもらえあいかな」

 クッションを拾い上げ椅子に座り直した少女はケシィを除いた三人の顔を見る。

「ゼロゼロイチ……ですか?」

「うん。訳あってわたしがいあ追いかけてるロボットなの」

 ロボット!? と四人が同時に驚く。

「ぜろぜろいちは今近くの町にいうから、電源をきってきてほしいんだ」

 そう言って少女は椅子を降りると、床に散乱している設計図から紙を一枚拾い出して机の上に置いた。四人はその紙を覗き込む。

「ここが現在地ね。しょれで……ぜろぜろいちがいるのあこの町」

 少女は地図をなぞってバツ印を指さす。先ほど渡されたのと同じ地図だったが、今度は現在地から更に北に進んだ所に印がつけられていた。

 かなり小さな字で書かれた町名をテラが目を細めて読み上げる。

「えっと……ツギの、町?」

「サイショの村の村ちょおさんに影きょおされたんだとか。その町めえ」

 サイショの村を知る三人は成程と頷く。テラは少し苦笑い。

「でね、ぜろぜろいちのくび元にある電源ボタンを押してきてほしいの」

 少女は自分のうなじを指で押す動作をして見せる。

「帰りは運ぶの大変だろうし転移魔ほお屋を使うといいよ。転移魔法代あわたしが出すから」

「えっ、でもこれって義手のお代の代わり……」

 遠慮しているセルを見て、次にテラとプルを見た少女は笑った。

「ぜろぜろいちはじょお夫な分結構重いんだよ?」

 空になった五つのコップに少女は再度茶を注ぐ。セルは自身の細い腕を見た。

「それに止めるだけでもおつりがでる位だからね……ぜろぜろいちは」

 部屋の隅に視線を移す少女。

 柄の焦げ落ちた傷だらけのモップが立てかけられている。テラとプルはそれを見て息を飲んだ。

「ま、ああゆう感じだから……無理にとは言あないけど」

 コップに口をつけ、三人の方を向き直す。

「…………分かりました。行きます」

 セルが頷いた。

「……でも」

 付けたし、セルは横目にテラとプルを見た。


 あ、と声を漏らしケシィは机にコップを置いた。

「セル、一応言うけど、貴方だけでは行かせられないわよ」

「えっ、俺たち置いてかれるとこだったんすか!?」

 プルが声を上げセルを見た。あからさまに目をそらすセル。

「で、でも、何で」

「心許無いからよ。誰かがいないと危なっかしくて目が離せない位」

 セルはテラとプルを見た。

 頷き同意を示す二人。セルの表情に困惑が現れる。

「……そういうことよ。だから二人を連れて行って」

 ケシィは視線をセルに向ける。顔をそらすセル。

 渋っているセルにプルが不安そうに口を開いた。

「兄貴……本当は一緒に行きたくないんじゃ」

 えっ、と女子二人に加え、会話を傍聴していた作業服の少女が声を漏らして一斉にセルを見た。

「そっ、そんなこと思って無いよ!」

 全力でセルは首を横に振る。それはもう残像が見える勢いで。







 部屋に残されたケシィは少女が火花を散らしながら金属を加工しているのを眺めていた。椅子を降り、ケシィは窓の外を見る。

 雪の上を並んで歩く三人の少年少女。何かを楽しそうに話している。

「……西の国でのこと、そこまで気にしてたのね……」

 呟き、窓から離れて椅子に戻る。

「……ねえ、何でわたしあ小さいのか疑問に思ってうでしょ」

 ふとゴーグルを上げて少女がケシィの方を振り向いた。

「え、は……はい」

「わたしアンデットなんだ」

 少女の言葉にケシィは椅子から立ち上がった。少女は寂しそうに笑う。

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