第2話
こちらがはてなマークを頭に浮かべるのとほとんど同時に押し入れの先客も首を傾げた。
「あんた空き巣なの?」
取り乱していた女性はこちらの正体を知ったことで瞬時に声を落ち着かせた。子どもを叱っていた母親が、電話に出た瞬間別人のような穏やかな声を出すのを彷彿とさせる変わり具合である。
「え、まあ、そうですけど……?」
「そう。恐れ多くも坂下くんの家に侵入するなんて、さっさと自首した方がいいわね」
一転して強気に出ているこの女性だが、先ほどまで明らかに、僕が警察に行くと言ったのを聞いて取り乱していた。
「もしかして、あなたも何か警察にバレたらマズイ秘密を抱えてるんじゃないんですか?」
「はぁ? あんたみたいなコソ泥と一緒にしないでよ。私のは純愛よ! 人に後ろ指刺されることなんてしていないわ!」
「でも人の家に無断で忍び込んでいるんですよね?」
「わ、私のは純愛の結果として、仕方なくしてしまっていることだから問題ないのよ! 坂下くんをもっと近くで見たかったから、思わずやってしまっただけなの! あんたみたいに身勝手に人の家に入って盗みを働いている人間と一緒にしないでよね!」
「じゃあ僕があなたのこと警察に通報しても問題ないってことですよね?」
「できるもんならしてみたら? あんたも捕まるわよ?」
「泥棒に入っているところを人に見つけられてしまった時点で、運が無かったんです。警察のお世話になることを受け入れますよ。それが僕の運命だったということです」
「なにコソ泥の癖にかっこつけてんのよ!」
そんな話をしていると、押し入れの襖が勢いよく開いた。部屋の光がサーチライトみたいに、押し入れの中の2人を照らす。目の前には、切れ長な目が特徴的な、可愛らしい顔をした大学生くらいの男の子がムッとした表情で立っていた。
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