チートもざまぁも特に無いけど異世界召喚されたのでとりあえず頑張ってみた。
@NekomeDo
王都編
第1話 召喚
どこか懐かしいような、
頬に当たる感触がやけに硬い。その硬質な感覚に
身体が痛い。けど、もう少し寝ていたい。
うつ伏せのまま寝返りを打つと
地べたにペタリと座った姿勢のまま目蓋を開く。逆光の中に人のシルエットが浮かんでいた。そのシルエットを一つ、二つと数える。五つまで数えて、数えるのを辞めた。数えるのが
その中の一つのシルエットが動き、暖かな陽射しを
徐々に視力が慣れ始め、立っている人の姿を視覚では認識し始めていた。
ゆったりとしたワンピースを着た
視界が鮮明になり認識したのはそんな光景だった。まだ意識というか思考がぼんやりとしている中で年齢層高めな小父さんを順番に眺めていく。
髪の色は金髪や茶色といった明るめの色が多いが、中には青や赤といった小父さんにしては少々ファンキーな感じの人も何人か居た。
そんなオジサンたちの背後には鎧にしか見えないモノを着込んだ人々が綺麗に整列している。
そんな光景をぼんやりとした思考のまま見渡して、脳がようやく認識して、えっと、何が?と首を傾げた瞬間。
———ッ⁉ ︎そうだ!
フラッシュが弾けるようにして一気に思考や記憶が
感覚的には直前としか思えない事故の光景を鮮明に思い出し、自分の身体を
ドキドキと、心拍は一気に急上昇したがホッと安堵もしている。けれど即座に周囲の状況を思い出して今度は勢いよく立ち上がっていた。
———誰だよコイツら⁉︎何処だよここ⁉︎なんなんだよこの状況⁉︎
ざっと見渡しても見知らぬ人々は一〇〇人以上はいる。周囲を無数の見知らぬ人々、特に鎧を着込んだ人々に囲まれているその状況が只々恐ろしくて仕方がなかった。
驚愕し、最大限に警戒しつつも、言葉を発するか
女性が近付く前にサッと視線を走らせる。
周囲の男性たちに動く気配はない。男性達の背後に広がるのは果てしない青空だ。
未だゆっくりとした歩調で近付く女性はその両手に何かを持っていた。両腕を前へと差し出すようにしながら歩を進めている女性を
その手にはハンカチ程度の大きさの高そうな生地の布が一枚載せられていた。その布の上に何かが載せられている。それは銀色で小さな物体だった。それを何かに
———何故、そんな物を?
———着けろ。そう言っているのか?
「……あの」
二メートルほどの距離で立ち止まった女性に対し勇気を振り絞って声を掛けてみた。が、返って来た言葉はまったく理解できない、聞き覚えすらもない、そんな言語だった。
女性は僕の前でゆっくりと膝を折って膝立ちになると、そのまま捧げるようにして布と銀色の物体を載せた両手を
周囲を
視線を目の前の女性へと戻し、
「突然のことで、さぞ驚かれているかと思います」
「……え?」
「どうか落ち着いて、私どもの話を、聞いては下さいませんか?」
「……………言葉が、
女性は一度頷き
年齢は二十歳前後だろうか。長いブロンドの髪が降り注ぐ陽射しに美しく
だが、その見た目だけで言えば絶対に日本人じゃないなと考えていた。医療関係者でも消防関係者でもないことは改めて理解した。じゃあ、ここは
僕らは修学旅行の帰り道、事故にあったんだ。
対向車線側から何故か飛んできた無数の鉄パイプがバスと接触し、僕はその一本に胸を
事故の状況を改めて思い出して、僕は目の前の女性へと言葉を投げた。何も分からないから
「……ここは、どこですか?」
「ここは、ルイドリック王国という名の一つの国になります」
「ルイドリック、王国?」
日本語を口にしたはずの僕の言葉も正確に伝わっていることに正直驚く。そんなことは女性にとっては当たり前なのか、特に気にした
「はい。貴方様のお名前を、お聞かせ願っても
「……佐々木です。佐々木、透」
「ササキ、トオル、様ですね。では、少しだけ私の言葉に耳をお貸しください」
そう言って女性は、丸暗記したような感情の乗らない言葉を、つらつらと語り始めた。
「ここは、ササキトオル様が住う世界とは異なる世界———」
薄々は感じてはいた。そうじゃないかとも、心の何処かでは確信に近い形で考えてもいた。けれど、女性の口から直接言われるまでは、否定し続けていた自分がいたことも確かだった。
ここは異世界だったんだ。僕らは異世界召喚されたんだ。
驚愕と理解。
「
そんな言葉を耳にした瞬間僕は、もう帰ることは叶わないのだろうなと、そう感じていた。
女性の言葉を意識の何割かが認識している中で、生まれて初めてといっていい強い郷愁を感じていた。
悲しみや切なさで肩が落ちそうになる。膝が崩れそうになる。立っている地面が泥のように変化して身体が沈んで行くような不安定な感覚に襲われている。
失ってしまったモノが余りにも大きいことを、この瞬間悟っていた。親しかった様々な人々の顔が脳裏を無数に駆け巡っていく。それは一種の
気が付けば視界は涙で
目を
けれど唐突に、頭の中でカチリと音がする程に、様々なピースが組み合わさって一つの答えが導き出された。同時に、胸が締め付けられるように苦しくなり、両目から止めどなく涙が溢れ出した。僕は立っていることもできずに膝から崩れ落ちると、只々静かに、涙を流し続けた。
驚いた様子で目の前の女性がこちらを見ているが、そんなことは一切気にはならなかった。
———そうか。この匂い。
この少し甘いように感じる匂いは、この
排気ガスや化学成分、化石燃料が燃焼する臭いなどを一切含まない、無垢で純真な大気の匂い。
八〇億もの人類が生み出す生活排水やゴミ。人間そのものの臭いがほぼ存在しない世界の匂い。
本物と呼ぶに
だからこんなにも胸が痛むのか。
だからこんなにも愛おしいと感じるのか。
溢れる涙は止まることを知らない。
こんなにも涙を流したのは生まれて初めての経験だった。
僕らは、あの惑星を
深呼吸をする。空気が甘いと感じる。強く吸い込めば鼻の奥がツンと痛む。それはこの清浄な大気に僕自身の身体が慣れていないからだ。それは僕の身体が穢れてしまっている証拠でもある。けれど生きている。こうして僕は生きている。この果てしなく、そして限りなく美しい世界で、僕は生きているんだ。
この時感じていた感情は言葉では尽くし難いほど複雑なモノだった。
ひとしきり静かに涙を流したことで多少は心が落ち着き、それでも僕は泣きながら様々ことを考えていた。
目の前の女性はこう言った。ここは僕らが住んでいた世界とは異なる世界だと。そして僕らに、この世界を救って欲しいと。
この世界には〝ギフト〟と呼ばれている神から与えられる
召喚者はそのギフトと呼ばれている〝力〟に恵まれる傾向にあり、この世界を救えるだけの力や
その力で、この世界の脅威と戦い、レベルを上げ、そして来るべき日に備えて欲しいと。
それが事実だとすれば、僕らは辛く厳しい立場に立つことになるだろうな、と思っていた。
だって〝特定の誰かを〟どころではなく〝この国を救う〟どころの話でもないんだ。この世界を、この
だって僕らは、なんの変哲もない、唯の中学生なのだから。
とはいえ、そうしたい。やるべきだと思う人も当然出てくるだろうとは思う。自分達に特別とも呼べる力が与えられたんだと知れば、それを使命のように受け入れる人も出てくるはずだ。そうすることができる立場の人間なのだと自覚すれば、正義感に目覚める人だっているはずだ。
逆に、元の世界に返せと言う人は必ず出るだろう。世界を救え?知るか勝手にやってろ。そう思う人も絶対にいるはずだ。何故なら僕らは唯の中学生なのだから。
けどだ。これはあくまで僕の
ざっと見た感じ、クラスメイトの数はどう見ても足りていない。バスに乗っていた人々のおよそ半数もの人がこの場には居ない。それは分かっている。その人達がどうなったかは、考えるのすら恐ろしい。だから僕は、今現在もその事実から目を背けている。そこに、僕自身が含まれていても何らおかしくはなかったと強く感じているからだ。かもすれば、今この瞬間にもこの身体が透明になり、この世界から消えてしまうような、そんな恐怖感がある。
自分の胸の奥底に広がっている恐怖心から目を背け、次に考えたのは、異世界召喚を行った人達のことだった。
どんな国なのかは分からない。どんな世界情勢なのかも分からない。常識は違うだろうし、勿論法律だって違うだろう。そんな人々が僕らに対し、どんな対応をし、どんな待遇で迎えるかも未知数で、僕らが今後、何を成さなければならないのか、具体的なことも分からない。
僕は、今後に起こるだろう様々な出来事を想像した。
今後に起きる全ての事象が僕らにとっても都合の良いハッピーエンド。それとは逆に、僕らにとっては不都合なバッドエンド。
終始ハッピーエンドな流れだが最後にどんでん返しが起こるバッドエンド。とにかく、考え得る全てのパターンを想定して、僕はこう結論付けた。
この世界の、目の前の人々を手放しで信用することはできないと。するべきでもないと。但し、信用や信頼は絶対に勝ち取るべきだ。そして、信頼していいのかを慎重に見極めるべきだと。
そんな警戒心を悟られれば相手にも警戒心や
まあ、小学校の頃から今までずっと違う自分を演じるようにして生きてきた自覚はある。だからそれは、これまで通りだともいえる結論と決意だった。
とはいえ、まずはこの世界や相手のことを知らないことには判断することなんてできない。そう、孫子曰くってヤツだ。
最悪な未来も起こり得る状況だが、最高といえるような未来だって、まだ捨てた訳じゃない。全ては、物語が始まらないことには判断できない。
僕は涙を拭いて身体を起こすと、最も仲の良い友人を起こしに向かった。
その後、全員が目を覚まし、改めて説明を受け、僕らは最初の分岐点に立たされた。
それは、この国の意向に従い世界を救う道を歩むか、召喚者という立場を全て捨て、この国の外で不自由としか思えない自由を手にするか、という二択だった。
前者を選んだ場合、与えられたギフトが喩え戦闘向きでなかったとしても国が自立するまで面倒は看てはくれる。但し、一年という期限付きではあるが、その期間の
与えられた力が戦闘向きのギフトだった人は戦闘訓練などを徐々に積み、段階を持って強くなるという工程を積み重ねていくことになる。
後者を選んだ場合、一年間は余裕を持って生活が送れるだけのお金を手渡された状態で隣国へと追放される形になる。追放されれば当然、この国へ戻ってくることは不可能に近い。
この場合、言葉を
そんな選択肢を突き付けられ僕らは話し合った。
中には反対する人も当然いたけど、結局は全員で国に従う道を選んだ。
その後僕らは、国の意向に従い脅威と戦うという誓いを立てた。
その誓いを破れば、与えられたギフトを消失することになる。
そうして場所は移され、垂直に切り立った高い場所から降りた後に城の中へと進んだ。
そして、この国の王が待つ場所にてイベントを迎えようとしていた。
それは、ギフトの鑑定だ。
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