第2話

 暑い日差しが部屋の中を照らし、草木の彩が涼しいものがだんだんと増え始める5月14日、日曜日…俺、天ヶ崎 銀河は自分を含めた一度異世界へと行ったクラスメイト達がこれからどう過ごせばいいのかを考えながら、学校にて出された課題と翌日にあるテストにけて自主学習に取り組んでいた…が、


「~あぁっ!!この課題がどんな学習の内容だったか覚えてないし、これからどうするかも考えていかないとだし、マジで頭がおかしくなるわ…」


 全然手を付けられていない状態だった。この世界からればこの課題やテストに出る内容の学習をしたのはほんの少し前だが、俺達の体感時間でいえばその内容を学習したのは数年前であり、同時に、その数年間はこの世界への帰還だけで頭が殆ど一杯一杯だった。だが、そんな嘆いている暇はない。苛立ちを鎮めようとしながらまた机に向き合おうとしたとき、横に置いてあったスマートフォンが目に入る。


「…みんなの進捗も聞くか」


 そう呟きながらスマホを手に取り、チャットアプリを開いて“グループ新規作成”から『帰還組』というグループを作成し、共に帰ってきた面々をそこに招待する。すると続々とそのグループに参加し始めていき、最終的には全員が揃いそれぞれ一言挨拶をするという流れが出来た。そこに俺は、『全員の今現在の進捗を知りたいから通話できるか?』と打ち込む。皆も気になっていたのか続々と“OK”やら“おk”という返信が返ってくる。それを確認し、俺は画面にある“全体通話”というところを押す。画面に俺のアイコンと共にマイクやらカメラのマークが表示され通話が始まった。


「あー…おはようございます?こんにちは?」


 それぞれが通話上で「こんにちは」と「おはよう」のどちらかをバラバラに言い、ノイズキャンセリングしてほしいほどの雑音のようになる。全員が言い終えたのか、一気にシーンとなったその状態に俺は言った。


「今回この通話を開始した理由は…シンプルに聞くけど、みんな課題やらってどんなかんじ?あと、何かしら俺達の今後に関係する話題ってあった?てのを聞きたかったのとこの後勉強するの助けてくれる人いますかってこと。ちなみにうちの周辺では、桜木と智樹が現在行方不明であることから警察が家の周りにいたり、二人の両親から電話が掛かってきたりしてまーす」

「俺も」

「…私も」

「以下同文だね」


 恭介、昌子、木葉が口をそろえて言った。その三人に桜木、智樹を含めた五人と俺は小・中からの付き合いであり、恭介、俺、桜木に至ってはそれぞれの家が30mも離れていない上にさらに昔から付き合いがあった為、幼馴染ということになる。


「あの、私もそれの一条君パターンならありました…」

「…俺もだ」


 クラスのなかでこちらの世界でもあちらの世界でもかなりおとなしめで、性別関係なく保護欲の湧いてしまいそうになる小さな見た目をしている関沢 野々花せきざわ ののか がそう言い、玄貴も反応をしたのに対し、少しそれについて触れる。


「そういや、関沢さんと一条って…」

再従兄妹はとこです、父の父方の。結構一族で固まっているので…」

「そうなんだ。で、井上は一条の…」

「小学校からの親友だ…とりあえず、こっちも警察が何人かウロウロしているだけで特に何もない」

「OK、とりあえず俺達のことは何も言わないように。ほかの地域のやつも」


 通話にいた全員が“ハーイ”と返事をする。


「じゃあ、他に誰かあるやつー?」

「あ、ハイハイハイハイハーイ!」

「はい、なんだ新嶋」


 新嶋 心海にいじま ここみは日焼けで焼けた肌と活発そうな普段からの服装に合うとても元気な性格を持つ女子で、あちらの世界では“従属士テイマー”として様々な生物たちと共に魔王軍との戦いに勝利してきた。そんな彼女が言ったのは…


「あの!みんなのとこの子達含めて、どこかのタイミングで控え状態から出してあげることってできない?」

「あー…そうだわ」


 “従属士テイマー”の彼女以外にも従魔を持つ者は案外多く、普段はそれぞれの持つ従魔を入れておくことのできる印の描かれている石をアクセサリーなどに加工して身に付けている。だが、魔王戦で従魔達も生命エネルギーを多く消費し暫くの間、休眠状態で外に出せずにいて忘れてしまっていた。だが、かなり時が経ち、元気な状態になった従魔達はきっと外に出たいだろう…


「うーん…一応“節約モード”で出すことは誰のでも何とかなると思うけど、ある程度エネルギーも消費してってあげないと暴走するかもしれないけど…土地がな」


 従魔達は契約をすると、“節約モード”と呼ばれる戦闘や存在維持に使用する生命エネルギーの消費量を抑え、元の見た目や大きさに比べてかなり緩い形態に変身できるようになるが、生命エネルギーは溜まりすぎてもいけないもので、溜まりすぎてしまった場合、その従魔は無理に生命エネルギーを一定の量まで減らすために暴走してしまう。だが、エネルギーを消費効率が一番いいのは戦闘や長距離移動らしく、ほかの手段もある程度被害が出てもあまり問題もなく広い土地がなければならない…


「うーん…皆も意見出してもらっていい?」


 そう言うと、次々と意見が飛び交う。が、かなり馬鹿げたものばかりで、「天空の城だー!」だとか「どっかにハムスターの檻みたいの作るのは?」だとか、どこか大喜利っぽくなってしまう。だが、そんな中誰かが言う。


「いや、普通に透過魔術と防音結界でどうにかなるんじゃない?」

「「あ…」」


 …通話に沈黙が流れる。よく考えてみればすぐに浮かぶ案なのに、まだこの世界に帰ってきて日が浅いからかみんな少しテンションがおかしかったようだ。沈黙が続くのに耐えられず、俺は締めの挨拶をし始める。


「…とりあえず、また何かあればここに書いてくれ。今日はここまで。あーざっしたー」


 「あざしたー」とか「グッバイ」などそれぞれが一言残し、通話を後にしていく。俺も通話から抜けて、また参考書とにらめっこし始める。いやー…これからマジでどうなるんだろうか。というか何か忘れ…


「あっ!…俺誰かに手伝ってってお願いするの忘れてた!どうしようかな…」

「…昌子ちゃんにお願いするか」


 今度は個人チャットの欄から猫の写真と共に“しょうこ”と書かれたアイコンを押し、電話を掛ける。プルルルル…と何度かコールが続いた後、昌子は電話に出た。


「…あ、もしもしー?」

「銀河君どうしたの?」

「あのー…マジで申し訳ないんだけど、勉強少し見てもらえたりってできる?」

「あー、そういえばさっきそんなこと言ってたね。いいよ、ただし今現在…」

『やっほー!私もいるよー』


 昌子の奥から木葉の声がする。


「銀河君が得意なの木葉ちゃんに教えてあげて。本人がここにいるのになんだけど、木葉ちゃん、銀河君と比べてもかなりひどい。というか、暇そうなら恭介君も連れてきてくれない?」

「あー、OK」


 その後、普通に暇そうだった恭介を連れて昌子の家へと向かった。俺達の家から昌子の家までは少し離れており、着くまでの間しばらく二人で談笑する。


「いやー、恭介。なんかマジで違和感凄いよな」

「確かに。だって電柱を見るだけで違和感がすごいもん」

「でも、これからきっともっと違和感のある生活が待ってるだろうな…」

「そうだな…」


 そんなことを言っていると昌子の家の前に到着し、インターホンを押す。「はぁ~い」と四十代ほどの女性の声が聞こえ、玄関の扉が開く。中から出てきたのは昌子の母親で「どうぞ~」とリビングへと通される。そこには幻覚なのか実物なのかは分からないが、ポケーとした顔で頭から煙を出して天井を見上げる木葉とそんな木葉を見て額を掌で抑えながらため息を吐く昌子がいた。


「…現在の状況は?」

「…頭ショートした木葉ちゃんに脳が破壊されそう。…恭介君は?」


 “恭介”というワードに木葉の身体がピクッと反応するように震える。


「おるよ」


 ピクピクッっと木葉は震えた後、錆びついたロボットのようにグギギギと赤く火照ったその顔を俺達の方へと向けた。すると恭介と目が合ったのか木葉は、「あ、ああああ…」と言いながら先程以上にプシューと煙が頭から出てきた後、バタンと後ろへ倒れてしまう。倒れた木葉を見て恭介はオドオドとしだすが、昌子は呆れたように、俺は少しニヤニヤとした表情でその様子を見ていた。、


「二人とも!坂本が倒れたけどどうすれば…」

「大丈夫。通常運転だよ、それ…」

「うんうん…でも、そのまま寝ると頭痛そうだしさ。恭介、膝枕してやれば?というかしろ。あと下の名前で呼んだれ」

「え…!?」


 俺がにやにやしながら言ったその言葉を聞いて、恭介も顔を真っ赤にして驚く。


「『え…!?』って…あっちに世界の野宿で何回か外で座って寝てた木葉を一回自分の膝に頭乗せさせて、しばらくポンポンと触ってりらっくさせた後、テントに寝かしに行くってようなことしてたの知らないとでも思っていたか?」

「ッ…なんでそのことお前が知ってるんだよっ!」

「え?見てたから」

「はぁ!?」


 恭介は他人にその様子が見られていたことを初めて知ったような驚き方をするが…恭介よ、今日の通話にいた奴はみんな知ってるぞ…!そんなことを思いながら昌子の方を見ると、彼女の顔は笑いを堪えられず、今にも吹き出してしまいそうだった。結局、恭介の膝枕はなく、しばらくして起きた木葉を加え勉強会が始まった。

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