クズと始める異世界生活

IGANTF

第一章:呪われた地の底より目覚めし古の地竜と災い

プロローグ

――“カン、カン、カン……”


 拝啓 父上様、母上様


 僕は今、異世界で穴を掘っています。

 とても晴れやかな気分で、見知らぬ土地の地中に、横穴を掘っています。


 ふふふ。何を言っているのかわからないとは思いますが、理由は聞かないでください。

 理由を知ったら、きっと二人とも悲しむと思います。


 こんな息子で、ごめんなさい。


 親不孝者で、ごめんなさい。


 でも……父さん、母さん。

 

 僕は……今……


「ヒャッハー!!最ッ高にHIGHハイってヤツだぜえぇぇ!!」


“カンカンカンカンカンカンカンカン!!”


 薄暗く狭い地中の横穴をつるはしでザクザクと掘り進める少年

 彼の前に立ちはだかるのは岩肌のはずなのだが、まるで土を崩すかの如く掘り進んでいく。

 泥まみれの顔に浮かぶ彼の表情は、狂気に包まれた笑顔とでもいうべきか、とにかく、酷いツラだ。


「おい!先はまだまだ長いんだから、そんなに焦んなって」


 少年の隣で「よいしょ、よいしょ」とつるはしを振るう金髪の少女

 少年と同じく泥まみれの顔だが、こちらは真剣な面持ちで横穴を掘り進める。

 しかし、彼女の幼い面を真剣な表情の気迫でいくら補ったとしても、振り上げたつるはしにそのまま持っていかれそうなくらい華奢な身体は、とても頼りない。


「なるべく体力を温存しとかないと、後が怖いぞ?」


 そんな彼女の助言をよそに、どんどん横穴を掘り進める少年

 振り上げたつるはしを、へっぴり腰で何度も振り下ろす。


「うるせぇ!すぐそこで、金銀財宝の山が俺を待っているんだ」


「これがそんな呑気でいられるかってんでい!」


 まさに血眼といった形相で穴を掘り進める少年

 その必死の形相と見苦しい姿を目の当たりにした金髪の少女は、自分自身もまた、彼と同じ金銀財宝目当ての浅ましい盗人には違いないのだが、彼には、控えめに言って、ドン引きせざるを得なかった。


「盗人のあたしが言うのもなんだけどさ。あんた、人として恥ずかしくないの」


“ガキンッ!”


 少年のつるはしが、何か硬いものに当たる。

 岩肌よりも硬い、金属様の物質につるはしの先端が衝突し、かすかに火花が散った。

 つるはしの先端を中心に、バラバラと薄い岩肌が崩れ落ちる。


 少年の背筋に冷たいものが走る。

 直後、何か熱いものと高鳴る鼓動が胸を満たす。


「おい……。やったぞ……」


 ついに、ついに待ち焦がれた金銀財宝までたどり着いたに違いない。

 それは、その場に居合わせた少年と少女、二人の共通の認識と感情であった。


「わぁぁ……!」


 向かい合った二人は、歓喜に満ち溢れた表情で泥だらけの手と手を取り合い、互いに労いの言葉を交わそうとするのだが、そのとき、自分に向けられた”視線の強さ”に違和感を覚える。


 この薄暗いほら穴には、自分以外に、目の前の薄汚れた盗人しかいないはずなのに、まるで目の前の人間以外の第三者がこちらをにらみつけているような、そんな感覚に襲われているのだ。


“グルルルル……”


「え……」


 ランタンの灯りが、金属のような硬い質感の、美しい翡翠色の輝きを放つ岩肌を照らし出す。

 岩肌は不気味に蠢き、その一点が黄金色に鈍く光る。

 そして、深淵なる地の底で邪悪な何者かが唸るような、そんな不気味な音が、ほら穴に響き渡る。


 少年と少女は、手と手を取り合ったまま、唖然とした表情で地面に膝まづく。

 というか、へたり込んでしまう。


 黄金色の巨大な瞳が二人の姿を捉え、細く収縮する。

 

 ほら穴に、二人の情けない悲鳴が響き渡る。

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