逆転られ
そして、誰かがこちらに向かって走ってくる。
「こっちは終わったぞ!」
「先生!」
先生は満身創痍だが、とりわけ目立った外傷はない。電撃の衣で致命傷だけが避けたのだろう。
「私たちの勝ちよ!」
黒髪の少年は恨みのこもった、真っ黒の瞳で私の瞳を睨みつける。彼の視線はナイフのように鋭く私の瞳に突き立てられる。
そして、
「クソッ! 認めてやる! この場は俺の負けだ! だけど、次は俺が勝つ!」
「あなた、この状況から逃げ切れると思っているの?」
「ああ。この技は本当に使いたくない。だけどやるしかない。俺が死ぬのは今ではない!」
「まだ何か隠しているの?」
私は彼から距離を取る。だけど逃さないように、退路はしっかりと断つ。
黒髪の少年は震える体で立ち上がると、剣を構えた。黒い剣の切っ先がまっすぐにこちらを指し示す。
「俺のつるぎは悪を砕く! ステージワン!」
そして、彼は驚くほどシンプルに私の方へ剣で数回切りつけてきた。
「これがあなたの奥の手?」
「そうだ!」
私は彼の全ての攻撃を完全に防ぎきった。
そして、私は突然嘔吐した。
(一体何が起きているの?)
彼の攻撃を受けると、なぜか急に体調が悪くなった。全身を悪寒が舐めて、吐き気とめまいが私の頭の中を締め上げる。
「おい! 何があった?」
「愛、大丈夫か?」
先生とジャックが彼の包囲を解いて駆け寄ってきた。
「わからない。急に体調が悪くなったわ。彼がなにを装備しているのかわからないけど、気をつけて!」
その時、冷たいアナウンスが流れた。
『三十二パーセント』
「チッ!」
アナウンスを聞くと、黒髪の少年はいらつきを舌打ちにして吐き出した。きっとこのアナウンスも彼の能力なのだろうが一体なんなのだろう。
「俺が行く。ジャックは愛を頼む!」
そして、先生が黒髪の少年と一騎打ちの姿勢をとった。
「愛に何をした?」
「答えると思うのか?」
「お前を殺す!」
先生が体力を振り絞り弱々しい電撃を剣の形にして体の前に構える。
「やってみろ! ステージツー!」
そして、雷の剣と黒い剣が弾けるような快音とともにぶつかった。私はその様子を震える頭を回転させながらじっと見つめた。何かのヒントをここから得なければ、私たちが負けてしまう。
そして、私はなんのヒントも糸口も得られることなく、先生の敗北を目の当たりにした。
「次は俺がやる!」
ジャックが前に出る。
またアナウンスのようなものが響く。
『三十五パーセント』
気づけば、黒髪の少年の鼻からドス黒い血が垂れ流れている。目や耳からもわずかだが出血し始めている。なんらかのデメリットなのだろうが、なんなのかわからない。
そして、
「裏切り者のお前には、ステージスリーをお見舞いしてやる!」
そして、数回シンプルに斬り合うと手も足も出ずにジャックは地べたを這いつくばった。私は戦闘の様子をじっと見ていたが、ただの剣と剣の小競り合い。不自然なところは何一つない。数回剣が互いにぶつかり合うと、突然、ジャックも先生も地面に膝をついて倒れてしまった。
「俺の勝ちだ」
少年は叫んだ。そして、彼は突然膝から崩れ落ちて砂に沈んだ。よく見ると耳、目、鼻から大量の血が流れている。地面が出血でぬかるみのようになっている。
「もうその装備を使うのはやめなさい! このままだとあなたも死ぬわよ!」
私は少年に言った。
「断るっ!」
そういうと、少年はこちらに這いずってきて、上体だけ起こし、剣を構えた。私は上体を起こす気力すら抜け落ちて地面に倒れている。私は目をつぶった。本当に打つ手がなくなった。もうどうしようもない。
『四十パーセント』
その時だった。再度、謎のアナウンスが流れ、少年は、私にとどめを刺すことなく、そのままどこかへ逃げていった。
薄れ行く意識の中に少年の声が響く。
「次で決着をつけよう。最後の勝負だ。二ヶ月後、ホームレス狩りを決行する。その時こそ、ホームレス、お前を殺す」
そして、私たちレジスタンスは三人だけになって事実上壊滅した。
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