正体不明のモンスターの正体と、新たな正体不明の攻撃
殴られたのか、引っ掻かれたのかもわからない。私はの体はジャックの方に飛ばされた。
「大丈夫か?」
ジャックは一目散に駆け寄って来る。
「目立つ怪我はないみたいだな」
私の体に大きな怪我はなかった。それどころか、それほどダメージがあったように感じられない。あまりの恐怖に身が竦んで、致命傷を食らったように錯覚しただけだ。
「おい。愛。大丈夫か? あいつが何を装備しているか分かったか?」
「ええ。分かった。見えない何かがいるわけじゃないわ」
「チッ! しぶといな」
私は立ち上がると、
「見ていて」
ジャックにそういうと、全速力でダッシュして黒髪の少年の元に剣で攻撃をした。力一杯足を地面を蹴りつけ、地面にパワーを伝える。そして、空気を切り裂くほどの大振りの連続攻撃で黒髪の少年を攻撃する。渾身の力を込めた私の剣は空気中の砂つぶを砕きながら空に銀色の軌跡を描く。
黒髪の少年は呆気にとられながらも、必死で私の攻撃を防ぐ。二発、三発と私の攻撃が彼の剣にぶつかる。その度に黒髪の少年の顔は曇っていく。私は、息つく間もないほどの連続した鉄の鞭を彼に浴びせかけた。そして、私の鋭い刃はついに彼の腕を捉えて切り裂いた。そして、彼の黒い剣は、彼の手を離れて、大きく空中を飛んだ。私たちの背後の地面に音を立てて突き刺さる。彼は丸腰になった。
砂漠の地面に熱い血が溢れて染みる。染められた砂漠の砂はまるで一輪のバラのようだ。砂漠に不釣り合いな血の花は私の優勢を、絵に描いたように表している。
「思った通りね」
「俺の装備能力がなんなのか分かったのか?」
「あなたが増備しているのは“念動力”でしょ?」
私は、この作戦の最初の場面を思い出した。
「なにこれ?」
目の前の意味不明な物体を見て私の口からこぼれたのは、疑問符を伴った台詞だった。
「伏せろっ!」
先生の怒号が空気を切り裂く。そして、巨大な爆発音とともに渓谷が吹き飛ばされて消えた。レジスタンスは壊滅した。
あの時、私が見たのは見たこともないような物体だった。蓄音機のような機械が“馬の蹄と車輪の音”を大音量で流しながら、独りでに空を浮遊していたのだ。きっとあの音源は事前に、実際に砂漠で馬車を走らせて録音したのだろう。
そして、その蓄音機を先頭にして、一列に爆弾のようなものが同じように独りでに空中浮遊していたのだ。
「あなたの作戦はこうよ。事前にレジスタンスの作戦情報を入手したあなたは、待ち伏せしているレジスタンスをその上から待ち伏せした。念動力を使って爆弾を私たちの待ち伏せしている場所に送り込み爆発させる。その後、生き残ったレジスタンスを数の暴力で抹殺する。違う?」
黒髪の少年は何も答えない。沈黙もまた一つの返事だ。
「誤算だったのは先生の電撃能力。あの力があそこまで強いとは思っていなかったでしょ?」
「いや、想定内だ。こちらも結構カツカツでな」
「そう。そして、不利を察したあなたは逃げ出した。私とジャックに追いつかれ、戦闘になった」
「さっきの見えないモンスターの正体はなんだったんだ?」
と、ジャック。
「一番最初の攻撃から順番に説明するわ。まず最初に、私の後頭部に謎の打撃が当たった。あの時は出血するほどのダメージがあった」
私は、脳裏にあの時の光景を鮮明に思い描いた。
私は後頭部に強い衝撃を受けた。
「きゃっ!」
痛みから生じた悲鳴と共に、私は背後を確認する。しかし、そこには誰もいない。ただ、瓦礫の山の隙間から砂漠の熱砂が風に乗って飛んでいるだけだ。
「あの時、私の後ろから石か何かを念動力で飛ばしてぶつけたはずよ」
「でも愛の背後には何もなかったんだろ?」
「ええ。それも念動力を使ったの。黒髪のあなたは、最初の一撃で放った石を念動力で細かく砕いて私の服に混ぜた。そうすれば、背後から謎の一撃を食らったと私たちを焦らせることができるでしょ」
「なるほど、すぐに武器を隠していたんだな」
「このことから人間に対しては使えないのでしょうね。もし、使えるのなら、有無を言わせず、一瞬で私の体を石に叩きつけて即死させるはずよ」
「砂漠につけられた足跡はなんだったんだ?」
「足跡は、砂つぶを少しだけ念動力で操って生み出したもの。見えないモンスターなんて最初からいないわ」
「なら、髪の毛が独りでに動いたのも念動力ということになるな。でもなんでそんな回りくどいことをしたんだ? 最初の一撃みたいに石をぶつけた方が強いんじゃないのか?」
「その通り。だけど、それは無理だった。彼の念動力には制限があるはずよ。持てる重さや持続時間には限りがあった。だから、大量の爆弾、大きめの石、砂つぶ、髪の毛の順番に念動力で操る対象が軽いものに変わっていっている」
「なるほど、じゃあ、もうあいつの念動力は怖くないってことだな?」
「ええ、最初から見えないモンスターをいるように信じ込ませるなんて、はったりみたいな技を使ったのもこの裏付けになる。おそらく相当体力を消費するはずよ。一日の使用上限も決まっているのかもしれない」
「最後に、いきなりあいつに突っ込んで連続して攻撃したのはなんでだ? がむしゃらに突っ込んでいったようにしか見えなかったけど?」
「あれはがむしゃらに突っこんでいったのよ。力一杯地面を蹴りつけて、渾身の力を込めて切りつける。そうすれば念動力があっても力づくで突破できると思ったの。事実、あの時何かに袖を引っ張られたり、足元の砂が動いたりしたけど効かなかったわ」
「さっきからずっと黙っているけど、反論はしないのか?」
ジャックは黒髪の少年に勝ち誇ったように言った。
「ふー。全てあっている。だけどひとつ見逃しているな」
黒髪の少年は手を私たちの方へ向けた。
私とジャックはそれを見て少し警戒を強める。そして、彼の元に先ほど吹き飛ばされた黒い剣がゆっくりと念動力で飛んでいく。黒い剣が独りでに空気の間を滑っていく。意思を持った生き物のように、無機質に、淡々と空を泳ぐ。不自然な現象だが、やけに心に残る光景だった。そして、彼は再び黒い剣を構える。まっすぐに切っ先をこちらに向けている。
「一体何をするつもり? こちらは二人いる。あなたは一人で、装備している能力もばれた。私たちはあなたを挟み込んで、前後から攻撃を仕掛ける。あなたはどうあがいても私たちに勝てない。完全にあなたの負けよ」
私は彼の敗色濃厚な戦況を告げた。そして、
「俺のつるぎは悪を砕く。死ねっ!」
彼が怒鳴り声を上げた瞬間に、私は突然致命傷を受けて、地面に倒れた。
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