レジスタンス壊滅

[王城 黒髪の少年視点]

玉座の間は荘厳で煌びやかだ。この貧困にあえぐ国とは対照的。この玉座だけ見ても、王様が国民から何もかもを搾り取っていることが見て取れる。


金と赤の贅沢なカーテンが玉座の壁を飾る。緑と銀の輝く絨毯が玉座の地面を彩る。王が座る椅子は巨大な宝石でできていた。一つの宝石をくり抜いて無理やり椅子にしたのだろう。こんな巨大な宝石見たことがない。王の周りには数人のガードがいる。どいつもこいつも宝石のような装飾をふんだんにあしらった武器と防具をつけている。


「今回のお前の任務は、レジスタンスどもの処刑だ」

王の低い声が玉座に響く。彼の命令は、がらんどうとした玉座の壁に反射して俺の耳に嫌に残った。

「はい」

「体の調子はどうだ?」

「かなり悪いです」

「そうか。それは残念だ」

王の台詞の後に少しだけ沈黙が流れた。

「もう行け。しくじるな」

「はい。この命の最後のともし火が消えるまで、私の魂は王の御心のままに。俺のつるぎは悪を砕きます」

俺の声はナイフのように鋭く尖っている。窓から差し込む光が玉座の宝石に当たって砕ける。分断された光の流れは宝石の内部で乱反射を起こしながら周囲に色を放つ。それがたまらなく不快だった。



そして、レジスタンスと王国の二つの勢力はぶつかり合う。火花を飛ばし、刃を交える。流血なしではこの戦いは終われないのだ。






[愛(ホームレス)視点]

巨大な渓谷が口を空に向かって大きく開く。ここはかつて巨大な川だった。あまりに深く大きな川はかつて国を分断していた。東と西で二つに分かれ、そして、対立を生み出した。左右の国はお互いがお互いを羨み、妬み、殺しあった。本当は左右の国の雨量や作物量はさほど変わらなかった。


だけど、人間とは隣の人間の芝生が青く見える生き物なのだ。どうしても他人の幸福を喜ぶことができない。横の人間が失敗したり、苦しむと、心の底から湧き上がってくるのは歓喜と幸福。横の人間が成功したり、喜ぶと、胸の中に渦巻くのは嫉妬と憎悪。この世で最も醜い生き物はきっと人間なのだろう。

お互いがお互いを尊重し合い、助け合うことができるのならホームレスになる人なんて一人もいないはずだ。


ホームレスを生み出しているのは、他の誰でもなく見て見ぬ振りしかしない人間なのだ。


巨大な川はもう干からびて無くなっている。代わりに、ここには深さ二百メートルほどの轍が刻み込まれている。周囲の砂漠の中にうまく溶け込む巨大な亀裂は、この国の生命線。流通路となり食料などを隣国から買う時に商人が通る。

「そろそろ時間だ」

私はジャックの方を見ると軽く頷いた。


私たちは、王国が大量破壊兵器を輸入すると聞いた。そこで今回の作戦では、この流通路で待ち伏せをし、兵器を奪う。敵は当然厳重体制だ。だがこちらも総力をあげて立ち向かう。渓谷の底の部隊と、亀裂の上の部隊に分かれる。私とジャックと先生は下の部隊で直接本隊を叩く。

「合図だ! 配置につけ!」

私とジャックは谷の右側の岩陰、先生は左側の岩陰に隠れる。遠くから馬車の車輪が砂利を砕く音が聞こえてくる。聞きなれたこの音は、いつもと違ってやけに緊張感があった。砂漠の熱砂が風に乗って私にぶつかる。渓谷を吹き抜ける風は暖かくて気持ちが悪かった。


私の肌の上から汗がこぼれ落ちる。貴重な水分は地面の中に溶けてシミを作った。体表を粘つく何かが舐めていく。頭の中に失敗のイメージが浮かぶ。どうして人間はいつもネガティブなイメージばかり浮かべてしまうのだろうか? そんなことをしてもなんの助けにもならない。ポジティブなイメージを浮かべて、自分が成功することを頭に描いた方がいいはずなのに、嫌な想像を描かずにはいられない。

私は、作戦が失敗し、自分が殺される想像を脳の隅に押しやった。そして、自分が成功するイメージだけを脳裏の中に描いた。


車輪がこちらに近づいてくる。馬の息遣いが聞こえてくる。馬と車輪の音に混じって聞こえてくるこのリズムはなんだ? それは、私の胸当ての中から聞こえてくる心臓の爆音だった。

「今だ!」

先生の合図とともに、私たちレジスタンスは岩陰から馬車の前に飛び出る。両側から挟み込み、退路を断つ。破裂しそうな心臓が、火花を散らしながら燃える。血液は激流となって体の中を走る。

そして、私が先ほど頭の隅に押しやったネガティブなイメージはすぐに脳の隅から引きずり出され、現実のものになった。


「なにこれ?」

目の前の意味不明な物体を見て私の口からこぼれたのは、疑問符を伴った台詞だった。

「伏せろっ!」

先生の怒号が空気を切り裂く。そして、巨大な爆発音とともに渓谷が吹き飛ばされて消えた。レジスタンスは壊滅した。

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