作戦前
[作戦の数日前]
季節は秋になった。木々は季節の移り変わりとともにその顔色を変えていく。枝の先まで赤に染められた木々はまるで血を流しているようだ。赤、オレンジ、黄、様々な色が森を荘厳に綾なしている。
冷たい空気が私の頬から熱を攫う。石畳の高台からしばらく木々を見下ろしていた。上から見る紅葉は綺麗だった。眼下を染め上げる無限の絨毯は、見る者の心を奪う。綺麗な風景は、私の水晶体の中を突き進み、網膜にその姿を写す。網膜に映った刺激は、受容体を通り、私の感覚神経に音を立てて突き刺さる。脳に受け取った刺激は、強烈な印象とともに海馬に深く刻み込まれた。
黄昏れる私の方に誰かが近づいてくる。乾いた空気を乾いた靴音が切り裂く。石畳と革靴が軽快な心地よいメロディーを私の耳に届ける。ジャックは私に声をかけた。
「副隊長!」
「何?」
「そろそろ時間だ」
「わかったわ」
「何を見ているんだ?」
「紅葉よ」
「紅葉か。俺は紅葉が大嫌いだ」
「どうして?」
「両親が死んだ日をいつも思い出す。あの日もこんな綺麗な紅葉が映えていた」
「そう。確か詐欺で騙されたのよね?」
「ああ。俺の両親は詐欺で騙されて死んだ。いつか必ず両親の仇を討つ。そのためにはどんな手段も厭わない」
そういう彼の瞳からは後ろ暗い何かがこぼれ出ている。隠しきれない黒いものが涙のように目から溢れているような気がした。
「絶対に?」
「ああ。絶対だ!」
「なら約束しましょう」
「約束?」
「ええ。私はこの世界からホームレスをなくしたい。あなたは両親の仇を討つ。お互いがお互いに約束するの。そして、お互いがお互いを助けて協力し合う。そうすれば、願いが叶う気がするでしょ?」
私は右手の小指をジャックの方に向けた。
「ああ。約束する。俺はお前がピンチに陥ったら必ず助けに行く! 何があってもお前のことを守るよ!」
「さあ。そろそろ行きましょう!」
私は先生との修行を続けながら、様々な任務についていた。任務の内容は、全て王国と敵対するものだった。王国がホームレス狩りをするなら私たちレジスタンスがそれを防ぐ。私たちレジスタンスが王国の勢力を潰す急襲作戦に出ると、反対に王国の勢力がそれを防ぐ。その時にはいつもあいつがいた。私をゴミのように殺そうとした黒髪の少年が。あいつは一体誰なのだろう?
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