とある少年と少女の昔話(3)

「あっ!」


 神野さんが俺の言葉を聞いて、慌てて自分の両手で口を塞いだ。

 俺とえいくんが体験した事を、神野さんが話していた……それはつまり……。


「……しまったな~……さっき昔話をしていたから、つい流れでしゃべっちゃった……流石に誤魔化せる状況じゃないし、しょうがないか……ふぅ~……久しぶりだね、ハルくん」


 頬を掻く神野さん。

 その仕草を見た一瞬、神野さんとえいくんが重なったように見えた。

 やっぱりそうだったのか? えいくんって神野さんだったの? 


「……………………」


 突然、神野さんの口から飛び出た真実。

 衝撃過ぎて言葉が出てこない。


「えと、ごめんね……いきなり、こんな話をしても訳がわからないよね」


 はい、訳がわかりません。

 頭の中が真っ白です。


『本当よ、全然意味がわからないわ。ねぇ、これはどういう事なの? アタシにもわかる様に説明しなさいよ! ねぇってば!』


 横にいる女神がぎゃーぎゃーと騒いで非常にうるさい。

 説明しろって……今の流れで出来ると思うか?

 どういう事なのか俺の方が知りたいっての。


「……あっいや、神野さんが謝る必要なんてないよ……ちょっと驚いたけど……」


 けど、そんなメイティーのアホな発言のおかげで気持ちに余裕が出て来たし、止まっていた俺の思考も動き出した。

 本当はメイティーなんかに感謝なんてしたくないけど、今回ばかりは感謝しないといけないな。


「……えーと……いくつか聞いてもいいかな?」


「……うん、いいよ」


 神野さんに説明してもらいながら、話を整理していこう。

 まずは一番大事な所から。


「神野さんは、えいくんでいいんだよね?」


 これに関したらほぼ確実なんだが、本人の口からちゃんと聞いておきたい。


「そうだよ……ハルくんが【えい】と呼んでいた子は、私」


「そっか……」

 

 本人が言うのだから間違いない。

 はは……まさか、とっくの前にえいくんと再会していたなんて思いもしなかったな。


「でも、なんで名前を聞いた時に【えい】って言ったの?」


 【めい】と【えい】。

 名前の感じは似てはいるけど、偽名を使う必要なんて……。


「あ~その事なんだけど、私はちゃんと【めい】って言ったんだよ。ただ、私の舌足らずのせいでハルくんには【えい】って聞こえちゃったみたいだね」


「へっ!?」


 それって、ただ単に俺が聞き間違えてたって事じゃないか!

 ぎゃああああああああああああ! なってこった!!

 名前を間違えるって、ものすごい失礼な事じゃないか!!


『はあ!? 貴方ったら、女の子の名前を間違っていたの!? サイテーね!』


 グハッ! メイティーにも指摘された!

 やめてくれ! 自分でも反省しているんだ!

 それ以上、傷口を広げないで!


「今まで名前を間違えてて、ごめん!!」


 小学生の俺は何をやってんだか!


「あははは、そんな事は気にしなくていいよ。私も訂正しなかったしね。でも、今考えるとめいくんって呼ばれる方がきついかな」


「はっ!」


 そうだよ、そこもじゃないか。

 昔の神野さんは、男の子によく間違えられたって言っていた。

 そして、俺も完全に神野さんを男の子と勘違いしていた1人だ。

 これまた、失礼な事じゃないか!!


「男の子と勘違いしてて、ごめん!」


『はあ!? 貴方ったら、女の子を男の子と間違っていたの!? サイテーね!』


 グフッ! いちいち傷口を広げるような事を言わないでくれよ!

 ああ、本当に小学生の俺は何をやってんだか!


「あ~……それに関したら、謝る必要なんて全くないわ。むしろ、私が謝らないと……」


「……ん? どういう事?」


 神野さんが謝る?


「あの時、私が女の子だってハルくんが知ったらもう遊んでくれないと思った。寂しい想いをしていたからそんなのは嫌だった……だから、ハルくんが私を男の子と勘違いしていたのを良い事に、ずっと黙って騙していたの……ごめんなさい」


「そう、だったんだ……」


 なるほど、そんな理由があったのか。

 そんな事は気にする必要なんてなかったのにな。

 小学生の俺は、男だろうが女だろうがそんな事なんて気にせず遊んでいたしな……まぁ今はちょっと照れが入っちゃうからできないけども。

 ……そう考えると当時の俺ってすごいなー、あの気持ちが今もあればよかったのに……どこで落としちゃったんだろ。

 おっと、今はそんな事どうでもいいか。


「事情は大体わかった……けど、神野さんは俺だと気付いていたのに、どうしてその事を話してくれなかったの? せっかくの再会だったのに」


 神野さんと知り合って、もう1年以上たつ。

 その間に思い出話として、話してくれても良かったのに。


「あ~それはね。ハルくんと再会して、私はすぐに気付いたんだけど……」


 んんん……確かに気付けなかったけど、そりゃあ無理があるって。

 だって、俺にとっては神野さんとえいくんとで性別が違うんだし。


「あっ! 攻めているんじゃないよ! 女としての私に気付かないのは当たり前なんだし! ただ、この髪留めを見ても何の反応無かったから……私……いえ、えいの事を覚えていないんだと思っちゃって……」


「髪留め?」


 それって、神野さんがいつも着けている赤いハートの髪留めの事だよな。

 んー? はて、えいくんと髪留めになんの関係が……あっそういえば昔、ランダムガチャガチャで!



 ◇◇約10年前◇◇


「今日は何が出るかなーっと……ん? なにこれ?」


 輪っか状のゴム紐に、赤いハート型のプラスチックがくっ付いているのが出たぞ。

 これって……腕輪かな? まぁ何にせよ、これは外れだな。

 まったく、おばちゃんにも困ったもんだよ。

 もっと男らしい物をガチャガチャに入れてほしいな。


「……ジ~」


 ん? えいくんがハートの腕輪をジっと見ている。

 こんなものが欲しいのだろうか? ふむ……だったら、これはえいくんにあげよう。

 別にいらないしね。


「えいくん、これあげるよ」


「……え! いいの!?」


 おお、すごい喜んでいる。


「うん、僕はいらないし。はい」


「わ~! ありがとう! 一生大事にするね!」


 一生って、えいくんったらオーバーだなー。


 ◇◇◇◇


 ……。

 …………。

 ………………ああっ!


「あああああああああああ!! あの時のあげた奴だ!!」


「そうだよ、思い出してくれた?」


 小学生とはいえ、髪留めと腕輪の区別がついていなかったなんて俺ってアホ過ぎる。

 にしても、本当に大事に使ってくれていたんだな…………あれ? ちょっと待てよ。

 前に神野さんは、あの髪飾りに対して大切な人から貰ったって……。


『えっその髪飾りをあげたのは貴方なの? ……って事は、この娘の大切な人って貴方だったわけ!?』


 だよな!? やっぱり、そうなるよな!!

 うおおおおおおおおおおおお! なんて展開なんだ!!


『あれまあ~……そんな事があるのね。事実は小説より奇なりって言葉があるけど、まさにその通りだわ。この言葉を作った人の子はすごいわね』


 なんかことわざで感心しているけど、普通こういう運命的な事を起こすのが女神じゃないの?

 本当にこいつは、一体何のためにここに居るのだろうか?

 その事実を俺は知りたい……。

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