とある少年と少女の昔話(2)

 昔の事とは言え、その男の子には嫉妬をしてしまう自分が情けない。

 しかも小学生相手だぞ。

 俺もまだまだ子供だな……。


《あ~あ~聞こえますか~?》


 教室のスピーカーから、香夏子の声が聞こえてきた。


《大丈夫そうね……お待たせしました! それでは、今から後夜祭を始めます!》


 お、いよいよ最後のイベントか。

 グラウンドの様子は……丁度、組まれた木に委員会の会長が火をつけている。


「おぉ~火がどんどん大きくなっていくぅ」


 燃え上がる火を夜中に見ていると、何だか幻想的だなと感じる。

 グラウンドに出ている生徒たちも様々な想いがある感じだ。

 見とれている人、テンションが上がっている人、肩を寄せ合うカップル……。


(ねぇねぇ、種島くん種島くん)


「っ!?」


 神野さんが俺の耳元で囁いて来た!

 うおおおおおおおおおおお! 神野さんの顔が近い!

 ここまで近くで神野さんの顔を見たのは初めてだ……まつ毛長いなー。

 って、こんなにジロジロと見るのは失礼だろうが俺!


(どっどうしたの?)


(あれあれ)


 あれあれ?

 神野さんが義秋と星木さんの2人を見ているが……。


「なんか幻想的でいいねぇ」


「だなー」


(あっ)


 そうだった、カップルはここにも居たんだった。

 これはどう考えても俺達は邪魔だよな。

 いやはや、神野さんに教えて貰わなかったら俺って完全に空気が読めない子だった。

 神野さんには感謝しないといけないな。

 じゃあ、俺達が今やる事は一つ。


「あー俺、ちょっとトイレに行ってくるわ」


「私も喉が渇いたから、飲み物買ってくるわ」


 適当な理由を言って、この場から去る事だ。

 本当はクールな去り方をしたかったが……トイレしか思いつかなかった。

 ボキャ貧の自分が情けない。


「ああ、わかった」


「いってらっしゃぁい~…………」


 義秋は普通に返事をしたが、星木さんは俺達が空気を読んだこと気に気が付いている様だ。

 行ってらっしゃいの後、声には出してはいなかったけが口の形が「ありがとう」って言っていた。

 お礼を言う事ないよ、全く気が付かない鈍感な俺が悪いのだから。




 とりあえず教室から出たが……さて、どこに行こうかな。

 適当な所で暇をつぶして――。


「しばらくはどこかで時間を潰さないとね……せっかくの後夜祭なんだし、グラウンドに出てみない?」


「そうだね、そうし……ん?」


 それって、つまり俺と神野さんの2人っきりでって事?

 マジかよ! そんな事は全く予想をしていなかった!


「? どうかした?」


「なっ何でもないよ! じゃあ、グッグラウンドに行こうか」


 ヤバイ、心臓がめちゃくちゃドキドキしている。

 今にでも心臓が口から飛び出しそうだ。

 

『あ~~~! 私がいない間に神野 命と2人っきりになっているじゃないの! もう~マーチョにマッソーのせいで出遅れちゃったじゃない! え~と……2人っきりの時の作戦は――』


 急に心臓が落ち着いてきた。

 何でこのタイミングでこいつが帰って来るんだよ!?

 というか、お前が帰ってきた時点でもう【2人っきり】じゃないつーの!

 一生懸命聖書という名の漫画を読んでいるが、頼むから邪魔をしないでくれ……それが一番の作戦だよ。



 メイティーのあれやこれやの言葉を無視しつつ、神野さんと昇降口前にある階段で腰を下ろしてキャンプファイヤーを眺める事になった。

 俺の左には神野さん、右にはメイティー……まさか、同じ顔の女性に挟まれる日が来るとは思いもしなかったな。

 まぁ同じ顔とはいっても、神野さんは穏やかな顔でキャンプファイヤーを見ていて、メイティーは無視していた事に怒っているのかふくれっ面でキャンプファイヤーを見ているという大きな違いはあるけども。


「……」


「……」


 うーん、この沈黙どうしよう。

 何か話しかけた方がいいかな……かと言っても何を話せばいいのやら。

 ここでもボキャ貧のなさに泣けてくるな。

 メイティーさん、こういう時にこそアドバイスが欲しいですよ本当に。


 ――パパパパパパンパン!!


「『きゃっ!』」

「――っ! なっなんだ?」


 キャンプファイヤーから破裂音がしたぞ!


≪ざわざわざわ≫


 キャンプファイヤーの周辺に居たみんなも、破裂音にびっくりして身を下げて動揺している。

 おいおい、一体何があったんだ?


「……ん?」


 その騒動の中に三瓶、馬場、鹿野の三馬鹿の姿を発見。

 しかも、ここからでもよくわかるくらい動揺している……うん、謎は全て解けた。

 あの破裂音の犯人は間違いなくあの三馬鹿だ。


「三瓶、馬場、鹿野!!」


 高井先生が三馬鹿に駆け寄って行った。

 先生もすぐに三馬鹿のせいだと気づいたようだ。


「お前たち何をしたんだ!?」


 下を向いている三馬鹿。


「ちゃんと答えなさい!!」


 高井先生、すごい形相で怒っているな。

 三馬鹿の声は聞こえないが高井先生の声だけはグラウンドに響き渡っている。

 まぁそうなるのも仕方ないか、あれだけの破裂音をさせちゃうとな。


「…………はあ!? 盛り上げようと、キャンプファイヤーに爆竹を少し入れただと!? 馬鹿ものがあああああああああああああああ!! そんな危険な事をするな!! 3人ともこっちに来なさい!!」


 三馬鹿が高井先生に連れて行かれた。

 あれは生徒指導室でお説教確実だな。

 にしても、相変わらず騒動ばかり起こす奴らだ……今回ばかりは同情のよち無し。


「……びっくりした……」


 破裂音に茫然としていた神野さんがぼそっと呟いた。

 ここで、大丈夫だった? とか声を掛けるべきだよな。

 よし、行け! 俺!


「あっあの、神……」


「ぷっ……あははははは!」


 えっ? 急に神野さんが笑い出したよ。

 何? 何事?


「かっ神野さん?」


「あはっあはっ……はぁ~ご、ごめんごめん。昔タコ公園で爆竹を鳴らして、あの3人みたいに怒られた事を思い出しちゃって、つい、思い出し笑いをしちゃった」


 あーそんな事もあったなー。

 どうやって手に入れたのかはっきりと覚えていないけど、俺は爆竹を手に持ってタコ公園にへ行き、バケツの中に入れて火をつけた。

 そしたら予想以上に破裂音が大きくて公園中に鳴り響いちゃって、周辺は何事かと騒ぎになってしまった。

 で、あの三馬鹿の様に色んな人から怒られたっけな。


「あったなー、懐かし……い……?」


 ちょっと待て……どうして、そんな事を神野さんが知っているんだ?

 しかも、今の言い方は聞いた話じゃなくて、間違いなく自分が体験したように話していた。


「なんで、神野さんが怒られていたの?」


 そんなはずは無いんだ。


「……え?」


 何故なら、俺ともう一人の子が怒られたからだ。


「あの時、怒られたのは俺と……」


 その、もう一人の子は……。


「……えいくん・・・・の2人だ」

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