夏の海!(3)

 やばいやばいやばい、チャラ男が指を鳴らしている。

 これはもう俺を殴る気満々じゃないか。

 だとすれば、ここは逃げた方が得策だ!


「――っ!」


「おっと!」


「へっ? ――グベッ!」


 チャラ男の1人に足を引っかけられて、おもいっきり転んでしまった。

 くそっ俺が逃げるのを先読みしてやがったのか。


「おいおい、今更逃げようとするな。よっと……」


「グッ!」


 羽交い絞めされながら起こされてしまった。

 何とかこの状態から抜け出さないと!


「このっ! 放せ! くそっ!」


「ジタバタするんじゃねぇ!」


 くー……駄目だ、完全に力負けしている。

 これを振りほどいて逃げるのは無理だ。

 メイティー、なんとかしてくれ!


『あわわわわ! どっどうしよう、とっとりあえず治癒魔法の準備を!』


 ああ、こっちも駄目だ。

 完全に事後の準備を考えている。

 つか、女神のくせに救出を考えていないのはどうなのか。


「そいつが逃げない様にしっかり押さえつけとけよ」


「おう」


 ううう……何でこんな事が起きるんだ、もしかしてメイティーは何か悪いものに憑りついているんじゃないか?

 だとしたら一度、お祓いをしてもらった方がいいんじゃなかろうか。

 いや、そんなメイティーにクジで当たってしまった俺の方がお祓いをしてもらった方がいいのかもしれない。

 帰ったら寺に行こうかな。


「それじゃあいくぜぇー!」


 って、そんなのんきな事を考えている場合じゃない!

 殴られるのは嫌だ! 痛いのは嫌だ!!

 

「歯ぁ食いしばれや!」


 何とかして逃げ出す方法はないのか? 何か……っそうだ!


「――メイティー! 時間を! 時間を止めてええええええええええええええええ!」


『えっ? あっ!』


 早くしてくれ!!

 じゃないと、チャラ男の拳が俺の顔面に!!。


「オラッ――」


『停止! 停止いいいいいいいいいいい!!』


「…………っぶねぇ」


 チャラ男の拳が目の前まで来て止まった。

 あとコンマ1秒でも止めるのが遅かったら殴られたぞ。


「とりあえず、助かったよ。よっと」


 時間が止まれば、羽交い絞めから抜け出すのも容易だな。

 もっと早くに時間停止に気付けばよかった。


『なぁメイティー。これはどういう状況なんだ?』


 マーチョにマッソーが困惑したようにメイティーに話しかけている。

 こいつ等は時間が止まっていても動けるのか。

 恐らく、俺と同じような加護でも持っているのだろう。


『え~とね……』


 メイティーが2人に事情を説明しだした。

 変な事を言わない限り、俺が口を挟まない方がいいよな。


『……訳なのよ』


『なるほどな、何があったのかわかったが……流石に俺達と人の子の区別はしてくれよ』


 それはごもっとも。

 おかげで俺が殴られるところだった。

 挑発してしまったのは俺だけども……。


『……ごめん』


『まぁいい、もう済んでしまった事だしな。で、俺達はどうすればいいんだ?』


『そうね、時間が動き出したら次は貴方達がナンパを……』


 それない。

 むしろ、それはやってはいけない行為だ。


「却下だ! 1回だけならともかく2連続でナンパされたら、みんなのテンションがダダ下がりになるっての!」


 せっかく、みんなで海に遊びに来ているのにそんな状態だと楽しめないじゃないか。


『え~そんな~』


「文句を言わない。マーチョさんとマッソーさんには悪いがナンパ作戦はなしだ!」


 でだ、このチャラ男たちをどうするかが問題だ。

 このまま放っておいても意味がない、なにせここは海だ。

 こんな限られた場所だと、すぐに見つかってみんなに迷惑をかけてしまう。

 となれば、どうにかしてここで撃退しておきたいところなんだよな。

 うーん、何かいい方法はないだろうか。


『マーチョ兄さん、どうする? 天界に帰る?』


『うーむ、そうだな……』


 あっそうだ、この2人がいるじゃないか。


「あのマーチョさんにマッソーさん、ちょっと頼み事をしてもいいですか?」


『ん? 構わんが、規則に引っかかる事は出来んぞ』


 メイティーと同じで2人にも規則があるのか。

 でも、俺の思い付いた方法は恐らく問題ないだろう。


「えーとですね……」




「――ラッ! ……あれ? あいつが消えた!?」


「あれっ!?」


 おっ時間が動き出したみたいだ。

 流石にチャラ男2人が驚いている。

 まぁそうなるよな、あいつ等からしたら俺が急に消えたように思うはずだしな。


「おい、こっちだこっち」


「ってめぇ! いつの……間……に……え?」


 チャラ男2人の目線が俺の後ろに行っている。

 よしよし、ちゃんと2人には俺の後ろにいるマーチョとマッソーが見えているみたいだな。


『ギロッ!』


「ヒッ!」


『ジロリッ!』


「うっ!」


 俺が頼んだ事は簡単、時間が動き出したらチャラ男2人にちょっとの間だけ加護を与え、マーチョとマッソーの姿だけが見える様にする。

 そして、マーチョとマッソーは何もしゃべらず黙って俺の後ろからチャラ男達を睨みつけるだけ。


「なっなんなんだよ!? これは!」


「おっ俺が知るか! さっきまでこいつらはいなかったぞ!」


 おーおービビッとるビビッとる。

 その気持ちはわかるよ、いきなり俺が消えたと思ったら、次に出て来たのは俺とドデカイボディビルダー2人組が居るんだもの。そりゃあ誰でもビビるわな。


「そう驚くことはない、俺はマジシャンなんだ」


「マ、マジシャンだと?」


「そう、だから瞬時に抜け出したわけ。で、後ろにいる2人は俺の友人でね。申し訳ないけど、身の危険を感じたからここに来てもらったんだ」


 我ながら無茶苦茶な事を言っているなとは思う。

 普通は信じないだろうが、状況が状況だけにこのまま押し切れるだろう。


『よくもまあそんなでまかせをペラペラと言えるわね』


 誰のせいでこんな事になったと思っているんだよ!

 こっちだって必死なんだよ!


「これ以上、俺やあの子達にちょっかいを出すならこの2人が黙っていないぜ」


『フンス!』


『ムン!』


 なんか2人が筋肉を見せるポーズを取っている。

 別にそこまで頼んでいないんだがな。


「……わっわかった、俺達はもうお前達にかかわらねぇ! おい、行こうぜ」


「くそっ! なんなんだよ!」


 チャラ男2人が逃げて行った。

 あー良かった、これでもう大丈夫だろう。

 我ながらよくやったもんだ……。

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