緊張の接近(2)
とにかく廊下に避難したが、これは大丈夫なのだろうか。
さっきよりも理科準備室から黒い煙がモクモクと出て来ているけど。
「あわわわわわ」
「やべぇよ……やべぇよ……」
「……ううう」
三瓶、馬場、鹿野の三馬鹿も流石に青ざめている。
まぁ3人に限らずクラス全員が青ざめてはいけども……。
「どうしたんだ!?」
「おい、何だこれ!」
「みんな、こっち側に来なさい!」
先生達も集まって来たな。
これまた、大事になってきたぞ。
『なになに? なんの騒ぎなの?』
ついでに、元から騒がしい奴も飛んで来た。
『おおっ! なんかすごい煙が出ているわね! あ~すご~い』
完全に野次馬になっているじゃないか。
あっそうだ、メイティーならこの状況をどうにかしてくれるかもしれん。
この騒ぎの中だし、小声でしゃべれば大丈夫だろう。
「なぁあれを何とかできないか?」
『ん? あれって……煙の事?』
俺の言葉に首をかしげている。
いやいや、それ以外に何があるっていうんだ。
「そうだよ。このままだと色んな問題が起きて学校がめちゃくちゃになる可能性があるだろ? だから、どうにか納められないか」
『ん~確かにそうね……それで今後の完璧な計画が崩れるのも嫌だし……わかったわ、ちょっと待ってなさい』
メイティーが理科準備室の中に入って行った。
あのいかにも体に悪そうな黒い煙を吸って大丈夫なのだろうか。
まぁ女神だから大丈夫かな? 何となくだけど。
「おっ」
黒い煙が引いて来た。
中は見えないけど、メイティーがなんとかしたっぽいな。
『よしよし、これでもう大丈夫よ』
メイティーが理科準備室から出て来た。
「本当に大丈夫なのか?」
『このアタシが処理したのよ。安心しなさい』
その一言で不安になるのは何故だろう。
「煙が収まってきましたね」
「そうですが、まだ安心はできませんね。消防が来るまで離れて見張りましょう」
「生徒は教室に戻りなさい。指示があるがあるまで教室から出ない事、いい? わかった?」
中を覗きに行ってはみたいけど……先生に言われたからにはどうしようもないか。
素直に教室に戻るとしよう。
※
――キーンコーンカーンコーン
もう昼休みか……バタバタして時間が過ぎるのが早く感じるな。
あれから消防が来て現場を確認。
割れた薬品のビンが何本かあったものの、中身が全て無くなっていて有毒ガスも発生していないから、危険はないとの事。
それを聞いて、メイティーってなんだかんだで女神だなーと感心してしまった。
ちなみにやらかしてしまった三瓶、馬場、鹿野の三馬鹿は職員室に連れて行かれ、いまだに教室に戻って来ていない。
多分まだ叱られているのだろうが、今回は流石にやばかったからな。
これは仕方ない事だと思う。
「春彦、昼飯食おうぜー」
義秋が昼飯の誘いに教室へ来た。
「おう、ちょっと待っててくれ」
弁当、弁当っと……。
「聞いたぜ、お前らのクラス大変だったらしいじゃないか」
「そうなのよ~流石に冷や汗をかいたわ」
本当にな。
メイティーが居なければどうなって……。
「……あれ?」
手に持った弁当が異様に軽い。
まるで中身が無いような……まさか!?
「――っ!」
やっぱり無い! 弁当の中が空っぽになっている!!
どうしてだ? 確かに今日の朝に入れたのに。
『あ~お弁当ならアタシが食べたわよ。朝ご飯食べてなかったからお腹が空いちゃって』
なぬ! お前が食べちゃったの!?
いつ食べたんだよ、食う時なんてなかっ……そうか、理科室にいる時だ。
なんて卑しい奴、さっき感心したのは無し。やっぱりこいつはろくでもない奴だ。
そんな事より、どうしよう……俺の昼飯……。
「ん? どうしたんだよ、春彦。さっさと飯を……」
「……」
「……お前、まさか弁当箱があるのに、中身を入れるのを忘れたのか?」
忘れていない、忘れていないんだ。
教室移動前まではあったんだよ。
けど、そこのポンコツ女神が食べたとも言っても信じてもらえるはずもない。
ここは素直に首を縦に振るしかない。
「おい、マジかよ! 購買に行っても前と同じだろうし……今日はコンビニ弁当だから、多くは分けられないぞ」
これは、昼飯抜きかな。
午後の授業を果たして乗り越えられるだろうか。
「へっ? 春彦、お弁当忘れたの?」
「理科の時といいぃ、ハルルンったら忘れん坊だねぇ」
「……種島くん。……よし……えと、私のおかずで良かったら分けようか?」
「へっ?」
マジですか!
神野さんが、そんな事を言ってくれるなんて思いもしなかった。
「……しょうがないわね~私のも分けてあげるわよ」
「じゃあわたしもぉ」
3人が空の弁当箱におかずを入れてくれている。
女神はここにいた! 3人の女神サマが!
『……こっこうなる事を見越してアタシが中身を食べたのよ、作戦成功ね! さぁこれを切っ掛けにドンドン会話をしていきなさい!』
計算通りと言い張っているメイティー。
偶然だ……絶対に偶然に違いない、この女神にこの未来が見えているわけがないもの。
「この玉子焼きは私が作ったんだ……口に合えば良いけど……」
「え? あ、そっそうなんだ」
うおおおおおおおお! 神野さんの手作り!
俺は楽しみを最後まで取って置くタイプだから、この卵焼きは最後に食べよう。
「皆ありがとう! いただきます! はむっ」
おいしい、自分で入れたものよりおいしく感じる。
これがやさしさの味か……。
「うまい! うまい! うまい!」
「大げさな奴だなー俺のはコンビニ弁当だぞ」
「わたしのあげたおかず、おいしいでしょぉ」
「何がおいしいでしょぉ、よ。美冬の嫌いなニンジンをあげてたくせに」
「わたしは嫌いだけどぉ、おいしいってみんな言うからいいじゃないぃ」
「ふふっ」
義秋と二人で食べるのが嫌という訳じゃないが、こうしてみんなと会話しながらもいいよな。
さあ、いよいよ最後の卵焼きを食べる時だ。
噛みしめて味わって、味の感想を神野さんに話す。
そして、メイティーの言う通り話の切っ掛けを……。
『なに、貴方卵焼き嫌いなの? じゃあアタシが食べてあげるわ』
「……え? あっ!」
一瞬でメイティーに卵焼きを盗られてしまった!
『あ~……んっ! おいひ~』
あああああ!
俺の卵焼きが食われたあああああああああああ!!
「あっ種島くん食べ終わったんだ……あの、卵焼きどうだったかな?」
どうだったかなって言われても、一口も食べてないからまったくわからない。
かと言って、何も言わないのも失礼すぎるし。
「おっおいしかったよ! すごくおいしかった!」
嘘を言ってごめん、神野さん。
「そっか~良かった~」
神野さんが笑顔で俺を見ている。
その後ろで全く同じ笑顔をした奴が、やったねって感じで親指を立てている。
確かに神野さんの笑顔を見れたのは嬉しい、嬉しいけどあまりにも心苦しすぎるんだよ!
なんだよ、この複雑な気持ちは!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます