終章「木漏れ日の中で」
6-1、聖樹《ユグドラ》
◇ ◇ ◇
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さて、どれほどの時間が経ったのだろうか。
1年、10年、あるいはほんの数時間なのかもしれない。
オレの意識は、光の道を歩き続けていた。その中では、オレの人生の記憶が時系列もバラバラに映し出されていた。
過酷な迷宮潜りをしていた時代、オルテシアたちに拾われて
こうして振り返ると、悪くない人生だった。
大した才能も持たない凡人のオレにしては、よくやった方だと思いたい。
そのまま歩き続けていると、光がぼんやりと集まってきて人の形となった。そこに現れたのは、懐かしい姿だった。
「シグルイよ。ずいぶん疲れているな。先に歩いていったお嬢が待っているぞ。もう少し頑張れ」
総白髪の筋骨隆々な初老の男。かつての
ギーランは優しげな笑顔で励ましてくれた。
「……あぁ、わかってるよ。あいつを待たせたら、機嫌が悪くなっちまうからな」
「はっはっは。その通りだ。我も長くお仕えしているが、お嬢の機嫌を取るのは至難の技だからな」
オレが苦笑しながら答えると、ギーランは笑顔のまま光に戻って消えていった。
多分、これもオレの記憶の断片なのだろう。だけど、本当に話ができたみたいだった。久しぶりに昔の仲間と会話をして、オレは嬉しくなった。
もう少し進んでいくと、今度は光の塊は少女の姿となった。
「呆れた。まだこんなところにいたの? 早く行かないと怒られるわよ」
勝気そうな顔をした、赤毛の小柄な少女。仲間の1人だった
シュナは他人を寄せ付けないような態度を取りがちだが、実は思いやりの心を持っていることをオレは知っている。
「そう言って、お前は待っていてくれたんだな、シュナ」
「はぁ? あんたなんか待ってないわ! い、一緒に怒られる相手を探してただけよっ」
シュナは髪の色に負けないくらい顔を赤らめると、ぷいとそっぽを向く。その表情が少しだけ笑っているのをオレは見逃さなかった。少女もまた、光になって周囲の風景と同化していく。
オレは道を歩き続けた。
映し出される記憶の光景が少しずつ消えていって、視界が光に塗りつぶされて真っ白に変化していく。あまりに眩しくて、オレは腕で顔を覆った。
徐々に光が収まっていく。オレは恐る恐る目を開けた。
「なん、だ……こりゃあ……!」
オレは目の前に広がる光景に、呼吸も忘れて見入ってしまった。
そこには見上げてもなお足りず、天上を覆い尽くすように枝葉を広げた、巨大な、巨大な大樹がそびえ立っていたのだ!
説明されなくともわかる。
この大樹の名は——
「
女神イサナがこの世界に秩序をもたらした時に生み出したとされる巨大樹。この場所で、命を落とした冒険者の魂は傷を癒し、再び世界に巡り還るのだという。
この場所に来てしまったということは間違いない。オレは、死んだのだ。ベレスとの戦いで、力の全てを出し切って、そして役割を全うしたのだ。
現世に心残りがないわけではない。ただ、自分が立派に戦ったのだと認められたことが少しだけ嬉しい。
オレがいつまでも
「——久しぶりだな、シグ。少し合わない間に見違えたじゃないか」
聞き覚えのある声だった。
息を呑んで声がした方を向くと、そこには輝く銀色の髪を風になびかせた美しい女性が立っていた。
忘れるわけがない。
その声を、その顔を。
オレの中にはいつも彼女がいた。オレを孤独から救ってくれた、銀の勇者。
「オル、テシア……!」
オレが彼女の名前を呼ぶと、銀色の髪の女性——オルテシアは穏やかに微笑んだ。
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