第4話 琴葉先輩

「しぃぃぃろぉぉぉたぁぁぁあ!!!!」


 部室を開けて、突然、飛びかかってくる影。


 ヤバい!!


 身を低くしてかわした後、そのまま鞄を投げ捨てて、部屋の奥まで一気に走る!!

 着地した相手が、オレの方に向き、脚にタメを作って────床を蹴った!

 素早い!! 

 急激に距離を詰め、蹴りが繰り出される。


 あぶねぇ!!


 腕にを曲げて、防御の構えをとる。相手の短いスカートが、ヒラリとひるがえった。


 めくれ……


 ガッシィィィ!!!!


 豊満な胸が、ぷるんっ! と振動で、美味しそうに弾み、肉付きの良い、健康的な太ももが露わになる。


 パ、パ、パ、パンツがああああ!!!!!


「ちょおおおおっとっ!!!! み、見える!!」

「隙あり!!」


 うぉぉぉお!! パンツじゃなくて、パンチが飛んで来たぁぁぁぁ!!!!


「オレンジィィィ!!」

「とあァァァァ!!」


 色々な意味で鼻血を飛び散らせ、スローモーションで、後ろに、倒れていく。周りでは数少ない、部員たちが笑い転げていた。


 お前ら、助けてくれよ!!


「イタヒです……琴葉センパひ……」

「遅いぞ! し〜ろたっ」


 腰まであるまっすぐな銀色の長い髪が、目の前で揺れた。しゃがんで、オレを見下ろした琴葉先輩が、頬杖をついて、悪びれもなく、にっこりと笑っている。


 胸がギュッと寄せられて、果敢なお年頃であるオレには、目に毒な谷間が深くなった。あの間に、あれコレ挟んでみたいと思うのは、男であったら誰しもが考える事だろう。


「先輩、オレにあたり強くないですか?!」

「何を言ってるんだ? 私は、お前を気に入ってるからこそ、可愛がってるんだゾ〜?」


 この人は、行峯琴葉ゆくみねことは。もうすぐ引退を控える、軽音部の部長だ。少々、愛情表現は過剰ではあるが、太陽のような熱々あつあつとした声が、オレにいつも元気をくれる。


 てか、ちょっと空きすぎでしょうょ、アンタ。そこもそうなんだが……

 視線が釘付けになったのは、むちむちとした足の間に、たたずんでいる神聖な場所。


「バカ!! 見過ぎだゾ!」

「イテっ!」


 今度は、随分やさしいゲンコツが飛んできた。頭をさすりながら、起きあがって制服をパンパンっと叩く。


「来月の大会を控える、この大事な時期に大遅刻とは、いい度胸だゾっ?」

「だって、日直って……」


 アイツ伝えてなかったのか?


 目を大翔ひろとに向けると、肩を竦めていた。


「日直だといっても、ちょっと遅すぎだゾ?」


 確かに。尾田さんと話して、少し遅くなった自覚はあった。


「すみません、琴葉先輩」

「分かればいいゾ、かわいいなお前は〜♫」


 かわいいって、どこが……?


 頭をうりうりと撫でくられる。男からしたら、かわいと言われるのは、正直、ビミョーではあるが、したわれているという事なんだろう。オレは、なられるがまま、彼女の愛玩あいがんとなっていた。


「軽音部、最後の大会になるかもしれないからな。いい思い出にしたい……」


 琴葉先輩が、淋しそうに眉をよせる。


 弱小な軽音部の部員は5人。部として、ギリギリの人数だ。そこで、3年の2人が引退すると、来年は廃部なってしまう。なんとか、勧誘してこなければいけないのだが……


「城田、たのむ。私たちの部活のために、一人でもいいから、誰か連れてきてくれ〜」


 オレもこのまま、部がなくなってしまうのは、やっぱり寂しい。


「が、頑張ってみます」

「お? お前が頑張るなんて、珍しいな。嬉しいゾぉ〜!」


 ガバりと、頭を抱えられて、先輩の胸に、オレの顔が埋もれていく。

 体を動かした後だからなのか、少し汗でしっとりして、顔に張りついた。ふわふわした感触。上気して熱くなった肌が、オレの顔を赤い色に染めていった。


 やわらかい! やわらか〜い!! それに、いい匂い! おぉぉぉおあああ!!!!!!!!


 窒息しかけている事にも気づかず、えも言わない感触で興奮する下半身。あがなええない男のさがで、涙をながしながら、心の中で、何度もコノミに土下座して謝っていた。

 

「あはは、涙流すくらい嬉しかったのか。コレは前払い分だゾ!」


 チュゥゥッ


 すぐ耳もとで感じる息づかい。頬にやわらかく、弾力のあるものが吸いついてきた。


 キ、キス?!


「ト、ト、ト」

「トトト?」


 琴葉が首を傾げた。


「トイレ行ってきます!!」


 そんな事されたオレは、顔をこれ以上なく赤くさせ、とうとう我慢ができなくなった。勢いよく部室を飛び出していく。


 もちろん、用を出すためじゃない。この体に宿った呪いを、しずめる儀式、をしにいくためだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る