第8話:またもや図書室で
僕は教室から図書室に向かい、扉を開けた。受付のカウンターの棚にまた、本が山積みにおいてあった。
これは前回より時間がかかりそうだとため息をつく。そして古書が置いてある部屋を先生から預かった鍵を使った入った。この前も入ったが何をどうしたらいいかまだ分からないので、すぐに僕は図書室の中に戻った。
自分の本を椅子の近くに置き、近くの椅子に座った。
まず、積み重なった本を分類番号ごとに並びなおす。そして棚が近い物から片付けていく。僕は本を並び替える前に最後の本の最後のページの厚表紙の中の貸出表を確認した。名前の欄が書くところがなくなっていたら新しいカードが必要だ。一冊一冊中身を確認し、貸し出し表に名前・作者・分類の記入し新しい物に変更していく。
確認し終えたものからカウンターに並べていく。黙々と集中して作業に取り掛った。カウンターの上にどんどん積み重ねていく。本を開いては閉じての繰り返す。必要に応じて貸出表を作っていく。
暫く作業を続けていると時間が経っていた。
「埋もれている人発見。」
「えっ。」積み重なった本の上にから覗き込んでいる舞が目の前にいる。
積まれた本の間から手を伸ばして本を差し出してきた。ぶっきらぼうに「返却に来たよ。」だけ僕にいった。
「もうそんな時間?。」出された本受け取って、丸く硬くなった身体を両手を上げて上に伸ばして背伸びする。
ぐーっと身体を伸ばして縮んでいる筋肉をゆっくり伸ばしていった。筋肉の繊維一本一本がビリビリ伸ばされている感覚がする。そして、首や肩を回してから舞やから預かった本を受け取り貸出表に判子を押した。「はい。お預かりしました。」と図書委員っぽく振舞う。
舞はなにそれへんなのって言いながらくすくす笑っていた。本の山をみて「まだ、終わらないの?」と問いかける。
「いやー学校始まってからの返却された本を棚に戻して終わり。まだ委員決まってないからしょうがないよ。」
僕は身体を捻りながら舞に「今何時位なの?」と確認しすると、「4時30分位かな。」とカウンターの奥の上壁に掛けられている時計を指さしながら僕に答えた。
「田中先生、担当なのに片付けてなかったのね。」
「田中先生なら面倒臭いってやらなさそう。まあ、先生も忙しんだろうね。」
先生の事に文句言ったって本は片付きませんから。と分類した本を見渡した。
一時間以上も座って作業していたらそりゃ身体も痛くなるわけだと思い、椅子から立ち上がり、同じ分類の本をまとめて持って本棚に向かった。
僕は本棚に本を片付けていると、舞が文庫本の小説をもってカウンターの方から大きな声を出した。
「この文庫本どこに戻すの?」
舞と文庫本は確認せず、作業をしながら声に出す。
「窓側のテーブル席の近く。」
舞の足音が聞こえる。窓際のあたりで「あった。」と声が聞こえた。
「よく憶えてるわね。」とまた、大きい声が聞こえてくる。
「そりゃあ。よく図書室来てたし。」手元の本を戻し終わってカウンターにまた戻る。積まれた重そうな文芸書を抱えようとした時に本を文庫本を戻し終えた舞が「手伝おうか。」と助けの手を差し出してくれた。
僕は本を持ったまま舞に「大丈夫だよ。」と一言伝え、後ろ向きに「重い物は僕がやるから。舞は軽そうなやつお願い。」
「りょーかい。」と本をもって本棚に向かってた。
舞が手伝ってくれて本当に有難かった。一人でだったら時間かかりそうだったと思った。舞が時々本の場所を確認をするため話しかけてくる。僕は舞に教えながら作業を暫くの間続けた。
小さめの本を片付け終わった舞が僕の所にきて手伝うよ。と寄ってくる。
僕は「ありがとう。」と舞に感謝して反対側の本棚にしまうようにお願いした。互いに背を向けないながら無言で作業を続けていると、舞が静かに口を開いた。
「あのさ、今日お昼休みどっかいってたの。」
お昼、今日のお昼。島崎さんと食べてましたーなんてさらっと言えるものなのかどうか思案する。
どう返答していいものか分からず焦ってしまう自分がいる。特別隠す必用なんてないと思いつつも僕は何も言えないまま作業を続けていた。すると舞も無言のまま作業を続けていたが、僕にまた質問してきた。
「いや、その問い詰めてるつもりはなくて、お昼休みにずっと教室にいなかったからどこかでお昼食べてたのかなって。」
「うん。その友達に誘われて一緒にご飯食べてたんだ。」
嘘はついていない。嘘は。内心ひやひやとしている。ふーんと生返事をする舞を後ろに向きを変えてゆっくりと様子を窺おうとすると、舞はこちらをじっと見つめていた。
しゃがんでいた僕は舞から見下ろされる状況だ。起こっている訳ではないだろうが、何か威圧的なものはとても感じる。おそるおそる顔を上げて上をみる。
肩口まで切りそろえられた髪が前に流れてさらさらと僕の顔にかかっている。物理的に距離が近い。舞の息遣いや体温がもう直に感じられる距離だ。舞はじっと僕を見つめて何か見透かそうとしているような、探るような感じでじっと僕の眼を見つめ続けている。
舞との距離が思いのほか近かったため、僕はそのまま手元の本を手探りで探し、本を手に取り身体を捻って作業に戻ろうとした。
「ねえ。」
「はい?」逃げられない。じりじりとにじり寄られてもう本棚が背中がご対面している。身体中から冷や汗が噴き出てくる。疚しいことなんてしてないのに。舞は僕が誰とお昼を食べたか何故そんなに気にするんだ。僕はお前が誰と食べてたって今日の今まで気にしたことなかったぞ。と心の中で悪態をついた。
舞が口を開いたときに扉の開く音が僕の耳に入ってくる。
舞の声は扉の開く音と先生の声でかき消された。
「櫻井ー鍵置きにこないから様子見に来たぞー。」
あれ。どこにいるんだ?と僕の姿を探している。僕は舞から目を逸らしてそのまま四つん這いになってその場から逃げ出し、舞から少し離れた場所で急いで立ち上がって先生の所に向かった。
僕の姿をみた田中先生は「やっぱり時間かかったな。」と軽くすまんと僕に謝罪した。
「大丈夫ですよ。途中から渡辺さんも付き合ってくれましたから。」
乾いた声で笑ってごまかした。先生にはこの状況から逃げ出させてくれたことに心の底から感謝したいくらいだ。手伝に来るって忘れていたことも許す。
「なんだ。渡辺もいたのか。」奥のほうから舞が歩いてきて先生に向かって「先生は春休みに本片付けなさすぎでしょ。」
とジト目で見つめる。生徒にやらせすぎでしょと近くのテーブルに手をついてため息をついた。
いや、なんだそのと誤魔化すかの様に苦笑いをして頭をぽりぽりと掻いている。
僕は先生に鍵を手渡してその場を立ち去る為急いでカウンターの鞄に近づいた。
田中先生は思いだしたように僕に声を掛けた。
「櫻井、ごめん書庫の片付けの件はまた今度でいいか。俺どうするのか言うの忘れてた。」
「大丈夫です。その時また鍵貸してください。」
それじゃといそいそと教室を出ようとすると舞がつかつか僕のそばにやってくる。
「孝。」
はいと心の中で返事をし、右を見ると当たり前のように彼女は僕に言う。
「一緒に帰ろ。」
おっと先生が反応して「お前ら同じ方向なのか?」勘ぐるように僕に尋ねる。僕は何も言わないでいると、舞が田中先生に「幼馴染で家が近所なんです。」としれっと言い放った。
「幼馴染ってお前佐藤と昔からの知り合いなのかと思ってたけど、櫻井もだったのか。」意外だな眉を上げて目を見開いている。
僕の制服の腕を引っ張って僕を図書室から引っ張り出した。ぐいぐいとひっぱられなされるがままにされている。
舞ははっきりした声で先生に「そうです。」いい、そのまま僕は図書室の舞と後にした。
先生は取り残されたまま頭に?を浮かべて僕らが小さくなっていく姿を見ているのだろう。もう好きにしてくれていいと、僕は考えることを放棄した。下駄箱で開放されて、しわのになった制服の腕の部分をみた。
深くため息をつきながら下駄箱から外靴を取り出してうち履きと履き替える。
けれど、舞にちゃんと手伝ってくれたお礼はきちんと言わないと言わなければならないと僕は履を履き替えている舞に声を掛けた。
「舞。」
「何?」とぶっきらぼうに返事をしてこちらを見ようとしない。
僕は身体を舞のほうにむけて彼女にお辞儀をしながら口を開いた。
「ありがとう。本の片付けるの手伝ってくれて、舞はいてくれたおかげで思ってたより早く終われた。」
舞は黙ったまま顔を上げて僕の方をみた。
「急になによ。改まってさ。」
「だってさっきは作業しながらだったからさ。ちゃんと顔見てお礼してないし。」
笑いながら僕は舞をみた。そうすると仏頂面だった舞も笑って「なにそれ。」と言った。その後、少しばつが悪そうに「ごめん。」と僕に言った。
「どうしたの。」
「さっき、図書室でなんか言いたくないこと聞いちゃったみたいだったから。」
「あぁ。別に気にしてないよ。大丈夫。」
気にしてないこともないが、このまま舞と気まずいまま一緒にバスに乗るのはごめんだ。
舞は僕に「片付け手伝ったから、あとで、飲み物奢ってね。」
そんなんで機嫌が治ってしまうならお安い御用だ。
「いいよ。何飲みたい。」
「レモンティー。」
「了解です。」
「じゃあ。帰ろう。」僕らはバス停にむかって一緒に歩き始めた。自販機で買った冷たい2本のレモンティーを手に持って歩く。僕から受け取ったレモンティーを飲みながら歩く舞を見ながらほっとした。あの後、舞にお昼の件に関して言及されなかなかった事。
なんか最近図書室で色々なことが起きているなと僕は思った。これ以上厄介なことが起こりませんようにとため息を舞にばれないようにこぼした。
僕は舞と別れて家に着いたらそのまま居間の畳に寝頃がり「疲れた。」と呟く。そして、頭上から母から一言。
「邪魔。」
分かってます。ちゃんと少ししたら退きますので、と母に伝え僕は目をぎゅっとつぶった。
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