第5話

彼女の友達宣言と共に僕は彼女と友達になった。

 友達になったからじゃあすぐに教室で話をするかというのもどうかとなり、彼女はあまり気にしていなかったようだが僕の方から教室で話すことに気恥ずかしさがあると彼女に伝えたら、彼女にしてみれば「友達なのだから気にしなくていいじゃないと。」あまり納得していなかったが、じゃあルールを決めようと彼女とこれからのお互いを知るためにルールを作ることにした。


 ①お互いの事を手紙にして渡す。※週に二人で一通ずつ。

 ②週1回は一緒に帰ること。※互いの近況報告との事。


 2つの条件が出された。

 どちらから手紙を書くのかと決めるのに駅に着くまで決まらず、結局ジャンケンをして決めた。

 僕はパーで彼女はチョキだ。彼女は決着のついた自分たちの手をみて満足そうに笑った。

「それじゃ明日から早速始めよう!」と気合を入れて島崎さんはじゃあねと電車にさっさと乗って自宅へと帰っていった。

 そんな僕は最初の手紙を書くことになったが、何を書いていいのか全く見当がつかない。そのまま、バスに乗ってそのまま自宅へと僕も帰った。

 バスの中で今まで起こった出来事に大きさに頭が追い付いていない。彼女の友達宣言によりクラスメイトからかなりの格上げ昇格した。

 友達なんてなれると思っていなかったから、嬉しくて顔がにやけてしまう。今誰かに顔をみられたら緩み切っていることだろう。

 ぼくは浮ついた気持ちのまま最寄りのバス亭にあっという間に到着し家まで真っすぐ帰った。

 友達になれたことが嬉しくて手紙の事をすっかり忘れており、自宅の玄関まで着いて思いだした。

「便箋買うの忘れた。」


 僕は居間に向かって便箋がないか、手当たり次第に周りの小物ラックや引き出しを探してみた。

 すると騒がしい物音に気付いてか母が台所から出てきた。

「さっきから何をやっているの?」ちょっとその辺散らかさないでよね。と僕を見て注意をした。

「後でちゃんと片付けるよ。」

「本当に。それでさっきから物色して探し物か何か?」

「うん便箋があれば一番いいけど、なければ封筒とかないかな。」

 便箋ねぇ…どこにしまったか思い出そうと母はしているのかぶつぶつと呟く。母も夕食の準備の手を止めて一緒に探して始めた。

「封筒ならあるけど、それでもいいかしら。」

「何か紙が入れられるなら何でも大丈夫だと思う。」

 今度は便箋学校帰りに買って帰らないとと頭の片隅においた。母から「じゃあこれ。」と茶色い封筒を一枚貰って軽くお礼を僕は言った。

 母は何に使うのか気になっているみたいで僕に尋ねてきた。

「誰かに何か送るの?」

「ちょっとね。」

 深く詮索はしてこないが気になっているのかちらちらとこちらを探るように見てくるので僕は平静を装い、僕は自分の部屋に退散しよと「服を着替えてくるね。」と母に言い、その場から立ち去ろうとした。

 そういえばっと母は思い出したように今日の学校のクラス分けで誰と一緒になったのかと僕に話した。

「舞や裕也と同じクラスになったよ。」と言うと嬉しそうに

「舞ちゃんや裕也君いれば安心ね。今度遊びに連れていらっしゃいな。」

「そうだね。二人とも忙しいから何とも言えないけど。」

 母は台所に少しご機嫌になりながら戻って夕食の支度を再開した。

 僕はそのまま母が台所に戻るのを見届け、部屋にバタバタを足音をたてて部屋に向かった。

  部屋に着くと薄暗くカーテンの隙間から夕焼けの光が差し込んでいる。電灯の紐を軽く引っ張るとカチカチと点灯してから部屋中が明かりで満たした。

 床に鞄を放り投げて机の二番目の引き出しを開けて一冊のノートを取り出した。何も書かれていない綺麗なページの開いて、ページがボロボロにならないように丁寧にかつ、迅速に割く。僕は息を殺してノートを睨みつけて紙面との真剣勝負。神経を集中させて行わないと綺麗破り取ることができないからだ。

 二枚程破り取ったら今度は放り投げた鞄から筆箱を取り出し、シャープペンを探し机に座った。

 さていざ書くとなると書き出しは何にしたらよいか、何を書けばよいか分からない。

 僕はとりあえず自分自身の自己紹介を紙に書いてみようと先程裂いた紙に思いつくことを書いてみた。



 島崎唯さんへ

 僕は君にお互いを知るところから始めたらと恰好つけて提案しましたが、何を書いてよいのか分からず机で悩んでいます。

 とりあえず僕を知ってもらうために僕の自己紹介を書きたいと思います。

 僕は休みの日は本を読んだり、ぶらぶらとその辺を散歩することが好きです。散歩なんて爺臭いかと思いますがこれが結構楽しかったりします。毎日同じかなと思っている所に思わず違う発見を見つけたりするとワクワクしてしまいます。

 好きな食べ物は煮物とオムライスが好きです。母の作る煮物はとても美味しいです。オムライスはチキンライスが薄焼き卵にふわっと包まれているやつがとても好きです。

 家族は僕を含めて4人家族です。

 僕の上に姉がいます。

 大学生で僕とは似ても似つかない性格です。母はせかせかとよく動き回っている人であまりゆっくりしている姿を見たことがありません。父はあまり無口であまり自身から語ることはありませんが、母と話しているときは口数が多い印象があります。

 僕の家族はこんな感じです。

 あまり大したことは書いていませんが、僕の自己紹介を終わりにしたいと思います。

 なにか僕に聞きたい事とかあったら遠慮なく手紙に書いてください。答えられる限りは返事を返します。

 島崎さんのお返事を待っています。



 4月6日

 櫻井 孝



 僕は手紙を書き終えて一息ついた。

 明日はこの手紙をどうやって彼女に渡すか一つ終わるたびに悩ができていく。

 朝早く彼女の机の中に入れておくか、それとも下駄箱の中に入れておけばいいか、はたまた彼女の住所を聞いて直接自宅に送ってしまった方がいいか悩ましい。しかし、島崎さんの住所なんて聞いていため、それはまた今度だ。

 この手紙を他の生徒に知られないようにするにはどうしたら良いものか。

 とりあえず、明日は早く学校に向かって彼女の下駄箱に手紙を入れてみようと決めた。

 今日の事を振り返ってみると自分の言った事や彼女と会話をした事を思い出すと赤面してまう。話していた彼女の表情や声を思い出すだけで心臓の鼓動が大きく拍動して身体中の血液が巡らせている。

 彼女の友達の一人に加えて貰えただけで僕は嬉しさのあまり卒倒してしまう勢いだ。

 僕は彼女宛の手紙を胸に抱えてベッドに横になった。

 明日がこんなにも待ち遠しいと思ったことはなかった。



(2)

 次の日僕はいつもより早く自宅を出た。母や家族には学校で用事があるとありもしない用事を作り上げてバス停まで向かった。

 早歩きしていると生暖かい風が顔を通り過ぎる。バス停を見ると先に誰か先客がいるようだ。

 多分あの場所にいるのは舞だ。舞は僕の家のすぐ近くだからバス停も一緒だ。あちらもこちらを見て気付いたのかこちら見ている。

 僕は舞の隣に並び「おはよう。」と伝えた。

 舞もおはようと返してきた。

「おはよう。今日は早いね。」

「今日は少し用事があって、少し早く家を出てみた。」

 ふーんと興味なさそうにしているが、こちらが気になるのかちらちらとこちらを覗きみしている。こちらに視線が来るたびに「用事ってなに?」と聞かるかもしれないと冷や冷やした。

 なのでこちらから舞に「どうしたの。何かついてる?」と聞くと「別に。」とそっけない返事が返ってくる。

 暫しの間お互いに無言だったが、舞から僕に話かけてきた。

「いつもはどのバスに乗ってるの。」

「このバスの2本後かな。」

「そうなんだ。」

「うん。そう言えば舞は何で早く学校に行ってるの。いつもバスで会わないからさ。」

 それは「練習の為。」とあっけなく教えてくれた。

「楽器の練習したいから時々早く学校に行ってる。」

 僕は練習熱心だなぁと心から関心した。何事も舞は真面目に取り込む。集中している時は声を掛けるといつも裕也と怒られていたと覚えている。中学生の頃までは3人でよく一緒に帰って寄り道をして遊んで帰っていた。いつからか僕らは3人過ごす機会の少なくなっていき、あまり舞と会話しなくなった。いつまでも子供みたいにはいかなくなるんだろうとどこかしらでは僕は思っていた。また、同時にも異性なのだから余計距離も置く。だって僕は少し彼女から距離を置いていたからだ。舞や裕也には言っていないが周りから、からかわれたりしたからだ。

 そういえば裕也が言っていた舞が寂しがっているとは本当なのだろうか。今こうして話していても微塵もそんな感じが見られない。

 むしろさっきは興味なさそうにしていたが。

 そうこうしているとバスが来る。

 舞に促されるように一緒にバスに乗った。

 バスの中がはがらんとしており人も乗っていなかった。

 舞は後部座席の窓側に腰掛けたので、僕はその後ろの席に座ろうとした時、舞が自分の空いた席をポンポン叩いている。

「座れば?」

「えっ。」座ればと言われてもこんなに席が空いてるんだどこに座ってもいいだろうと内心思った。わざわざ同じ席に座って窮屈な思いをしなくてはならないのか。

「いやだって、他空いてるし。」

「いいじゃん。たまには。」

「たまにはって今まで一緒に座った事あるの小学生位の時だし。」

 何が嫌なのかとこちらを睨みつけてきたので、しぶしぶ舞の隣に座った。

 やっぱり二人掛けのシートとはいえ狭い。舞と肩がぶつかる。もぞもぞと身体の位置を調節していると「・・・狭い。」と舞がぼそりと呟いた。

 狭いと思っているなら一緒に座らせなきゃいいのにと腹の中で悪態をつく。

 舞に「やっぱり後ろの席に行くよ。」身体の向きを変えて移動しようとしたら、左手の制服の裾を引っ張って舞は言った。

「狭いけどなんかいいじゃん。」

「そうなの。自分は広い方がいいよ。」

「ここにいて座ってて。」

 左裾を舞は離してはくれず、結局僕はそのまま座りなおした。

 隣でご機嫌な舞をよそ眼に深いため息をついた。

 1年もの間舞とはあまり話していなかったが、こうも女の子は雰囲気が変わるものなのかと思う。横目で舞を見てみると、顔立ちは大きく変わっていないがどこかが違う気がする。長い睫毛だったり、深い焦げ茶色の瞳に上下の薄い桜色の唇。少し前ならあまり気にしなかったのにこうまじまじ見ていると大人になってるんだなぁと驚く自分がいる。

 しげしげと見つめていると「なに?」と舞もこちらを見てくる。

「舞は変わったなぁって思って。」

「変わったって?なにが?」

「見た目とか。昔と違うなって。」素直に口から本音が漏れる。

 舞は大きく目を見開き僕の顔をみた。驚いた様子で瞬きを何回もしていた。すると急に窓の方を見て「孝も昔と変わったよ。」

「顔の形?良い方になら良いけど。あんまりかっこよくはないから。」

「そんなの顔の形なんて人の好みでしょ。」

「じゃあもしかしたら格好いいって言ってくれる人もいるのかな。」

「もしかしなくてもいると思うよ。」

「そっか。」

 そうだよ。言うがあんまり説得力はない気がする。それから僕は舞と学校へ向っていくのだが、学校についてから島崎さんの下駄箱に手紙を入れるのに少し四苦八苦することになる。舞にあれこれ言い訳付けて教室で別れ、訝しげに見ていたが振り切って下駄箱に戻り鞄から彼女への手紙を取り出し彼女の下駄箱に手紙をそっといれた。後は彼女からの返事を待つのみ。

 そして僕は、彼女の返事がくるまで、自分の下駄箱で一喜一憂することになる。



僕が手紙を出してから2日後の事。僕の下駄箱に彼女からの返事が入っていた。

目線の先にあるのはピンクの便箋だ。僕は周り生徒を気にしながら上履きを取りながら手紙をこそっと手に取った。すかさず自分の鞄にぐしゃぐしゃにならないようにしまい込んだ。何食わぬ顔をして教室に足を運んだが、表情とは裏腹に心の中ではもう駆け足状態で、本当ならスキップして教室にて向かっている所だ。

 僕は教室の扉を開けて島崎さんを探した。手紙をくれた張本人を見つけた。島崎さんは舞や他の友達と話をしており、こちらにはまだ気付いてはいない。

 彼女にこちらを見て欲しい気持ち反面、見て欲しくないとも思っている自分がいる。

 ちらちらと島崎さんを見ていると後ろから思い切り声を掛けられ背中を叩かれた。

「おはよう‼どうした朝からテンション高いな。」

 この声は裕也だ。ぼくはすかさず、手紙を入れていた鞄を思いっきり胸に抱きしめた。誰にもとられることはないが万が一ということもありえなくはない。

「別にいつもと変わらないよ。てか、お前が急に声を掛けてきたからビックリしたんだよ。」

「だって。お前入り口の前にいたからさ。」

 そうか。自分がここにいたから邪魔だったのか。それは素直に申し訳ない。

「ごめん。今すぐ退くよ。」

「いや別に良いけどさ。なに?今日は良いことでもあったのか?」

裕也に尋ねられて背中に冷や汗がでそうになる。

そっけなく「別に」と呟けばいやいやなんかがあるだろう思っているのかやたらに絡んでくる。

ゆっくりとその場から立ち去り自分の席に行こうとすると、そういえばーと裕也が声をかけてきた。

「今日も3人で昼飯食べない?」

3人?誰の事言ってるのか分からず、「誰と誰のこと?」と問い返した。 

呆れたようにこちらを見て「とぼけんなって、舞に決まっでるだろ。」

「いや、なんでそんなしょっちゅう3人で飯食べなきゃならんの。」舞だって他に友達もいるし、部活の友達らと食べたりするだろう。と裕也に向かって話すと、有無を言わさずに舞に

「今日昼飯食べにいこうぜ!!」と大声で伝えた。

「朝から昼の事ばっか考えてんじゃないわよ。」と冷めた顔をして裕也を見た。

「行かねーの?」て頭に?を浮かべている。

「行く。」

よーしっと今日も楽しく昼飯食べようなーと楽しそうな声で言う裕也を尻目に鞄に入れた手紙をいついつ見れるのかと思い悩む僕がいた。

そして結局手紙を見れたのは放課後になっての事だった。

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