第12話

「ラーメン、いっとくか……」

 背広姿の青年はそう呟いた。しかし、『いっとくか』とは何だろうか? 岸辺さんしか思い当たらない。むしろ他にあるのか? まぁ、名前ではない。

 うだる暑さのビジネス街、オフィスの連中は快適かもしれないが室外機から出ている熱風が青年を本気で殺しにかかってくる。

「お! 町中華発見」

 その店はビジネス街のはずれにポツンと建っていた。二階建ての建築は遠めに見ると二階は恐らく住居。一九九〇年台の土地高騰で土地を転がすブローカーの甘い囁きにも耳を貸さず、堅実に商売に精を出していた感がある。

「酷暑なのに昼にラーメン、これは一つの戦いだわ」

 待ちきれない青年は、人差し指でチョイとネクタイを緩めた。

「午後のことを考えればニンニクはご法度、トッピングは……」

 生唾を飲み込む。お店に入る五秒前。扉をあけて暖簾のれんをくぐり……

「すみませーん。炒飯を大盛りで!」

 まぁ、汁物食べて背広が汚れたら大変だしね。

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