第3話 水たまりを飛び越えて
お猫様の助言によれば今日の夕方に
「
「ごめん、今日はちょっと用事があって」
午後の授業が終わった直後、隣のクラスの部活仲間が声をかけてくる。
「あ〜なるほど、納得!」
私の答えに何を納得したのかわからない。強いて言うなら鴒くんを逃すまいと目線と体勢で追っていただけ。
「雛、アンタこれから狩りにでも行くの? 今の格好マジヤバいわよ」
そんな事ないよ? ちょっと前に見たカバディのアニメみたいな事になっているだけで。
「早く行ってきたら、
「ちょっとハナちゃん! 宇宙規模の秘密をバラさないでよっ」
私の一言に周りにいたクラスメイトは吹き出していた。
「あははっ。アレで隠せてるつもりなんだよね」「見ている分には面白いし、私達の癒しだからね」「俺もあんなに尽くしてくれる彼女欲しいぜ」
と言う言葉が聞こえてきた。
「……ハナちゃん?」
宇宙規模の秘密とは?
私は冷や汗を流すけど、そんな事お構い無しとばかりに背中を押される。
「ほら行った行った!」
「わっ、ちょっと!」
強引な彼女に押される形で鴒くんの後を追う。
――――――
――――
――
学校と駅からほんの少し離れた所に平屋建ての本屋がある。本の品揃えも豊富な事と店内に飲食スペースもあるので立ち寄る人は多い。
そんな店内で本を見るより1人の男の子を凝視している危ない女がここには居た。
――私だった。
お客さんと店員さんから生暖かい視線を受けて慌てて雑誌を手に取る私。彼とは隣の列の端と端ぐらいの距離だから気づかれることはないだろう……ないよね?
そんな彼は雑誌をひとしきり読んだ後に2冊ほど手に取る。それから10分ほど雑誌と睨めっこした後に1冊を棚に戻す。
私はレジに向かう彼の後を付けているとお猫様の助言が的中するのを目の当たりに。
彼がリュックサック型のスクールバックから財布を出した時にそれがポトリと床に落ちた。そして彼は気づかないまま会計を終えて店から出ていってしまった。
「……どうしよう。走って届けに行けばいいのかな」
彼が落とした物の側まで行って辺りをキョロキョロしてしまう。そして目線を下に落としてそれを拾う。
「これは……お守りだ」
手に取ったのは『無病息災』と書かれた水色のお守り。そのお守りを見た瞬間、心にドキリとしたものを感じた。だけどそれより早く彼に届けなくてはと思い、店員さんに聞くこともせず店を出てしまう。
「はぁ……はぁ……いないか」
駅前まで走ってきたけど鴒くんを見つけることができなかった。私は手の中のお守りを改めて見る。そして落とした原因が何であるのかわかってしまう。
「紐が切れてる」
それを確認すると私の中の使命感のようなもの目覚めて駅ビルの中の手芸屋さんへと歩を進める。
こう見えて私は手芸部。
おばあちゃんが作るお人形さんが好きで小さい頃からよく真似をしていた。
高校で手芸部に入っているけれど、自分が作りたいものがある時に顔を出す程度の緩い部活。それに3年生になった事により後輩達が気を使ってくれるのだ。
それはさておき。
「これとこれと……あれとそれと……」
お守りを見ながら必要な物を見繕う。
「よし、これも何かの縁だね! いや、お猫様の縁かな」
その日の帰り道は水たまりを跳ねるように帰って行った。そして翌日の学校で私は衝撃的な事実を突きつけられる。
――――――
――――
――
翌日の放課後。
「想良羽が休みだから誰かプリントを家まで持って行ってくれ。親御さんに渡す大事なものだからできれば今日中がいいんだが……」
担任の教師がそう告げた瞬間、クラス中のありとあらゆる視線が私を仕留めにかかる。
「……うわぁ。ドームでライブした時ぐらい見られてる」
「アンタドームでライブした事ないじゃん」
あははははははっ!!
私の渾身のボケを華麗にスルーするハナちゃん。クラス中も「ママの言うとおり」「ここはやっぱり彼女の出番じゃね?」と押せ押せムード。
でもだけど、これじゃ予定と違うよお猫様。
「ん? そうか
我がクラスの担任の筋肉先生は聞いてもいない事をペラペラと言う。
「ちょっ、ちがっ……先生っ!」
本人も言っていたように鈍いらしいが、そういう事には寛容でいらっしゃる。言い方を変えればありがた迷惑。
クラス中もその流れで大いに盛り上がる。もしかしたら受験とかのストレスでハイテンションになっているのかもしれない。
「んじゃ、水玉よろしくな。住所はここに書いてあるから」
「……うそ……だよね?」
いきなり与えられたミッションは……鴒くんのお宅訪問だった。これもお猫様の仕組んだ事ならとんでもないサプライズ。
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