第6話 露店

 最寄りの集落は一応柵で囲ってあるが、ふれあい動物園レベルの柵だった。


「こんにちは」

「あんれまあ、珍しい。どこから来なさった?」

 集落の端にある家の庭先にいたお婆さんに話しかけてみた。


「実は記憶がなくて。ここはどこでしょう?」

 我ながら雑な設定だと思うが、この世界のことを何も知らないので仕方ない。


「若いお嬢ちゃんが一人でよく無事だったねぇ。見たところ異国の人のようだが、良かったらお茶でも飲んでいかんね」

「ありがとうございます。お邪魔します」


 お婆さんの家に招かれたと思ったがそうではなく、牧歌的な家がぽつぽつ建っている中、やや大きめの家に連れていかれた。

「村長おるかね」

「はいよー」


 出てきたお爺さんに挨拶する。村長宅前には長方形の木製テーブルとベンチが置かれていて、そこでお茶をいただくことになった。

 村長はハーブティーを出してくれた。この辺はこれが定番のお茶なのかな。

 青空の下でお爺さんお婆さんとお茶。のどかである。


「記憶がなくなるキノコでも食べたんかねぇ」

「かもしれんのぉ」

 そんなキノコあるの⁉ 怖い。


 お茶請けに温泉宿の売店で仕入れたクッキーとマシュマロを出し、村長とお婆さんに勧める。試食して気に入ったら後で買ってほしい。


 村長によるとここはイアン村といい、住民は30世帯ほど。最寄りの町はニドゥ町で、歩きだと3日かかるらしい。


「ニドゥ町に向かおうと思います。あの、私の手持ちの物を何か買ってもらえないでしょうか? あと、服があれば購入したいのですが」


 結局私は作務衣と半纏、長靴、首にストール、大きなトートバッグと斜め掛けバッグという格好で村にやって来た。

 アウトドアジャケットとスニーカーは質が違いすぎて、半纏と長靴の方がまだましな気がしたのだ。



 お茶の後、私は村長とお婆さんの協力を得て村長宅前で露店を出した。お茶をしたテーブルに商品を並べただけの店だ。

 

 商品は、森で採取した薬草、売店で仕入れてビンや箱に詰め替えたお菓子、塩、砂糖、胡椒、ハンカチ、軍手、ロウソク、石鹸、紅茶、ほうじ茶。


 相場が全くわからないので、価格設定はお婆さんにお任せだ。村人の反応を見る限り、高過ぎでも安過ぎでもなさそう。


「お嬢ちゃんは行商人だったのかねぇ」

「どうでしょう」

 まあ、所持品が不自然だよな。


 商品のうち紅茶とほうじ茶は、温泉宿の部屋に用意されているティーバッグの中身だ。

 お茶やお菓子は毎日補充されるので、全部アイテムボックスに入れて備蓄している。

 アイテムボックスは容量無限で時間が経過しないため、食品の保存に最適だ。


 この村には商店がない。飛び込みの露店は珍しさもあって歓迎された。

 紅茶とほうじ茶は試飲を用意したので好評だった。仕入価格が0円なのでイチオシ商品である。

 用意した商品は数時間で7割方売れ、私はゼニーを手に入れた。



 村人は茶髪茶目が多く、女性は皆髪が長くてスカートを履いていた。

 私は黒髪黒目で髪型はボブ。体格は日本人女性の平均だが、こちらの女性と比べると小柄で華奢だ。


 服は10代の女の子のワンピースを譲ってもらった。胸がきつくなって着られなくなったらしい。あっ、そう…。

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