オカルト先輩と孤立世界
みずとは
第1話 オカルト先輩と孤立世界
これで17日目だろうか。
いや、18日目かもしれない。
目の前には雲がかった夜空。
夏特有の湿気を孕んだ生ぬるい空気。
時折吹く風は涼しくとても心地良い。
窓を開け、部屋でアイスでも食べながらテレビでも観れたなら最高の夜だろう。
そう思いながら
「アーーブダークショーーーン!!」
今、UFOを呼んでいる。
始めてから2時間くらいは経っているだろうか。
汗だくで両手を広げ、夜空に向かって叫ぶ。
隣には自分の肩くらいの身長の小柄な少女。
しかし少女といってもこちらより年上の先輩だ。
少女も同じ動作で夜空に声を飛ばす。
しかし
「ぁ……ぶダー……ョン……」
全く聞こえないのは打ち寄せる波の音や風のせいではないだろう。
先輩の声は明らかに元気がない。
有り体に言えば、バッテバテなのである。
「よし…次は……君の番だな…」
ぜーぜーと肩で息をしながらこちらに顔を向ける。
その目は訴えていた、「少し休ませて」と。
しかしこれは先輩が始めたことなのだ。
自業自得との思いから少し意地悪になってしまう。
「そんな小さな声じゃ宇宙人には聞こえないでしょ。ダメです。もう一回。」
想定外の言葉だったのか先輩の肩がピクッと跳ねる。
「なっ…そ、そんなことは無かっただろう!?地球外生命体も『かくあるべきだ!』と太鼓判を押すほど模範的な呼び声だったはずだ。私にははっきり聞こえた!」
「宇宙人が太鼓判を押すんですか…、それに先輩には聞こえるに決まってるでしょ、声の主なんですから」
とにかくもう一回、と言うと先輩はごにょごにょいいながらも態勢に入る。
恨めしそうにこちらを見上げる先輩を横目に見る。
先輩が着ている学校指定のシャツは汗でべったりと張り付き、先輩の…全体的に自己主張は控えめだが……上半身のシルエットが一層露わになっている。
ふぅ、と一息入れた頬からは汗が垂れ、上気した顔が雲から出た月の光に照らされたその光景に、不覚にもドキッとしてしまった。
「……君、今何か不貞な事を考えていないかね?」
恨めしそうにしていた目は、いつの間にかこちらを訝しむジトッとしたものに変わっている。
こういう事だけは何故か鋭い。
話題を変えなければ、と思った瞬間
「あっ」
先輩は北の夜空を見つめ声を漏らした。
そこには…
雲の向こうに奔る無数の光線があった。
光線はまっすぐに、だが時折、左へ右へともつれ合うように、不規則に方向を変えながら北から南へと移動し、消えた。
時間でいえば、数秒はあったかもしれない。
しかし、脳が理解してからはほんの一瞬の出来事に感じた。
「せ、先輩…今っ……」
「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
こちらが振り向くが早いか、先輩が奇声を上げながらぎゅっと抱きついてきた。
先輩のべったり上気した身体の感触とふわっとした甘い匂い、に汗の酸味が足された何とも言えない香気に包まれる。
健全な高校生には刺激が強いそれも、今は過度に意識することは余裕はなかった。
興奮で、先輩の体を抱き返す。
「先輩、僕達……やったんですね!?」
「そうだとも!!」
先輩は満面の笑みとともに力強く頷いた。
「やはり、オカルトも不思議も、この世に存在しているのだ!!」
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