私は君が欲しい〜憧れの先輩はどうやら俺の身体を御所望のようです〜
逢坂こひる
第1話 ヤルしかない
ある日の放課後——
「なあ、君が一年の
階段の上から、俺に声を掛けてきた美少女は、うちの高校では超有名人の
来栖先輩はその美貌と明晰な頭脳で、多くの男子達を虜にしてやまない。
夕日を背に受けるそのシルエットは、神々しさすら漂っていた。
まあ、例に漏れず、俺も来栖先輩には憧れを抱いている。機会があれば、お近付きになりたいとは思っていた。
だけど、俺はさっぱり冴えなくて、来栖先輩とは住む世界が違う。叶う事はない、夢物語だとばかり思っていた。
そんな憧れの来栖先輩から、理由は分からないけど、俺にお近付きになってきたのだ。
いったい何事なんだろう。
「はい……そうですけど、何か御用でしょうか?」
「私は、君が欲しい。その身体を私に捧げてみるつもりはないか?」
な……な、な、な、なんですとぉ———っ!
来栖先輩が俺を欲しいだと!?
その身を捧げろって——まさか俺の身体狙い!?
「勿論ただとは言わない。私もこの身体を君に捧げようじゃないか」
え……先輩が俺に身を捧げるって、なに?
それって今まで妄想でしか出来なかった、あんなことやこんな事をしてもいいってこと!?
「まあ、ついてきたまえ」
「……はい」
理由は分からなかったけど、ついていかない理由もなかった。あまりにも妄想が膨らみ過ぎて、別の場所も膨らんでしまった。少し前屈みで移動したのは内緒の話だ。
来栖先輩に連れられてきたのは、文化系クラブの部室のような部屋だった。
いや、むしろ部室だ。
「好きなところに掛けて、楽にしたまえ」
「あ、はい」
部室には長テーブルが二脚くっつけて置いてあった。そして来栖先輩はお誕生日席と言われている上座に座った。
とりあえず俺は、来栖先輩の右前の2番目の席に座った。
「改めて言おう。私は君が欲しい、相馬くん、その身体を、私に捧げるつもりはないか? その代わり私も君にこの身体を捧げる」
さっきから情報は一切増えていないが『はい!』と即答してしまいたくなるほど、破壊力のある言葉だ。
むしろ俺は即答で身体を捧げてもいいと思う。
だけど、理由も聞かず高潔な先輩に、身体を捧げてもらうわけにはいかない。
それこそ、何かの間違いだったら取り返しがつかないし。
「理由を聞かせてもらえますか?」
「理由か……」
先輩は目を閉じてしばらく考え込んだ。
うわぁ〜まつげ長いな。
目を閉じると、素材の良さがより強調される。
その身を捧げるってことは、ご尊顔に触れることも許されるんだよね?
「…………」
やばい! 荒ぶるな! 俺!
「私はな、君の秘密を知っている……それが理由では駄目か?」
お……俺の秘密?
俺の秘密ってなんだ。
同じクラスのギャルで超可愛い
でも、流石にそんなプライベート過ぎることバレないよな。
クラスの男子たちと話しあったことはあるけど、その時は、桐谷のことじゃなくて来栖先輩の……。
ってことはまさか!
「もしかして先輩をオカズにしたことですかっ!」
「ん? オカズってなんだ?」
勢いでカミングアウトしたが、違ったようだ。
むしろ違っていてよかった。
「いえ、何でもありません。忘れてください」
「なんだ、気になるじゃないか教えてくれないのか?」
「……とてつもなく、どうでもいいことなので、お気になさらず」
「ふむ……そうか……ではそうする」
「是非是非」
あっぶね〜〜〜〜ぇ!
なに墓穴掘ってんだ俺!
オカズとか馬鹿じゃん!
でも、オカズじゃないとすればなんだろう?
「先輩分かりません……俺の秘密って何ですか?」
まあ俺は秘密を持てるようなミステリアスな男ではない。いきなり秘密と言われてもお手上げ状態だ。
「君は、ヨムカクという小説投稿サイトを知ってるよね?」
ヨ……ヨムカクだと—————っ!?
知ってるも何も、俺の妄想爆裂日記を小説として投稿しているサイトじゃん!
なんで、先輩がヨムカクの事を知ってんだ?
まさか読者さんなのか?
「なんでも君は、そのサイトのトップランカーらしいじゃないか」
な……なんで、そこまで知ってんの。
「そ……そんな、ヨムカクなんて知りませんよ、それにランカーってなんですか?」
「しらばっくれても無駄だよ。もう調べはついてるんだ」
「な……何を根拠に!」
「今、ランキングトップ10に入っているこの小説。主人公は君で、ヒロインは私だろ?」
先輩はスマホに表示された、俺の書いている小説のページをおもむろに見せた。
な……なぜバレた。
「それは、先輩の推測ですよね? 証拠でもあるのですか?」
こんな事バレるわけにはいかない、とりあえず全力で誤魔化してみた。
「なあ、相馬くん」
「はい……」
「誤魔化したいのなら、せめて登場人物の名前は、現実世界から流用するのをやめようか……
だっはぁ——————————っ!
絶対バレないと思ってたのに!
まさか同じ学校に読者がいるなんて思ってなかったわ!
くぅ……完全に油断した。
タカを括ってしまった、俺の失態だ。
「なあ、相馬くん」
「はい……」
「君は、この小説に書いているようなことを、私としたいのかい?」
俺の小説に書いてあること……R18に引っかかるようなことは書いていないが、妄想全開だから、それは酷い内容だ。
なんの脈絡もなく先輩のおっぱいを揉んだり、お尻を触っているシーンが数えきれないほどある。
こ……これは何の羞恥プレイだ。
一番見られたくない人に、一番見られたくないもの見られちゃったよ!
「君の望み、叶えてあげてもいいよ」
「え……」
今、先輩なんて言った……俺の望みを叶えていいって言った?
「それは、この小説で俺が書いているようなことを、先輩にしてもいいという事ですか?」
俺のセリフを聞き先輩はニヤリと笑った。
「相馬くん、
しまったぁ——————————————っ!
この小説を俺が書いたと認めてしまったあぁぁぁぁ!
「なあ、相馬くん……この小説の登場人物って私だけじゃないよね? 君のクラスの桐谷さんや、三年の
桐谷さんは俺と同じクラスで、ギャルだけど一年で一番可愛いと言われている。
そして、新見先輩は清楚系で三年で一番可愛いと言われている。
ちなみに来栖先輩は2年で一番可愛いと言われていて、三人合わせて我が校のビッグスリーと言われている。
ビッグスリーの由来は三大美女から来ているのだが、ビッグが強調されるのは三人とも、お胸が大きいからだ。
俺みたいな冴えない男が、そんなビッグスリーと現実世界でどうにかなるわけがない。
だからせめて、小説の中だけでもと思ったけど……まさか、俺の妄想がバレてしまうとは。
「もし、彼女たちが、このことを知ったら、どうなるのだろうね?」
終わる……完全に終わる。
桐谷なんて、同じクラスだぞ……オカズにしてたんだぞ……元々終わっているような高校生活が完全に終了する。
「そしてもし、彼女達も、君の望みを叶えてあげてもいいと言ったら——君はどうする?」
え……。
俺の望み……おっぱい揉んじゃうんだよ?
「一つ条件があるんだけどね」
「どんな、条件ですか?」
「私たちをランカーにして欲しい」
「え……」
「2人とも、もう出てきてもいいですよ」
先輩がそう言うと、桐谷さんと、新見先輩が物陰から出てきた。
え……なになに? これってつまり。
2人にもこのことは筒抜けだったってことか!?
「相馬、面白い小説書いてるじゃん」
「本当……相馬くんの小説はユニークですね」
なんて言いながらスマホを凝視する2人。
話の流れからして俺の小説を見てるんだろうな。
顔から火が出るほど恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
「ここはウェブ小説部だ」
「ウェブ小説部?」
「もしきみの手で私たちをランカーに導いてくれたら、褒美として、この小説に書いてあるようなことを、私たちが君にさせてあげよう」
ま……マジか。来栖先輩だけじゃなく、桐谷や新見先輩にもいいのか。
酒池肉林の世界じゃないか!?
「ウェブ小説部は、ウェブ小説でランキングをとることを目的にした部活よ!」
ランキングを目的。
「まあ私たちは、ランキングどころか、まだ殆ど読まれていないんだけどね」
……そうなんだ。
「相馬くん、私たちをランカーにして、あんなことやこんなことがしたくないかい?」
したい!
そりゃしたいに決まってる!
「相馬、もし断ったらクラス中に、
げっ……それは困る!
むしろ先輩より、お前の方をより多くオカズにしてるし!
「オカズって何ですの?」
げ……また、その流れか、つーか新見先輩も知らないんだ。
「私もそれは気になっていた」
「えーと、オカズっていうのは……」
「だああああああああああああああああっ!」
俺は桐谷のオカズ解説を全力で阻止した。
ここまでバレているのなら同じだと思うかもしれないけど……もうこれ以上は俺のハートがもちそうにない。
「なんなのよ、いきなり大声だして」
「やるよ……俺」
もうやるしかない。
「本当かい相馬くん!」
「はい」
「わーい、相馬くんありがとう!」
そう言って、新見先輩が俺に抱きついてきた。
胸の感触ばっちりです。
御馳走様です。
「あ、新見先輩、まだ早いっすよ! そういうご褒美はランカーにしてもらってからっす」
「これってご褒美なの?」
ご褒美です。
「そうっすよ!」
「気をつけないとだね」
ご褒美……そう、このシチュエーション自体がご褒美だ。我が校のビッグスリーと同じ空間で、同じ時間を共有出来るなんて、この先もそうそうあるもんじゃない。
「では、相馬くん。早速今日から頼めるかな?」
「はい!」
「「「ウェブ小説部へようこそ!」」」
——こうして俺は、美少女たちとウェブ小説のランカーを目指すことになった。
その道が険しいのはランカーである俺が一番よく分かっている。だけど諦めるわけにはいかない。その先にある至福の時のために。
ご褒美のために!
あんなことやこんなことのために!
俺は——ヤルしかない。
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