誰にでもなり得ること
よもぎ
第1話今僕は・・・・・
何人かの男子生徒が隣の席で戯れている。
そいつらと僕との距離は人一人分が収まる程度の幅で、だから自然とそいつらの話している内容も耳に入って来た。
そいつらは昨日公開されたばかりのホラー映画について話していて、今日みんなで見に行きたいという話だった。
「磯崎、よかったらお前も行くか?」
突然そいつらは僕に話しかけてきた。
「いや、べつに、いいよ」
「だよな」
答えなんてわかってたくせに、そいつらは僕を映画に誘ったのだ。
「磯崎ホラー見れないんだもんな」
そいつらは笑いをこらえながらわざと声量を上げ、他のクラスメイトにも聞こえるトーンでそう言った。
そして、自然と他のクラスメイト達の視線も僕に集まる。
その中に竹島 由実ちゃんもいた。
僕の初恋の相手だ。
もう最悪だ。
僕は今隣に居る奴らにいじめられている。
そいつらは僕をおもちゃかなんかだと思ってる。
いつも僕を他のクラスメイト達の前でいじっては、その反応を楽しんでいる。
僕はそいつらが大っ嫌いだ。
でも、いま一番いやなのは大好きな由実ちゃんにこんな姿を見られていることだ。
本当に最悪だ。
根暗でいつも一人でいた僕に初めて優しく声をかけてくれた由実ちゃん、そんな彼女に今の姿は見せたくない。
そして、僕は逃げるように教室を去った。
放課後、夕暮れ時の時間帯。
由実ちゃんはテニス部の練習を終え帰り支度を整えていた。
彼女は毎日ちゃんと部活に参加しており、とてもまじめな女の子なのだ。
だからこそ余計に惹かれ、僕は彼女をいつも見るようになった。
どうしたらこの気持ちが彼女に届くのだろうか・・・・
僕の気持ちはもうはち切れそうになっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私の朝は早い。
毎朝テニス部で朝練があるため、朝の五時に目覚ましをかけ、急いで朝食を取り家を出る。
いつも通りの通学路を歩き、私は学校に向かう。
部室の更衣室に入ると先に来ていた部員たちがいたので挨拶をし、私は練習着に着替えた。
練習着に着替えた後他の部員達と一緒に練習をし、そしてまたこの更衣室に戻る。
ふと何か違和感を感じた。
私はカバンをあさりその違和感の正体に気づく。
いつもカバンに入れていたはずのタオルを家に忘れてきてしまったのだ。
「最悪」
べたべたする肌にこべり着くような制服の感触が最悪だった。
こういう日もあるさ。
私は自分にそう唱え部室を後にした。
部活の朝練が終わりもうすぐ朝のホームルームが始まる。
なので私は急いで教室に向かうことにした。
部室から教室に行くには一回靴を履き替えなければならないので、私は一度下駄箱に向かう。
学校の扉は多くの生徒が入るため開いており、私はそのまま中に入り自分の下駄箱のところに向かった。
自分の下駄箱の前に立ちいつも通りそれを開ける。
すると中から何かが足元に落ちてきた。
紙のような音だが枚数が多いい。
「なにこれ?」
私は膝を曲げ、その中の一枚を手に取ってみる。
「え・・・・・」
そこにあったのは、私の映った写真だった。
そして、視線がその下の紙たちに向く。
全部私の写真だった。
言葉にできない恐怖が私を包んだ。
ふいに後ろから近づく何かの気配に気づく。
反射的に私は振り向く。
そこには、クラスメイトの磯崎くんの姿があった。
なんだ、磯崎君か。
見慣れたクラスメイトの顔に少し安堵する。
しかし、ふと気づく。
彼は右手に何かを握っていた。
それは今朝私が家に忘れたはずのタオルだった。
なぜ?そんな疑問が頭をよぎる。
「由実ちゃん大好きだよ」
全身をゾわっとするような感覚が襲う。
直ぐに逃げなきゃ、しかし足が動かない。
そいつは少しずつこちらに近づいてくる。
もうむり・・・・・・・
「・・・やめて」
私は最後の力を振り絞り、そう口にする。
「え?」
そいつは困惑した様にあたふたし始める。
「なんで?」
なにが?
彼の質問が理解できなかった。
私が聞きたいよ、なんでなのか。
なんで、私のタオルを持ってるの。
なんで、私の写真が大量にあるの。
でも、それを口にすることはできなかった。
恐怖がそれを遮っていたのだ。
私はその場から動くことが出来ず、しゃべることが出来ず、目を背けることしかできなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時間が止まったような感覚。
その後、すたすたとそいつは私の前から去っていった。
遠のく足音。
私はゆっくりと振り向き、そいつの居た場所を見てみる。
そこにそいつの姿はなく、タオルだけが地面に落ちていた。
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「なんでなんだよ由実ちゃん」
ポツリと僕は呟いた。
誰にでもなり得ること よもぎ @sakurasakukoro22121
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