がーるずいーと

よもぎ

第1話少女とラーメン

「おいしかったよ」

「ありがとうございました!!」

お客様に感謝の気持ちを込めお礼を言う。

引戸を開けた瞬間、冬の肌寒い空気が店内に流れてくる。

机にあったラーメンのどんぶりを下げ机をサッと拭く。

ここは俺の親父から受け継いだ、しがないラーメン屋。

この店を継いだのは23の頃。

最初はこんなに早く継ぐとは思っておらず、あの頃はとても苦労した。

あれから半年経ち、最近はだいぶ慣れてきたところだ。

店の規模は小さく、内装もそれほど綺麗ではない。

住宅街から少し離れたところに店は構えており、この付近にはあまり人はやってこない。

そのため一日のお客さんの数もそんなに多くはなく、常に店内はガランとしている。

だからこそ来てくれたお客様には精一杯、感謝の気持ちを込めラーメンを作る。


「こんにちわ」

明るく弾んだ声が店内に響き渡る。

制服の上にカーディガンを纏った少女は金髪のツインテールを揺らしながら、いつも座っている席に着く。

その少女はうちの常連で、ここ最近は毎日通いで来てくれている。

「豚骨ラーメンお願いします」

「はいよ」

俺は慣れた手つきでラーメンを作る。

そんな俺の姿を彼女は楽しそうに眺めている。

「おまちどうさん」

容器にスープと麺を入れ最後に仕上げのトッピングを乗せ彼女の前に出す。

「いただきます」

両手を合わせて小さく唱える。

彼女はお箸で麵をすくい取り、「ふーふー」と息を吹きかけ一気に吸い上げる。

スープを纏った麺を口いっぱいに頬張り、満面の笑みを浮かべる。

ラーメンの麺を啜る彼女の姿は高校生ながらに少し艶っぽい。

食べていくうちに唇はスープで少してかり、汗が額と首あたりに浮かび始める。

頬を少し赤らめながらも、一生懸命おわんに入った麺を啜る。

麺を全て啜ったあと、おわんを持ち上げ残ったスープを一気に飲み干す。

「ぷは~」

彼女は一滴のスープも残さずに全て完食させる。

幸せそうな表情を浮かべ、しばらくの間その余韻を楽しんでいた。

余韻を楽しんだ後はコップに入った水を飲み干し、口の中をリセットさせる。

ティッシュで口を拭き、ポケットにあった自前のハンカチを使い額や首に浮かんでいた汗を拭きとる。

「今日も学校の帰りに寄った感じ?」

「そうです」

彼女がうちに来るのはほとんど学校が終わった後だ。

親が共働きのためよくこうやってうちに来ているのだ。

「毎日ラーメン食べてるけど飽きない?」

「全然!むしろ毎日食べられて幸せです!!」

「そう言って貰えてうれしいよ」

「お兄さんの方は今日どうでしたか?」

「君が三人目のお客さんだよ」

「そうなんだ」

少し苦笑いを浮かべる彼女。

「でも君みたいな常連さんがいるから頑張れるよ」

「お互い助かちゃってますね」

今度は心からの笑顔を浮かべる。

そんな笑顔を向けられ少しドキッとしてしまう。

彼女との何でもない会話が最近の俺の楽しみになっている。

「今日も少しここに居てもいいですか?」

「暇だし、いいよ」

ラーメンを食べ終わった後に、少しの間うちに居るのが彼女の日常になっていた。

彼女がここに居たい理由としては家に帰っても一人っきりで寂しいからだと言う。

「君も物好きだよね。こんな狭い店内で俺と二人っきりなんて、普通は嫌だと思うけど」

いうても彼女は女子高生。

そんな女子高生がこんな所に居たがるのが俺には不思議だった。

「私この店好きですよ、ラーメンのにおいをずっと感じられるから。それに、お兄さんの事も大好きですよ」

それが恋人としての好きではないことは分かっているが、そんなド直球に言うのは反則だろ。


その後は、今日学校であったことや昨日見たドラマの話などをした。

とても楽しい時間はあっという間に過ぎ、外も暗くなっていた。

「そろそろいい時間なので帰りますね」

「夜道は気お付けて帰ってね」

「はい」

彼女はカバンを肩にかけ、店の引戸まで向かう。

そして、一度こちら側に振り向く。

「お兄さんのお嫁さんになれたら、毎日おいしいラーメンが食べられるのかな」

「え?」

彼女は再び引戸の方に振り返ると、ガラガラとその引戸を引き外に出る。

引戸を閉めるためにもう一度振り返り、

「それじゃあまた明日」

そう言いながらその引戸を閉める。

外は暗くて彼女の表情はあまり良く見えなかったが、少し頬が赤かった気がした。

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