そんなイキった姿を見せたくない
リーネとトーイが水汲みに出ている間、俺はただ鉄を打つ。今日は小麦とかを収穫する時に使う鎌だ。これも、ないと仕事にならねえから間違いなく売れるものの一つだ。前世のように大量生産ができる上に農業そのものの機械化も進んだ社会じゃホームセンターで埃を被ったりすることもあるだろうが、ここじゃ必ず需要がある。
農業も食いっぱぐれのねえ仕事かもしれねえにしても、鍛冶屋ってのも本当に食いっぱぐれのねえ仕事なんだよ。農具だけじゃなく、鍋や包丁とかも必需品なわけで。
都市部じゃそれに加えて剣や槍とかも需要がある。とにかく金属を使うものについてはほとんど鍛冶屋が関わるからな。
麓の連中も、村がそれなりに機能し始めれば、だからこそいろいろな道具が必要になってくるだろう。ゆえに俺は、それに向けてこうやって商品を用意しておくわけだ。
ついでに言うと、鍛冶屋は、絶対に欠かせない職人だから結構大事にされる。危害を加えられるようなことも少ねえ。客と揉めることは確かにないわけじゃないが、もしものことがあったら困る奴も多いから、守られるんだ。
まあそれで勘違いして調子に乗る鍛冶屋も多いらしいけどよ。俺はそういうのはやめておこうと思う。リーネとトーイの前でそんなイキった姿を見せたくないんだ。
と、俺が考え事をしながら鉄を打ってると、
「ただいま戻りました」
リーネがトーイと一緒に帰ってきた。そして汲んできた水を瓶に水を入れると、
「食事の用意をします」
と告げて、朝食の用意をし始めてくれた。トーイも言われなくても手伝おうとする。
そうして朝食の用意ができると、三人で食べる。だが、その前に、
「ありがとうな。トーイもありがとう」
リーネとトーイへの感謝を口にする。こうやって親自身が感謝する姿を子供の前で見せるからこそ、子供もそれを自然なこととして認識できるようになるんだと今は分かる。
ゆかりは、俺に対して『ありがとう』なんて一度も口にしなかった。してもらった記憶がない。そして俺は、ゆかりの前で女房やゆかりに対して『ありがとう』なんて言った覚えがない。自分が言わないのに相手から言ってもらえると考える方がどうかしてる。
それに、こうやって素直に『ありがとう』って言ってもらえるから『やってあげたい』と思ってもらえるんだ。『感謝してもらうためにする』というのは違うかもしれなくても、前世の俺みたいに一度も感謝しないってのは、さすがにおかしいだろう。
「いえ、そんな……」
照れくさそうにそう言うリーネと、
「……」
黙ったままながら頷くトーイの姿に、俺も胸がくすぐったくなる。
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