怠けたい言い訳に無欲ぶってるだけだろ
そう言えば前世でも、
『いい大学行っていい会社入っていい暮らしをして』
ってことに対して価値を見出せねえってのが少なくなかったらしいな。もっとも、当時の俺は、
『怠けたい言い訳に無欲ぶってるだけだろ』
と考えて、そういう奴らを、
『努力することも諦めた負け犬が!』
なんて感じで嘲ってた。もっとも、俺が嘲ってた相手の中には、
『俺よりよっぽどいい大学を出ていい会社に入って稼いでたのにそれに対して虚しさを覚えて手放した』
という奴らも少なくなかったらしいけどな。努力して結果を出した上で、それが自分の求めてるもんじゃなかったって判断した奴もいたみたいなんだよ。
もちろん、ただ怠けたくて無欲ぶってた奴もいたんだろう。でも、全員が全員そうじゃなかったという現実から俺が目を背けてたのも事実だ。それは言い逃れもできねえ。
だから、自分が望んでいることに向かって努力することと、望んでもねえことのためにする努力とじゃ、どっちがどうとか言えねえって今は感じるんだ。
前世の俺も、別に、
<結婚して子供作って家庭を守るいい父親>
なんてものに本当になりたかったわけじゃねえんだよな。ただただ好き勝手に生きたかっただけだ。なのに体裁を気にしてそれを取り繕うために結婚して子供を作った。しかもその上で好き勝手したくて家にも寄り付かずリサを利用した。そんな俺の人生に、女房やゆかりやリサを巻き込んじまったんだよ……
だからこそ、今世では自分のやりたいようにする。リーネとトーイのために生きる。それが前世の女房やゆかりやリサに対する負い目からくるものだとしても関係ねえ。やりたいからする。それだけだ。
なんてことを考えながら仕事の用意をしてると、
「おはようございます」
リーネが起きてきた。トーイはまだ寝てる。
「おう、おはよう。じゃ、今日のところは薪集めと果実と木の実の収集だな。まあその前に水汲みだが」
と、指示を出した。
「はい。分かりました」
躊躇うことなくリーネはそう応えてくれて、水汲みの準備を始めた。天秤棒に桶を二つ用意して。
荷車を使えば一度に水汲みを終えられるが、舗装もされてない山の坂道は、リーネにとっては荷車を牽くには厳しいものがあったんだ。それよりは天秤棒に桶を吊るして歩いた方が楽なんだと。
分かる気がする。
そして水汲みに行ったリーネが戻ってきて
「気を付けてな」
俺は敢えてそのまま送り出したんだ。リーネと一緒にいたいなら、ついでに仕事を学んでもらう意味も兼ねて。
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