例の<悪夢>が

なんてことを延々と考える。例の<悪夢>が我ながらよっぽど堪えてるらしい。自分に言い聞かせずにいられないんだよ。今の自分がどうあるべきかってことをな。


人間ってのは忘れる生き物だろ? しかも易きに流される生き物でもある。だからこうやって自分に言い聞かせ続けねえと簡単に妥協してしまう。<ダメな自分>を許してしまう。


ま、言い聞かせてたってダメなときはダメだったりもするけどよ。


それもあって、今の俺は酒を飲まない。飲めなくはないが、飲みたいとは思わない。もっとも、『飲みたいとは思わない』原因は、ここの酒そのものにもあるけどよ。


作りが雑で、濁ってて見た目がとにかく汚えんだよなあ。まったくそそられないんだよ。しかも雑味がひどくて美味くもねえし。


街にでも行きゃまだマシなのが飲めるかもしれないにしても、別にそこまでして飲みたいとも思わねえ。


村にいた時にはなんだかんだと付き合いで飲まされはしたが、ちっとも楽しめなかったんだよな。楽しくもねえ席で不味い酒を飲まされるとか、普通に拷問だろ? そりゃ酒が嫌いにもなるってもんだ。


アルコールだから酔えりゃ多少は楽しくもなれたかもしんねえけどよ、今のこの体、酒にやたら強いのか、ロクに酔えやしねえ。酔えねえ上に気分だけは悪くなるんだから、何をやってるのかそれこそ分かりゃしねえんだよ。


もしかしたら酒そのものにロクでもねえ不純物でも入ってたのかもしれねえ。前世で検査したらそれこそ販売許可が下りねえレベルのヤベえもんが入ってたって驚かねえな。


その所為か、大酒飲みのイカれっぷりも半端なかったな。明らかに脳がヤラレてんだろって感じの奴が何人もいた。


ま、そんな奴は、避難の時のどさくさで<始末>されたのか、いつの間にかいなくなってたな。あれって、足手まといになるだとかついていけねえとかってのを理由に足切りするのも目的だったのかも知れねえ。俺はまだ知らされてなかったが、そういうのがあったとしても何も不思議じゃない。倫理観そのものが前世の現代日本とはまったく別物なんだ。


<転移>って形で向こうの感覚そのままで放り出されたら、それこそ数日も生きてられねえんじゃねえかな。それ以前に、向こうの肉体のままじゃ、免疫的にまったく太刀打ちできない可能性もありそうな気がする。


いわゆる<潔癖症>とかってやつをここに放り込んでやったらどんな反応するか興味あるな。初日で発狂死してもおかしくねえだろ。


だから、こっちの世界に合わせて生まれてくる<転生>ってのは、理に適ってるんだろうなあ。


などと、改めて鉄を打ちながら感じるよ。


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