その分の対価だと思えば安いもんだろう?
『てめえの女房に、十月十日、胎ん中でてめえの子を育てってもらった上に命張って産んでもらったんだ。その分の対価だと思えば安いもんだろう?』
今の俺にはそれで十分に納得できる。だが前世の俺は、
『仕事で疲れて帰ってきたのに、なんで家でまで育児しなきゃなんねえんだ!?』
とか考えてた。いや、そう言うてめえは、女房に種付けして、十月十日、女房の胎ん中でてめえのガキを育ててもらってたじゃねえか。女房の方はそれこそ、十月十日の間、ずっと胎ん中にガキ抱えて働き詰めだったんだぞ? 二十四時間ずっとだ。
悪阻があったり、胃腸の働きが弱ったり、しょんべんがやたら近くなったり、便秘がひどくなったり、ガスが溜まったり、胎動が始まりゃガキが昼も夜もポコポコ腹蹴ってきて眠れやしねえ気が休まらねえ、いよいよ腹が大きくなってくりゃ、腰は痛えわ、圧迫感で息苦しいわそれこそ眠れねえわが、ガキが生まれるまでずっと続くんだ。二十四時間な。場合によっちゃ<妊娠中毒>や<妊娠糖尿病>や<貧血>や<骨粗鬆症>になる危険性だってある。
で、産む時も産む時で命懸け。男はただ待ってるしかできねえ。
それを自分の女房にやらせたんだ。てめえの体裁を保つためにな。それを労わろう、恩を返そうと思えねえなら、そりゃてめえが女房を愛してなんかいねえってだけじゃないのか? もし愛してんなら、惚れてんなら、『惚れた女を労わる』こともできねえのか?
と、今の俺は、前世の俺に対して思うわけだ。
前世で実際にそれを経験して、今、こうして自分でそれを振り返ったら、自分の馬鹿さ加減に情けなさしかねえよ。
俺は確かに、女房のことを愛してなんかなかった。本気で惚れて結婚したわけでもねえ。取り敢えず俺の周りにいた女でマシそうなのを選んだだけだ。てめえの体裁を保つための道具でしかなかったし、ゆかりを生ませたのも結局それだ。それ以外ねえ。
愛してねえから女房が妊娠してたことも、
『女がやることなんだから当たり前だろ』
と思ってたし、
『ガキ育てんのは女の仕事だろ』
と本気で思ってた。で、自分は他の女と遊んでたと。
なあ? それこそ他の奴じゃ代わりにゃならねえ、唯一無二の才能でも持ってりゃまあ許されたかもしれねえが、別に俺以外の奴にもできるような仕事しかしてこなかった俺に、それを許してもらえる価値がどこにあるって?
『金さえ持ってきてくれりゃお前でなくたって構わない!!』
って女房やゆかりに言われて当然じゃねえか!
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