風呂沸かすだけで一日終わっちまうわ!!

食事を終えると、俺は、鉄を打つ作業に戻った。


俺の仕事は<鍛冶>。鉄を打ち鍛えて鋼を作ったり、ナイフを作ったり、農具を作ったり、鍋を作ったりというのが仕事だ。


と言っても、実は今はまだ、<仕事>としてそれをやってるというよりは、自分達の生活をまず成立させるためにやってる感じだ。


何しろ、前の住人が亡くなって放置されてたらしい人里離れた一軒家を見付けて住み始めたのはいいものの、普通に生活するために必要なものがまだまだ足りてないんだよ。


で、今は、風呂用に湯を沸かすための<でかい鍋>を作っているところだ。鍋と言っても、イメージとしては、


<鉄板焼き用の鉄板の枠の部分が高くなった鍋もどき>


だけどな。一度に二十リットルくらいの湯を沸かせるものを作ってる感じか。


本当は<湯沸し器>を作りたいところだが、残念ながら俺にはその知識がない。だから、取り敢えず思い付いたものを順に形にしていって、何とかしようとしているところだ。


風呂の浴槽についてはすでに用意できてる。庭に穴を掘って石を敷き詰めて露天風呂風にしたものだ。こちらもまだまだ改良の余地ありではあるものの、まずは湯を張れないと話にならないからな。


そんなこんなで、アントニオ・アークとしての父親から学んだ鍛冶の技術を使って、湯沸し用のでかい鍋を作っているところなわけだ。


この辺りも手探り試行錯誤の真っ最中だからな。知識のある人間からすれば馬鹿みたいなことをしてるようにも見えても、知識も経験もないならとりあえずやってみるしかないんだよ。便利な社会の基礎を作り上げてきた先人達もそうやってきたはずだ。


すると、夕方には、非常に不格好ではあるが、<四角いでかい鍋>が出来上がった。これを焚火に掛けて一気に二十リットルほどの湯を沸かすわけだ。この前には、料理用の鍋を使ってちまちま沸かそうとしたんだが、ざっと三百リットルくらいある浴槽に湯を張るには、少なくとも五十回以上は沸かさないとダメだろうってことで、ボツにした。


『風呂沸かすだけで一日終わっちまうわ!!』


って感じだしな。


前世でも、<中世>と呼ばれる頃にはたっぷり湯を張った風呂に入るってのはかなりの贅沢だったらしいしな。まあ、中世よりもずっと前の古代ローマ帝国の頃には<テルマエ>とかいう公衆浴場があったらしいが、なぜか引き継がれずに衰退して消滅したらしい。


確かに、それを作り維持していくのは並大抵のことじゃなかっただろうが。労力も手間もコストもな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る