これはこれで

で、こうして、十個以上の石を放り込み、三度ばかり鍋で沸かした湯を放り込んだが、


『ゆるい水だな……』


そう。<ぬるい湯>でさえない、<ぬるい水>なんだ。


テレビとかでやってた、


『焼いた石で鍋を沸騰させて料理を作る』


ってのは、うん、


『小さい鍋だから沸く』


ってことだな。しかも、<焼いた状態で水に放り込んでも割れない石>でやらないと、石が割れて破片とかが鍋に残って料理が台無しになる。


というのが、実際に分かったよ。ホントにもう、<素人の浅知恵>そのものじゃねーか。


くそう……


そうこうしてる間にリーネも水汲みを終えて、


「お手伝いしましょうか?」


って言われた。


「……そうだな…頼む」


俺は半ばやけくそでそう言ってた。別にリーネに手伝ってもらう必要もないんだ。石を焼いて放り込むのについては、割れる石が多すぎて、割れた石を取り除く手間がかかりすぎて、するだけ無駄だと思ったしな。


だから、とにかく鍋で沸かした湯を注ぎこむだけにしたんで、一人でも暇なくらいなんだよ。


ああ、温泉が自然に湧いてるところがつくづく羨ましい。温泉は温泉で手入れとかが面倒なのかもしれないが、場所によっては有毒ガスが出たりもするかもしれないが、それさえ気を付けてればこんな手間は必要ないもんな。


あと、<湯沸し器>ってのも、何気にすげえ発明だよな。仕組みを理解してない俺には作れないだろうけどな。


『……でも、でかい鍋なら、地金もまだ十分あるし、作れなくもないか……?』


とは、思った。


そうだ。寸胴のような深い鍋は作りにくいだろうが、こう、間口が広くて深さもそれほどじゃない、<鍋みたいなもの>なら、見た目に拘らなきゃそんなに手間もかからない……?


うん、そうだ、そうしよう。そっちを作った方がたぶん早い。


だから俺は、料理用の鍋でちまちま湯を沸かすのは諦めて、


「ちょっと試しに入ってみるわ」


まだまだ<ぬるい水>だし<泥水>だが、川で体を洗うことを思えばたぶんまだマシだろうし、もうそのまま入ってみることにした。


で、その場で服を脱いで、念のために鍋で足に掛けてみる。


『冷てえが……まあ、普通の水浴びだって考えるとこんなもんか。<風呂>じゃねえけど……』


と思いつつ、リーネが見てる前でざっと体を洗って入ってみた。


<泥水>と言ったって、泥そのものは多くない。茶色いだけで普通に水だ。敷かれた石や、焼いた石を放り込んだ時に割れたものの破片が残ってないか、慎重に探りながら、体を浸す。


『うん、普通にただの水浴びだ……これはこれで、あり、かもしれない……』


とも思ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る