同じ失敗を繰り返す必要

食事を終えると、すっかり日が傾いていた。今から移動するのはさすがに危険なので、やはり今日はここで野宿する。


「ごめんなさい……」


寝床にするためにまた落ち葉を集めていると、リーネが謝ってきた。自分の寝小便の所為で一日無駄にしたのを詫びてるんだろう。だが、


「気にすんな。取り敢えず食うものにも困ってないし、焦る必要はないさ」


俺は素直に現状を評価して応えた。実際に何も追い詰められてるわけでもない。このままのんびり移動すればいいさ。それよりも、リーネの俺への態度が明らかに柔らかくなってるのが分かってなんだかホッとする。


もしかしたら、例の小石のことを俺が蔑ろにしなかったことで、好感度が一気に上がったのかもしれない。


そうだよな。他人からはどんなに無価値に見えても本人にとって大切なものを蔑ろにされたりしたら、気分悪いよな。前世の俺は、そんなことも分からない人間だった。だから嫌われた。


他人もそうだったから俺も気にしてこなかったが、『他人もそうだから俺も』というのがそもそもどうかしてる。他人が大事にしてるものを蔑ろにしないってのは、やった方が好かれるにきまってるじゃないか。なのに『他人もそうだから』と他人の所為にして嫌がられる行為を正当化して、何がしたかったんだろうな。前世の俺は。


リーネが態度を柔らかくしてくれただけでこんなに気分がいいじゃないか。女房や娘に対しても普通に気遣ってりゃあんなに嫌われてなかったかもしれないと思うと、本当に情けないよ。


しかも、転生にして別人になってから気付くんだから、始末に負えない。


だからついつい、苦笑いが込み上げてしまう。


しかしその一方で、今のこの俺の感覚は、ここの連中からすれば<異端>だろうな。あんまりに表に出し過ぎると、と言うか他人にまで俺の考えを押し付けようとすると、面倒なことになるのは分かる。


前世の俺は、結局、それで失敗したんだ。自分の考えや都合を一方的に周りに押し付けようとしたことで反感を買った。『自分を通す』のと『我儘に振る舞う』のとの区別がついていなかった。


なら、同じ失敗を繰り返す必要もない。


正直、褒められたもんじゃない今のこの世だが、かと言ってそれを嘆いたり恨んだりしてるばかりでも別にこの世が変わるわけじゃない。俺の方がそれを理解できるようになった。これだけでかなり楽になったよ。


避難してる連中と合流すれば、リーネも以前の暮らしに戻るだけかもしれない。だが、小石を大事にしてることを理解してくれる人間もいることを覚えててくれれば、それが彼女にとっても心の支えになるかもしれないな。


まあ、ならないかもしれないが。


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