可能性として高いのは

リーネの手を握り、彼女の体温を感じながら、俺は、改めて空を見上げた。文字通り、<満天の星空>だ。


日本では代表的な冬の星座、<オリオン座>も見える。この辺も冬の時期に見えるもので、すっかり春めいてそろそろ見えなくなるはずだが。


『異世界なのにオリオン座?』と思う奴もいるだろう。俺も、最初は<過去>に転生したのか?と思ったこともあった。が、よく見るとこの<オリオン座>、左上に見えるはずの星がないんだよ。例の有名な三つの星を中心とした他の星は見えるのに、左上のだけが見えない。


星座の星として見えるもののほとんどが<恒星>だってことくらいは俺だって知ってる。だから、寿命を迎えて消えてしまうのだって中にはあるだろう。だが、もしそうだとすれば、<過去>なのはおかしい。となれば、文明が滅んでやり直しをしてる最中か、衰退したか、な<未来>かとも思ったが、それはそれで、<遺跡>の類が一切見当たらないのはどうなんだ? って気もする。


だから可能性として高いのは、


<俺が前世で生きていた世界とは別のルートをたどってる平行世界>


じゃないのか? ってことだ。<平行世界>と<異世界>ってのは厳密には別のジャンル的に扱われた覚えがうっすらとあるんだが、正直、同じ現代じゃなきゃ、<平行世界>だって<異世界>みたいなものとしか思えないな。


あと、ここには<魔法>はない。<魔物>もいなけりゃ<魔王>もいない。戦争してたって相手もただの人間だ。しかしだからこそ、リアルに命の危険も感じる。魔王も魔物もいなくたって、理不尽に殺されることはある。


まあ、戦争で死ぬよりも、親に殺される可能性の方がずっと高いけどな。




なんてことをぼんやりと考えてたら、


「!?」


俺は、何かの気配を感じた。


リーネの手を放し、ナイフを鞘から抜き取って、柄を握りしめる。


ガサリと微かな物音。「フ…ッ、フ…ッ」という鼻息。獣だ。何かの獣がこっちに近付いてやがる。


まだ距離はそこそこあるが、落ち葉や枯れ草が積もった地面を踏みしめる音が明らかに重い。かなりの大きさがある獣だ。


この辺りには、クマも生息している。しかも、ヒグマだ。でかいヤツ。そこまででなくても、イノシシもいる。イノシシってのは、かなり凶暴だ。実はクマより怖いもの知らずで、人間がいると分かってても逃げないことも多い。クマは割と人間の気配がするだけに逃げるのも多いらしいんだが。そのせいか、人里近くに群れがいることも少なくないんだ。


元の世界のクマやイノシシの生態には詳しくないが。少なくともこの辺のはそうだ。


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