くそったれ、こいつもか

女房と離婚して娘とも縁を切って晴れて自由の身となり、俺は、残りの人生を謳歌することにした。


退職金は四分の一になったが、実は貯金については女房の方が多く持ってやがったことで、家の名義を女房に変えても逆に俺に払うことになったんだ。笑えるぜ!


これがありゃ、年金の支給開始まで大丈夫だろ。


そして俺は、リサの部屋でのんびりと過ごすようになったんだ。


なのに、そうやって家で寛いでる俺に、


「掃除の邪魔よ。散歩でも行ってきたら?」


とかホザきやがった。ずっと一緒に暮らしてるうちに女房気取りになってきたみたいで、態度がでかくなったんだ。


「はあ? 定年まで勤め上げたんだ。ゆっくりさせろ!」


「……」


俺の言葉にリサは黙って不満げな目を向けてきた。それは、元女房や娘が俺に向けてたのと同じものだった。


くそったれ、こいつもか。やっぱ、女は歳を取ると腐るだけだな。でもまあ、家政婦としちゃ使えるし、介護が必要になったらこいつにやらせりゃいい。これまでさんざ金を使ってやってきたんだ。それを返させる。


そのリサも、さすがに四十も過ぎたババアになってきたからかホステスは続けられなくなったそうで、今は<スーパーのパートのおばさん>だ。やだやだ。女ってのは本当に歳取ると値打ちがなくなるな。女に生まれなくてよかったぜ。


そうしてさらに八年。リサの部屋でのんびりさせてもらったが、ある日、酒を飲んで帰ると、部屋が<もぬけの空>だった。俺が買ってやった家財道具も何もかも、リサが持ち逃げして姿をくらましやがったんだ。


「ふざけんな! ふざけんな! ふざけんな!!」


なんだこれはよ!? クソ親に、格闘技マニアだったクソ親父に<安斗仁王あんとにお>とかいうふざけた名前付けられて、<キラキラネーム>とか揶揄されて、そうやって他人の名前を笑うしか能のないバカ共より俺が価値のある人間だって証明するために必死に仕事を頑張って食わせてきてやった結果がこれかよ!?


クソが! どいつもこいつもクソばっかりだ!! やっぱ、さっさと日本を脱出するべきだったぜ!!


と思ったが、八年の間に、貯金も退職金も食い潰してしまってて、海外に移住するには心許ない程度しか残っていなかった。


七十を過ぎた俺にいまさら就職口もなく、あれほど真面目に勤め上げて年金保険料も収めてきたってのに肝心の年金も雀の涙。


仕方なく俺は、残った金で<介護付き高齢者向け共同住宅>ってやつを契約。年金でつましい生活をすることになった。


俺みたいな正直者が馬鹿を見る。


結局それがこの世ってものかよ……!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る