晴れて自由だ!

それから十五年。俺はリサと暮らしながら仕事を続けた。ホントはもっと早く退職するつもりだったんだが、政府が、年金の支払い開始を七十歳まで引き上げやがったから仕方なく六十五まで務めたんだ。


その間にも、俺の知らないうちに娘が結婚してたり、孫を生んだりしてやがった。父親の俺に挨拶もなしとか、どういう了見だ? しかも、孫の顔を見たのも生まれて二ヶ月後で、その上、写真でだぞ? 


俺が稼いでやったおかげで大きくなれたクセに、どういうつもりだ?


まあいい。あんな寄生虫のクソ女の娘と孫なんざ、こっちから願い下げだ。


だが、女房が、「話がある」とかホザきやがるから、俺の方は話したいこととか何もなかったが、あんまりしつこいから家に戻ってやったら、


「なんだこれは…?」


「見ての通り、離婚届です。それと、あなたの不貞行為の証拠。財産分与と慰謝料、きっちりいただきます」


弁護士も同席させてそんなことを言ってきやがったんだ。


「ふざけんな! お前が妻として俺にちゃんと尽くさなかったのが原因だろうが!       


誰が払うか、そんなもん! むしろ俺がもらいたいぐらいだ!!」


そう言ってやったが、女房の隣にいた弁護士が、


「では、離婚調停へと入らせていただきます。それが不調に終わった場合には正式に裁判で争うことになるでしょう。こちらは、あなたが娘さんにふるった暴力についても、医師の診断をとってあります。あなたのこれまでの行いが、あなたにとって不利に働くでしょうね」


「はあ? 親を敬わないような子供を躾けんのが親の役目だろうが! 親にはな、子供を躾ける義務ってもんがあんだよ!!」


「そうですね。でもあなたの行為によって娘さんは口の中を三針縫う怪我もしました。これは、親の裁量や監督といったものを大きく逸脱しています。その時点で刑事事件にしてもよかったのですが、あなたが心を入れ替えてくれることを期待して待ってきました。なのに、あなたはその期待を踏みにじった。今回のことはあなたが招いたことなのです」


「殺すぞ、きさまぁ!!」




で、この時の会話もしっかりと録音してやがってそれも証拠として提出するって言いやがったから、もう何もかもめんどくさくなってよ。慰謝料を減額させる代わりに家の名義は女房にするってことで、財産分与の分と合わせて退職金の四分の三を渡すことで決着つけたんだ。


向こうは、家も退職金も全部寄越せと息巻いてたが、俺が突っぱねてやったら妥協しやがった。


ざまあみろ。


こうして離婚も成立。娘はもう成人して結婚もしてるから養育費は払わずに済んだし、清々したぜ。


これで俺は晴れて自由だ!


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