第3話 主人公(笑)の(笑)を外したい

 どんな世界でも僕は主人公になりたい。

 (笑)がついていない方の。


『からくり人形に転生』


 まるで主人公かのような体験を経ても結局、僕はモブ男子だ。

 鋼鉄の体になったばかりの頃は、怖くて、悲しくて、涙も出ないのに泣き続けた。

 逆境にただただ困惑する。


 実に主人公(笑)らしい。


 おまけにこの世界では、転生程度ではあんまりキャラが立ってない。

 なんというか、僕より主人公っぽい奴がいるのだ。

 いや、彼がいなくても結局僕は目立てないだろう。 性格だ。


 この世界の大人を困らせているのは自覚していた。


 この鋼鉄の体に入るはずだった人は優秀な兵士だったらしい。

 もしかして僕と入れ替わって、その優秀な兵士が父さんの後継者を僕より立派に務めている。

 何て考えたらぞっとする。


 どこで間違ってしまったのか、実際にからくり兵士になったのは僕。

 優秀とは程遠い不器用な少年だ。

 大人達は憐憫れんびんとも困惑ともとれる反応をしていた。


 それでも、鋼鉄の体で生きていかなきゃいけなくて、泣き疲れるほど時間が経って。

 僕は考えた。

 その答えは結局――


 本物の主人公になりたい。


 だ――


 この世界にきても結局僕は凡才だし、何かを覚えるには常人より時間を費やすだろう。


 子供の頃見た、漫画や映画の主人公。

 どんな苦難があっても乗り越えて、大勢の人間から認められていく存在。


 だから主人公の模範といえるような父さんに憧れた。


 美しい容姿で人々を魅了し、経営グループを世界経済の中心で活動させていく手腕。

 主人公を目指す僕の身近に、物語からそのまま飛びしたような父さんに憧れないわけがない。


 自分の容姿が好きだった。

 美しい父さんと似ていたのはそれだけだったから。


 社交の場に出席しても後継者として満足に振舞えない自分は陰口の対象だった。


「造形だけ美しい帯川おびかわのからくり人形。」


 不器用に振舞い、揶揄やゆされても僕の容姿は父さんの、主人公の息子である事を証明していた。


 今はそれすら失って、不器用なだけの鋼鉄の体になった。


 それでも僕は主人公になりたい。

 何の才能もなく、生身の部分がなくても。

 僕は主人公になりたくてずっと努力してきた。

 目立てるような性格でもない、才能もない。


 腹立たしいが、僕より主人公っぽい人間がいるこの世界で、僕は主人公になる。


 あきらめたく、ないんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る