第4話:階段を降りてきたのは……
前方のスケルトンが剣を振り上げる。速いが、今度は見える。
『くそ、君は本当にどこまでもゲーム馬鹿だよ!』
視界に剣の軌道が映る。流石ルナコ、仕事が早い。
俺はその斬撃へと飛び込むと剣を僅差で躱し、そのままスケルトンの腕を左手で掴んだ。
「おらあああ!!」
そのまま一本背負いの要領で、そいつを後方から迫っていたスケルトンへと投げ飛ばす。
スケルトンは骨だけの身体なので体重が軽く、アルター・テラ内のステータス補正がなくてもなんとか同じような動きが出来た。
スケルトン系のモンスターには斬撃は効かず、有効なのは打撃系か魔術だ。当たり前だが、魔術なんてリアルでは撃てないので、必然的に打撃で攻めるしかない。だが、グローブもナックルもないのに生身の拳で骨を殴ったら、それこそ骨折り損になりかねない。
ならば、選択肢は限られてくる
いつぞややった道場破りクエストで取得した投げ技を使うほかなかったのだ。
狙い通りスケルトン同士がぶつかり、床へと倒れた。その衝撃で、スケルトンが持っていた錆びた剣が床をくるくると回りながら俺の方へと滑ってくる。
「ラッキー」
俺はその柄がこちらへと向いた瞬間につま先を滑り込ませ、剣を跳ね上げた。
『剣の軌道、計算済みだよ』
「さっすがー」
目の前を回転しながら上昇する剣の柄を空中でキャッチする。下手すれば怪我しかねないが、剣の動きはルナコのおかげで見えている。
『スケルトン系に斬撃は効かないんじゃなかったのかい?』
ルナコの疑問に、俺は答えず、そのズシリと重みを訴える錆びた剣を見つめた。うむ、やはりアルター・テラ内の物と同じ形だ。であれば――仕様も同じだろう。
起きあがったスケルトン達が俺へと再び駆け寄ってくる。
俺は素早く周囲を見渡した。暗い通路の壁に掛けられた松明の明かりは、数メートル先しか照らしてはくれない。
だが、それで十分だ。
「大丈夫。あと一手も見付かった。ふ、スケルトンなぞ恐るるに足らず!」
剣を手放したスケルトンが迫るが、それにカウンター気味に剣を思いっきりフルスイング。
手に衝撃が伝わると同時に、スケルトンの頭蓋骨が乾いた音と共に粉砕される。
「錆びた剣は、名前の通り錆びて刃がボロボロになっているせいか、内部ステータスとしては斬撃ではなく打撃ダメージとして処理されるんだ。やっぱりそういう部分もアルター・テラ準拠みたいだな!」
ゆえに、普通の剣なら弾かれるところを、見事クソ骨野郎の頭をかち割ったのだった。スケルトンが俺の目の前で崩れ、跡形もなく消えていく。
『ってもう一体くるし、それに剣が!』
そう。ルナコが言う通り、剣を持っているスケルトンが迫ってくるし、俺の剣はというと半ばで折れていた。錆びてボロボロなのだから衝撃を加えればあっさり壊れてしまうも、やはりアルター・テラと同じだ。
既に俺の視界では、スケルトンの刺突が俺の心臓を狙っているのが見えている。
それを避けるように地面を蹴って壁に向かって飛翔、更に壁に掛かっていた松明を蹴り上げる。
火の粉が爆ぜ、松明が舞う。その落下予測を見つつ、手を伸ばす。
『なるほど、それが〝あと一手〟ってやつか』
「イグザクトリィ! 炎と打撃属性が付いている神武器だぜ!」
俺はキャッチした松明を棍棒の如く振りかぶって、落下する勢いのままスケルトンへ――振り下ろした。
バガンッ! という鈍い音と共にスケルトンが炎上。うん、ただの松明で殴ったぐらいでこうはならないが、そうなっているので仕方ない。ゲーム的な外連味ですな。
『なるほど、ちゃんと倒す手段は……用意されていたというわけだね』
通路に無数に掛かっている松明。今のところ出現するモンスターはスケルトンのみ。
「まあ、クソゲーであることには変わりはないが……やれそうだな」
スケルトンが炎上しつつ床をもんどりうち、やがて灰となって消失。
『とにかく脱出しよう。例えクソゲーだろうとゲームオーバーイコール死なんて馬鹿げている』
「だな。とりあえず進もう」
その後、俺はもう一本松明を壁から外し、松明二刀流という、どこかの部族のフレイムダンサーのような姿になるが、適度に出現するスケルトン相手には丁度良い。
順調にルナコの指示を聞きつつ通路を進む。スケルトンは全て松明アタックで処理して、松明が壊れたら新しいのに変えるだけだ。
『前方、10m先に階段があるね』
「やっと第一階層突破か。スケルトンしか出ないとか舐めてるな」
『……先輩、命がかかってることを忘れないでくれよ。死なれたら困る』
そのルナコの言葉に、若干の気恥ずかしさみたいなのを感じて、俺は思わず邪悪な笑みを浮かべてしまう。
「おんやあ? 死なれたら困るってもしかしてルナコさんって俺っちにホの字でござんすかあ? いやあこんな状況で言われたら照――」
『VR機ハックして電磁波でその腐った脳髄を焼き切るぞ。借金を返してもらわないと困るだけだし!』
「……すみません」
ルナコなら本当にそれが出来そうなので、冗談はそれぐらいにしておく。
『馬鹿なこと言ってないで、ほら、階段前の敵倒しなよ』
そこには階段を守ろうとするが如く、スケルトンが立っていた。
「へいへい」
ルナコは既にスケルトンの行動パターン、行動速度をここまでの間に完璧に把握し切ってしまっていた。俺の視界には、スケルトンの数秒先の動きが見えている。
こうなるとクソゲーではなくただのヌルゲーだ。
あっさりとスケルトンをすれ違い様に倒しつつ、俺は階段へと足を掛けた。
その瞬間に俺の視界の端で、文字列が浮かぶ。
――シグルLV1→LV2
――ファンタズマが解放されました。
「ん? レベルが……上がった? それにやっとファン――」
『先輩っ!! 上だ!!』
「――ズマ使え……へ?」
俺はその文字列に気を取られてたせいで、ルナコの警告を聞くまでそれに気付かなかった。
「キャアアア!! ど、どいてえええええ!!」
それは――必死の形相でこちらへと階段を駆け降りてくる、セーラー服を着た少女と、その後ろから迫る二足歩行する豚のようなモンスター――オークの群れだった。
★★★
アルター・テラ運営本部――特別モニター室。
「どう? ARダンジョンの首尾は」
それは、艶のある女性の声だった。無数の文字や数字の羅列が並ぶモニター群を睨んでいた白衣を着た美女に、コンソールを叩いている男――おなじく白衣を着ている――が言葉を返す。
「順調だよ。想定通りに進んでいる。現実の完全再現による同化そしてそれを逆手にとった逆改変。君の理論通りさ」
「まだまだこれからよ」
「しかし……ARダンジョンね……上手いこと言ったもんだ」
男が、モニターに映る白い塔とその内部の映像を見ながらぼやく。
「何がかしら? Arrosion Reality……
「彼らはきっと……Augmented Reality……拡張現実だと思っていただろうに」
「あら、それも間違ってはいないわ。現実が虚構に浸食され……拡張されるのだから」
「やれやれ……おや、君のお気に入りが頑張っているようだよ」
男が軽薄な笑いと共に、モニターの一つを指差していた。そこには、セーラー服の少女とオークの群れに驚く一人の青年が映っていた。
「ちゃんとLV2まで上がったようね。へえ……貴方もイジワルね。〝
「悪意についてなら、君には負けるさ。さあ、彼らもそろそろ気付く頃だろう。このダンジョンを攻略するのに、何が必要で……何を犠牲にすべきか」
男の言葉に、しかし美女は応えなかった。
モニター室に、静寂が戻った。
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