第140話 テソット死守

リブレントの先発隊に対しては何とか優位に防衛を行えて士気が上がっていたテソットの街。しかし、街の北部に敵軍の本隊と思われる大軍が見えたことで、代官屋敷に集まった幹部が焦った声を張り上げている。

「王太子殿下の部隊はまだ到着しないのか!?」

「敵の先発隊に攻撃を受けたときから頻繁に使者は送っておりますが、返事はまだ」

「狼煙すらないのか?」

「はい、敵に気づかれることを懸念しているのか、なしのつぶてです」



一方、こう着状態の数日には余力があったので訓練をしていたレオ達。レオへの依存度が高いことを皆が認識しており、訓練にも力が入る。

一番新入りで魔法については自分が貢献をとの意識が高いケーラは、既に悪魔2体との≪契約≫≪召喚≫が可能であったが追加で天使グエンに対しても≪契約≫≪召喚≫ができるようになり手数を増やせるようにしつつ、漏れていた上級水魔法≪氷槍≫を習得する。そのケーラに教わりながら、ラーニナも≪氷槍≫を習得するだけでなく、中級火魔法≪火炎≫、そして悪魔アクティム、ファリトンとの≪契約≫≪召喚≫を習得する。

ベラもレオの負担を軽減するために≪飛翔≫習得を目指す手前としてまずは≪浮遊≫を、シュテアはすぐに役立ちそうな火魔法の上級である≪豪炎≫を習得。

上級魔法が使えるのに≪召喚≫等ができずに連絡手段に困っていたフィロは、天使グエンとの≪契約≫≪召喚≫を優先して習得できた。

その他、元々は魔法に縁がなく冒険者をしていた男性陣3人。中でも魔法習得に出遅れていたメルキーノは≪火炎≫を習得、残るエルベルトとカントリオは片手剣の上級武技≪飛斬≫を習得できた。彼らは魔法習得で魔力操作が上達したから上級武技にも到達したのかもしれない。

特に遠隔攻撃が可能な魔法を習得したメンバは、昼間の時間稼ぎで両軍が遠隔攻撃しあっているところで、実戦演習も行って習熟度を上げていった。

残念ながらレオは、メンバへの指導、ポーション調合、そして夜襲での疲れを取るための休息を優先することになり、新たな魔法や武技の習得には至っていない。



そのレオに対して代官屋敷へ招集命令が来る。

「おぉコグリモ子爵、あなたのおかげで敵の先発隊を食い止めることができていました。感謝しますぞ」

と声をかけてくれる幹部もいたが、予想通りというか代官マリアーノ・ダラムからは厳しい。

「敵も本隊が現れたことで、士気も下がってしまいました。その状態でこの兵力差を活かした力押しをされるとテソット陥落は回避できないかと。何か手段はありませんか?」

「申し訳ありません。兵法にあかるいわけでもありませんので、戦略や戦術は存じておりません。目の前の敵を少しでも減らすことしかできません……」

「では、今夜の夜襲をいつも以上に頑張って頂いて、着陣したばかりの敵の出鼻を挫くことをお願いできますか?」

「かしこまりました」


今までのリブレント王国の先発隊は、テソットの東西南北それぞれに陣はあっても西側が主力であった。そこへ本隊がやってきて、今はテソット北部の陣営が膨大になった状態である。そのまま大軍のまま北部を攻めてくるのか、4門それぞれに配分し直すのか不明だが、今夜はその状態のままである。先発隊から対面で詳細な戦況等を聞いてから陣立を見直すのであろう。

「レオ様、では今夜の夜襲はレオ様お一人ではなく、で良いのでしょうか」

「あぁみんなには一緒に行って貰うけれど、他の将兵はついてこないよ。足手まといになると思われるからと代官様に辞退されてしまったよ」

「そんな。確かに魔法が使えなかったり火力がなかったりするとそうなるかもしれませんが。せめて陽動だけでもしてくれたら良かったのに……」

「ごめんね、あぁ言われると従うしかなくて」

「いえ、レオ様が悪いわけでは。コグリモ子爵の家臣団の力を見せつけてやりますよ」

とはいえ、≪飛翔≫が可能なのがレオだけで、昼間も4門を見張られているので戦馬(バトルホース)で脱出しておくこともできないことから、夜になってから門以外の場所でこっそりと城壁を越える必要がある。結果、レオと天使・悪魔以外に≪浮遊≫を覚えたベラも少し手伝って戦馬を含めた仲間達を街の外に出す。闇魔法≪大夜霧≫をレオが発動しつつ、≪夜目≫を複数人で手分けして行うことで、夜襲準備とする。


敵と戦闘になっても≪飛翔≫で逃げられるのはレオだけであるので、街の東の魔の森を活用することにする。

まず西側をいつものように夜襲して、そちらに気を取られるであろう北側、大量に増えた本隊の兵糧等を本命に見据えて、反撃が始まると魔の森に逃げ込み、余力があればそのまま東側、南側に移動しながら夜襲して最後にもう一度西側に火をかけてから西門の中に逃げ込む作戦である。

もし途中でうまくいかなければ、魔の森の中で逃げ続けるか、最寄りの門に逃げ込む予定である。夜襲自体は他の将兵は参加しないが、4門への配置だけは了承されたので、少なくとも門付近に行けば味方が門内に引き入れてくれることを期待している。

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