第131話 テソットへの駆け付け

ルングーザ公国との往復でも通った主街道、王都メッロから東へ進むレオ達。テルセーナ、テスケーノ、マントーネの3つの街を過ぎたところで北上しテソットの街を目指す経路になる。コリピザ王国の現国王スクゥーレ・マストヴァを、ルングーザ公国からテソットまで連れて行き、そのテソットでクーデター蜂起して王都メッロまで攻め上がったのを支援したレオ達にすると道中には色々と思い出すところが多い。


「コリピザ軍はどこまでたどり着いているのかな?」

「俺たちは砦と王都の往復などして時間がかかっていたけれど、軍隊行動はもっと時間がかかるだろうから、テソットには着いていないだろうね」

「あののんびりの移動は暇だから嫌だなぁ」

「フィロ、私たちは早い馬に乗っていますが、歩いている人が多いのですよ。文句を言ってはダメですよ」

襲歩(しゅうほ)や駈歩(かけあし)ほどではないものの、常歩(なみあし)ではなく速歩(そくほ)の速さで戦馬バトルホースを進めているレオ達。王都から先に出発したはずのコリピザ王国軍を探しながら進んでいる。

テルセーナの街で宿をとった後、テスケーノの手前で大規模な軍隊を発見する。


「やっぱり結構手前で合流できたね。で、誰にどんな手続きをするの?」

「一応、宰相のホレイモン様から預かった書状を本陣に提出するようには言われているけれど……将軍か誰かの指示を受けることになるのだろうね」

「じゃあ、またこの濃紺ローブと仮面で進むしか選択肢はないよな。人数が増えて不審がられるだろうけれど」

休憩中と思われるタイミングで、エルベルトの言うように濃紺ローブと仮面の9人が、ホレイモンからの書状を提示して本陣まで連絡して貰う。

「コグリモ子爵、お待たせしました。こちらへどうぞ。お付きの方は2名まででお願いします」

本陣にいくつか建てられた仮テントのような天幕の一つに案内されるので、ベラとエルベルトの2人と共に天幕に入る。


「おぉコグリモ子爵、よく来てくれた。ホレイモンの書状を見た。我々が王都を出た後、砦だけでなく王都も守ってくれたそうだな。感謝するぞ」

いきなり声をかけて来たのは王太子となったタージリオ・マストヴァ・コリピザであった。

「え!?あ、王太子殿下、失礼しました」

急いで跪いて頭を下げるレオ達。

「あ、良い、良い。父を含めて我々が王族と名乗れるのも、コグリモ子爵のおかげであることは重々認識している。他人が周りにたくさんいるようなときでなければ気楽にして貰いたい。少し前までは貧乏貴族の小倅でしかなかったから、そちらの方がこちらも気楽でな」

「え、あ、はぁ」

以前のテソットから王都メッロへの攻め上がりのときにも、軍勢が膨れ上がった最後の方で合流してきたタージリオに対しては、レオ達はそれほど会話する機会も無かったはずであるが、この距離感。レオにとっては正直戸惑いしかない。

「殿下、いきなりそう言っても難しいかと」

近衛なのか近くに居た者からフォローが入った気配である。

「そうか、まぁ仕方ないか。で、本題に入ろうか。子爵にここで合流して貰うと、こののんびり移動に付き合わせることになるのが申し訳ない。と言うのもあるが、できれば早めにテソットの街の付近に行って貰い、万が一のリブレント王国の速攻に備えて貰えるとありがたい。多分あちらも大軍勢でゆっくり移動とは思うのだが」

「は、かしこまりました」

「あ、名目だけでもあるから、テソットの城門にずっと居て欲しい訳でない。日帰りでちゃんとテソットに戻られるのであれば、適当に狩りにでも行って貰って構わない。その旨も、テソットの代官達への書状に記しておこう」



どこで誰が聞いているかも分からないので、書状を預かった後、早々に軍勢から離れてからテスケーノに向かう馬上でようやくエルベルトが感想などを話しだす。

「あー、びっくりした。あれが王太子?あんな気さくな人だったの?」

「いや、そんなに話をした記憶が無いんだけれど……」

「殿下も仰っていましたが、レオ様はクーデター成功の立役者ですので、余計に、ではないでしょうか」

「それも皆さんの力のおかげなのに……」

「俺たちは堅っ苦しい軍勢の中で移動しなくて済んだのがありがたいけれどな」

「カントリオは貴族の家臣ってこと忘れているんじゃない?」

「そういうフィロは?」

「私はスラム街の子供だから」

「フィロ、いつまでもそう言っていないで、レオ様のご迷惑にならないように努めない!」

いつものやり取りの横で、新しく仲間になったケーラとラーニナが戸惑いシュテアとこそこそと会話をしている。

「シュテア、私の認識の貴族の主従とはだいぶイメージが違うのだけど……」

「私も他の貴族を知らないけれど、いつもこんな感じよ」


レオはふと、あれが第3公女マルテッラ様の婚約者になるのか……と考える。

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