第95話 テスケーノ攻防事後処理

スクゥーレ達は戦勝にわく者たちを抑えて、取り急ぎの軍議を行っている。

「街の南西に居た国王軍は壊滅し、将官達は死亡もしくは捕縛され、下級兵や徴兵達がその跡地で休息している状況です」

「街内部の北部の被害もある程度で抑えることができ、ハイオークたちは殲滅、見張りの国王軍なども処分済みです」

「ハイオークを操っていた黒ローブたちも片方が死亡、片方は捕縛し、奴隷処理も済んでおります。国王軍の一部ではなく、傭兵のような別組織であったとのことです」

「ひとまず一息ついた、というところでしょうか」

「今日明日に王都からの増軍が来ることも無いでしょうし、もし来ても今の兵力で不安は無いでしょう。まずは怪我人への対応、街中の復旧、投降して来た兵士たちの対応と、捕縛した将官達の対応をしながら休息し、体制を整えてから、3つ目の街テルセーナへ進軍ですかね。それを越せばいよいよ王都メッロですね」

「よし、今日のところはいったん解散して睡眠を取ろう。すべては明日起きてからだ。明日は明日で大変だから、戦勝に浮かれて深酒しないようにな!」

「「ははは」」



翌朝、レオは目覚めた後、フィロが突進、抱きついてくる。

「レオ、危なかったね。無理しすぎだよ」

「レオ様、昨夜は流石に……もう少しご自愛なさってくださいね」

「そうだね、2人にも危険な目に合わせてごめんね」

『これはまた無茶をしかねないから、もっと頼りになる仲間を増やして貰うとかしないとダメかも』

ベラに呆れられているとは気づかず、朝食を食べてからは、ホレイモン達に相談してまずは治療所に向かうことにする。


治療所には溢れるほどの怪我人が運び込まれている。ハイオーク騒ぎで怪我をした住民、クーデター軍と国王軍それぞれの将兵などである。しかし、一刻を争う致命傷の者は、以前に提供した魔法回復薬である高級の傷回復薬で昨夜のうちに回復させていたとのこと。

「重傷者、特に一般住民の方から優先しますね。こちらに」

「すまねぇな。お前さんたちなんだろ、昨夜に俺たちの街を守ってくれたの。小柄な黒っぽいローブの3人組って聞いたから」

「ははは」

適当に誤魔化しながら順次治療を行っていく。一般住宅も被害にあったのと、軍同士の衝突も最後の一大決戦であったのことから、魔力回復薬を飲みながらいつ終わるとも分からないぐらい回復魔法をかけ続ける。レオはこの機会にと、天使グエンに魔導書へ増やして貰っていた王級回復魔法≪王回復≫も訓練することで≪上回復≫を複数回かけるよりも魔力消費や時間の効率よく回復できるようになっていく。≪王回復≫は臓器欠損までも回復できるものであるが、通常部位の回復も効率が良いからである。治療対象が一般住民から次第に将兵たちに移り、重傷者から軽症者に変わって行き、後は神官たちだけで対応するとなったのは、日も傾いた時間帯であった。昼食も片手間で取った程度であったので、フィロの要望を聞いて屋台で買い食いを楽しんで代官館に戻る。


レオたちは治療行為で一日が終わったが、一般将兵たちもかなり厳しい一日を過ごしていた。まず街中で唯一実害のあった北部の復旧である。ハイオークたちが暴れたのと戦闘行為があったことで、修復では難しいと思われる建屋を取り壊し、避難民たちのための簡易宿泊所とするテントの設営、炊き出しなど。

そして街の外でも混乱の酷かった国王軍の陣営であった南西地区では、テントや台車等のうち修復できる物資とそうでない物資を選別し、焼却処分にするがれきを何か所に集めつつ、これからも寝起きするためのテントの再配置、北東のテスケーノの街に向けて設営されていた柵などを王都メッロ、3つ目の街テルセーナのある西側からに対する防衛へと向きの変更も行った。



スクゥーレ達幹部や将官達も忙しい一日であった。投降もしくは捕縛した国王軍の将官達への尋問、聞き取りによる情報整理である。

「やはり王都メッロやテルセーナに援軍要請をしていたようです」

「では、すぐにでも攻めてくるのであろうか」

「いや、あまり色よい返事は無かったそうです。どちらも自分達の防衛を優先しているようで」

「ふむ。国王軍を吸収した我々の戦力はどのくらいになったのかな」

「合計2.5万ほどです。徴兵、志願兵などが1万ほどで、従騎士・従士・冒険者などは1.5万、そのうち騎兵は3千程です」

「テソットで蜂起したときより大幅に増えましたな」

「王都やテルセーナにはどのくらいの兵が残っているというのだ?」

「テルセーナにはマントーネやテスケーノと同等規模である通常護衛の数百、そして緊急徴兵された1千~2千ほどのようです。王都は常備軍の半数ほどがココに向かったとのことで、常備軍だけで1万。徴兵が1万以上はいると考えるべきでしょう」

「うーむ。それで、各貴族達の去就について、誰が我々クーデター派になると見込んでいたのかは分かったのか」

ある程度はスクゥーレ達の見込み通りではあったが、どちらにも良い顔をしていたようである者たちも分かっただけでなく、まれにどちらにも渋い顔をしていた者が居たことも分かった。後者は未だにどちらが優勢か見極め出来ずに悩んでいると思われる。

「これで、戦後において奪爵(だっしゃく)、降爵(こうしゃく)する候補が見えて来たと言えるな」

「宰相、大臣、各地の代官など各種役職の見直しもありますしな」

「ところで、そろそろ考えなくてはいけないのが、冒険者への報奨も、かと。一般冒険者にはある程度の金銭で良いと思われますが、レオ殿たちは功績が大きすぎるため、ミスリル貨が膨大に必要になります。もしここで報奨を出し渋ると彼らを支援に出してくれたルングーザ公国からの対応が厳しいものになるかと」

「それこそ我が国の爵位の名誉を与えるのではどうなのか?」

「既に、公国で爵位を与えられておりますので喜ぶかどうか。また複数国から爵位を与えることが制度的に可能か、公国としても認めるか等の課題があります」

「……過去の事例を調べておくように。このまま支払えないことを見越されて逃げられてしまうのも大変であり、仮にでも与えるものは無いのか」

「黒ローブ達の装備や奴隷はどうか?」

「本来、冒険者が倒した獲物は自身の物ですので、前回・今回のハイオークたちの素材も含めて、もともとレオ殿の取り分でございます。最後の清算対象です」

「では少しでも誠意として、前回と今回のハイオークキング、ファイターたちの魔石と合わせて黒ローブ達を先渡ししておくように」

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