第15話 武技

ルネは弓と槍の指導に、レオとガスは片手剣と盾の指導に、と二手に分かれて、まずそれぞれの武器の武技(アーツ)の初級と中級にどのようなものがあるかを実演して貰う。目指す姿のイメージをつかむことから、とのことである。


弓の初級≪穿孔≫は通常の射出より貫く力が向上、中級≪連射≫は2本の矢をまさに矢継ぎ早に連射するもの。槍の初級≪刺突≫も通常の突きよりも高い威力、中級≪強打≫は打撃武器としたときの攻撃力向上、中級≪剛撃≫は穂先での攻撃力向上。

片手剣の初級≪斬撃≫は切り裂き威力の向上、中級≪連撃≫は続けて2回の攻撃、中級≪剛撃≫は打撃の意味も含めた攻撃力向上。盾の初級≪挑発≫は盾を叩いて相手の敵対心を自分に向ける、初級≪受流≫は敵の攻撃を単に受けると盾を持つ左手に衝撃が来るのを受け流すことで盾にも左手にもダメージを受けない、中級≪盾叩き≫はシールドバッシュとも言われる盾で叩くことで衝撃ダメージを与えるもの。


多くは練習用の人型模型に対して実演してくれるのだが、例えば≪斬撃≫は抵抗が無いかのように木を綺麗に切断、≪剛撃≫は木を圧し折る物であることがはっきりと分かった。これらを習得したら確かに一段も二段も上に行けると思えたが、まずは初級からな、と念押しされる。

例えば≪連射≫や≪盾叩≫は分かりやすく形だけを真似することはできても、見本で実演されたほどの効果は出ない。きっと≪挑発≫も形だけでは効果は無いのであろうが、頭の弱い魔物には効果があっても知恵のある人間には聞かないという言葉通り、こればかりはギルドの訓練場では実感がわからない。


3人はそれぞれ見本を頭にイメージしながら練習してみるが、簡単には再現できない。

「気持ちを込めろ」

「気合いを入れろ」

等と講師も言うが、感覚論ばかりでなかなか理解できない。3人ともちょうど武器が2つずつであり、午前と午後に分かれて1つずつ学んだのだが、結局つかむことはできなかった。

「感覚をつかむまで自主練習することだな」

と言われたので仕方なく、日々の自主訓練の素振りでは講師の実演をイメージしながら取り組むことになった。



それからもしばらくは、平日は仕事あがりに自主訓練、休日には荷馬を連れてホーンラビットの狩りを繰り返す3人。そのうちレオの魔法も直径10㎝程の球を生み出せるようになり、ホーンラビットに試すと火魔法では毛皮を焦がしてしまいルネに怒られ、水魔法だけを短剣投擲のかわりに使用するようになった。

その頃には、横で見ているガスにしてみると、ルネがレオの魔法に対して「すごいじゃない」と言うようになり、今までのレオに対する侮りというより頼りない弟へのお姉さんかのような対応が明らかに無くなって行くのが分かる変化があった。ルネとレオはそれぞれ気づいていないようだが、レオも自信が出てきたのか、発言もぼそぼそではなく自らある程度話すようになってきていた。

草原への往復の暇なときに、ガスが文字や計算を教わっていることも自信の一因になっているのかもしれない。ルネは家を出るまでの間に父ロドの寺小屋で最低限を学んでいたので人並であるし、レオはその寺小屋を手伝うほど記憶力も頭も良い。ガスは孤児院出身であり職場でも力仕事が多くて学ぶ機会が無かったので、ある時ふと会話に出たときに頼んでみたのである。ルネはあまり人に教えるのに向いている性格では無かったが、レオは寺小屋の先生であるロドをずっと見てきているので、放り出すことなく教えることができた。また、ロドに相談し、寺小屋の教科書の複製を1つ余分に作ってガスにあげることで、ガスが平日に自習した内容を休日の移動時に確認することができるようになり、人並に少し見劣りする程度にまでは成長させることができた。そのガスへの指導とそれが見える形で結果が出たことがレオの自信に繋がっているのだとガスは感じていた。



当然、レオの変化に両親や兄も師匠ロドも気づくが、良い傾向なのでそのことには触れずにおくことを互いに意識合わせしていた。それよりも、ロドはレオの魔法習熟が進んだことを踏まえて、さらなる習得、魔法使いとしての成長をどう導いてあげれば良いのかを悩んでいた。

正直このまま人付き合いが普通になって行くのならば、自分の後を継がせて薬屋や寺小屋を任せても良いと思っている。レオの実家の料理屋と宿は、レオの兄のクロが継ぐであろうし、自分の娘のルネは薬屋や寺小屋が無理で皮革職人のところに行っているのである。ルネと結婚するかまでは本人たち次第だが、後継者になってくれたらと思うところもある。

しかし、1,000人に1人しか魔法使いが居ないと言われる世の中で、この小さな港町に留めることで魔法使いとしての成長の可能性を無くしていくのも忍びない。ただ、希少だからこそ多く居る剣士や弓士と違い講師役もなかなか居るわけでもない。都会に送り出すと、もっと多くの魔法に触れる機会もあるだろうが、変なところに預けると、レオの超記憶を使って魔導書の複製などだけのために監禁することすらあり得るのも心配である。マシになったとは言え、まだ人付き合いに苦手感もある上に、剣の扱いも少し覚えた程度でまだまだ自己防衛力にも不安がある。

前にレオの怪我を治してくれたような、数少ない冒険者の魔法使いの仲間に入れて貰うにしても、相手との相性もあるであろうし、そもそも魔法使いの冒険者も少ない。


ロドは悩みつつ、もう少し人付き合いに不安が無くなるのと、剣の扱いや魔法の成熟度があがるまでには何とかしないといけないと考え、数少ない魔法関係の知人である魔道具屋の店主などにも相談を続けるのであった。


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