第6話 魔法基礎

 持ち帰った材料の処理に一区切りがついたところで、レオはロドに改まってお願いをする。

「師匠、魔法を教えて欲しいのです。お願いします」

 今までも魔法使いを希望している気配もあったが、明確に意思表示をしたのは初めてであり驚かされる。昨日の狩りも何かのきっかけになったのかもしれない。

「分かっていると思うが、俺は≪水生成≫しか使えない。最低限の知識は教えられるが、それ以上は無理だ。その前提で良いな」

「はい」


「ではおさらいを含めて」とロドは話し出す。


 この世界の魔法は、いくつかの分類に分けられる。

 霊的な存在である他者の力を借りる魔法として、精霊から借りる精霊魔法、神から借りる神霊魔法、悪魔から借りる悪魔魔法があり、これらは術者の魔力をトリガーとするが力そのものは他者に依存する。霊的な存在は日ごろ精霊界・神界・魔界などの異界に存在し、召喚などにより人界に力を現す。霊的な存在は、人々からの信仰により力を向上させるため、信仰を集めるために権能を顕示したがる者もいる。

 これに対して、自分の魔力をそのまま使用する魔法である魔術がある。

 さらに基本6属性として火風水土と光闇があり、例えば火属性でも自分の魔力を使用する火魔法(魔術)と火精霊による火魔法が存在する。


 魔法を補助する物には、触媒、詠唱、魔法陣、杖や指輪や魔導書などの発動体がある。これらを使用することで消費魔力を抑えたり、同じ消費魔力で効果を高くしたりすることもできる。逆に詠唱を無詠唱や簡易詠唱にすると効果が低下するか消費魔力が増えるが、同じ魔法を繰り返して習熟すると効果低下量を抑えられる。

 例えば水の生成の魔法を使用する際に、体内の無属性魔力を水属性に変換して現象実現する際に、水属性の触媒を使用することで属性変換のロスを抑制することもできる。水蛇のように水生の魔物からは水魔法の触媒、鳥の魔物からは風魔法の触媒など、様々な触媒が存在する。触媒にもランクがあり、例えば素材になる魔物のランクが上がるほど触媒のランクも上がる。


 魔法を含めた技術・スキルはランク付けされており、初級、中級、上級、王級、神級となる。その道の本職であれば中級、達人であれば上級以上であり、見習いでは初級かそれ未満である。

 このランクは、その級になったら何かできるのではなく、相応しい熟練度になったときにその級と認められる資格認定タイプである。


「俺は触媒や魔法陣は使用していないが、発動体としての杖や詠唱は使用している。また初級魔法を1つしか使えないから水属性初級未満というところかな。もっと魔力操作が上手くなって魔法回復薬を作れるようになれると良かったんだがな」

「1つでも使えるのはすごいです……」

「うん、ありがとうな。それとな、魔法はイメージが大事で、魔法の発動工程を示すという魔術語は必須では無いらしい。あくまでも魔力操作や発動イメージを他人にも伝えるために文字化したのが魔術語らしいのだが、自分で魔法を作れるような天才にしか関係のない話だろうがな」


 その後は魔力操作、自身の体の中の魔力を自由に動かしてみることを指導されたが、ロドも上手く教えることができずに難航する。自身の体内にある魔力を感じて、例えば右手に集める必要があるのだが、発動体の杖を借りてやってみても、まず魔力の感知ができない。

 意識して呼吸をすると胸に空気を取り込んで吐き出すことは認識できるが、日頃から意識しているものではない。血液の循環も、心臓付近でドクンドクンというのを感じたり太い血管のところで脈をとったりすることはできるが、血が流れる様はどれだけ意識しても認識できない。それらと同じ感覚である。

 ロドは体全体にある魔力をかき集めてきて右手の発動体の杖に送り出すのだ、心臓付近に一番密度が濃く溜まっている、と言うがレオにはその感覚が分からない。


 いったん魔力操作は置いておいて、発動のイメージの話に移る。既に何度もロドが発動させているのを見ているため、何もない空間に水滴のような物が現れ始めて、それがだんだんと大きくなっていく様はイメージできる。ロドが言うには、最初からこんな大量にできたわけでは無く、指先程度からだったというが、後は習熟で増やしていったらしい。


「魔力操作ができて発動のイメージができればそれだけで習得することができる者も居るらしい。だが俺にはそんなことはできず、魔術語の詠唱が必要だった」

とロドが説明を続ける。

 そもそも魔法の発動はいくつかの工程に分解でき、例えば≪水生成≫(aqua(アクア)-generate(ジェネラテ))では

・必要となる魔力量、例えば10だけを体内から集める

・放出した魔力を水属性に変換する

・液体としての水を生成する

の大きく3つの工程がある。

 これをそれぞれ魔術語で表すと「dedicare(デディカーレ)-decem(ディチャム)」「conversion(コンバールショナ)-attribute(アッテリブート)-aqua(アクア)」「aqua(アクア)-generate(ジェネラテ)」である。これにさらに効果を変化させるための修飾語や接頭語をつけることもある。

 発動工程の魔術語を声にしたのが詠唱であり、魔術語のまま書き表したのが魔法陣である。ただ第1工程には使用する魔力量を表す部分があるため、もし紙や宝石などに書き込んだ魔法陣を使用する場合には、規模等の変更ができない。


「俺はこの3工程に合わせた魔力操作やイメージを、詠唱のリズムに合わせて覚えたので、無詠唱にするのは今からは難しいかもしれない。まぁ戦闘時に使用する攻撃魔法でも無いから特に困っていないしな」

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