超記憶レオの魔導書蒐(あつ)め

かず@神戸トア

レオは人付き合いが苦手

第1話 未来予測?

 とある洞窟タイプのダンジョンの奥、1人の青年が宝箱の前に居る。

 身長も高く整った顔立ちであるが、長い銀髪が顔を隠すように垂れており、ローブのフードを深めに被っている。

 ダンジョンとは、魔素が集まりやすいところに魔物が自然発生することで出来るともいわれている。さらに魔素が濃くなると巨大な魔石ができ、洞窟などその構造物自体が大きな魔物であるかのように成長し、人を呼び寄せるためのエサである宝物を用意しておきながら、魔物や罠を設置したり、成長することで階層を増やしたり奥行きを広げたりするようになる。通常の魔物が人を襲うのと同様に、ダンジョン内で死亡した人から魔力を吸収して成長すると想定されている。


 彼の後ろの広間には、牙虎(サーベルタイガー)の死体が数体転がっている。いずれも焼け焦げて死んだと思われる痕がある。

 サーベルタイガーはCランクの魔物とされ、Cランクのベテランの冒険者が1対1で倒せる程度と言われており、それを1人で数体も倒せたのであれば、彼はBランク以上の冒険者であることが推測される。銅級とも呼ばれるCランクで一生を終える冒険者も多い中で、若くして銀級とも呼ばれるBランク以上であるならば、かなり優秀な冒険者である。


 その彼が右手には短剣を握ったまま、左手で宝箱の蓋を開ける。中には黒い表紙の書物が一冊入っており、ニヤッとしながら取り上げる。

 短剣を腰の鞘に戻し、両手で書物をめくる。厚めの黒い表紙の中には羊皮紙に魔術語や魔法陣が記載されていた。

 魔術語は魔法の発動工程を表すものであり、その魔術語と幾何学模様で出来ているのが魔法陣であり魔法の発動を助けるものである。魔術語は表音文字ではなく表意文字であり、膨大な単語・文字があるため、自身が得意な分野のみを知るということも仕方ない。古代から忘れられてしまった単語・文字も存在し、遺跡から発掘されて発見することもある。ある魔法について、その魔術語や魔法陣が記された書物を魔導書と呼ぶ。1,000人に1人しか魔法使いが居ない世界において魔導書は初級魔法であっても非常に貴重なものである。


 通常は辞書や解説書を片手に読み解くような魔導書を、彼は立ったままスラスラと最後まで読みめくる。

 そして再び短剣を握った右手を差し出し、その魔導書に記載されていたであろう魔法、≪雷撃≫を発動させる。一筋のまばゆい閃光が走り、既に焼け焦げていた1体のサーベルタイガーの死体をさらに損傷させる。発動の成功を確認して青年は再度ニヤッとする。

 魔導書を一読しただけで中身を読み解き、その魔法を習得したということであろうか。


 宝箱の中身を確認終えたので、放置していたサーベルタイガーの死体の心臓付近に短剣を突き刺し、魔石を取り出していく。

 魔物は魔素が溜まったところで自然発生するとも、動物が過剰に魔素を吸収して変化するともいわれている。その魔物には心臓付近に魔石と呼ばれる魔素の集積された宝石のようなものが存在する。魔物の種類により色、大きさや形状が変わるが、基本的には赤紫色をしている。

 このサーベルタイガーはCランクの魔物でありそれなりの大きさでそれなりの濃さの赤紫色の魔石である。

 魔石を取り出した後は、その名前の由来でもある大きな牙を、短剣を駆使して根元からえぐり取ろうと四苦八苦している。


 1つの目標を達成して安心したのか、その作業に集中し過ぎたのか、周りへの警戒を怠(おこた)ってしまったことにより、10頭ほどのサーベルタイガーに囲まれていることに気付いていなかった。

 慌てて上級火魔法の≪火槍≫、槍の形をした炎を連発して数頭は倒すことができたが、魔力が持たない。先ほどの上級風魔法の≪雷撃≫だけでなく、その前の数匹のサーベルタイガーを倒すときにも≪火槍≫を連発していた上に、この場所にたどり着くまでにも魔力を消費して来ていたからである。


 残った気力を振り絞り短剣を振り回すも、魔法ほど訓練をしたわけでもない短剣ではサーベルタイガーに敵うものではなく、青年は食いちぎられて短い命を終わらすのであった……




 その青年を10歳ほどに幼くした姿の少年が、ベッドの上で大量の汗をかいて跳ね起きる。

「またかよ……」

と悪夢から覚めてつぶやく少年。

 最近、師匠に言われたことがきっかけで毎晩のように、ソロ冒険者になって最後に殺される夢を見るようになった。


 少年の名前はレオナルド。レオと呼ばれている。

 幼少のころから他者とのコミュニケーションが苦手で、実家に隣接する寺小屋の師匠の下で8歳から職業訓練中である。両親や師匠の期待に反して、寺小屋でも人とのコミュニケーションが取れないままであり、師匠に、

「レオよ、他者とのコミュニケーションが取れないと生死にかかわる冒険者になれ。確かにお前は記憶力が良く魔法使いの道にも進めるかもしれない。だが、コミュニケーションが取れずに1人で冒険をするソロ冒険者では長生きできない。何とかコミュニケーションを取り仲間を作るのだ」

と言われたのである。


 確かに冒険譚などで活躍する魔法使いや冒険者には憧れる。実家の宿屋に来る冒険者たちの自慢話に夢を描いたこともある。

 ただ、人との関わりは怖いのである。

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