第2話夢じゃなかった☆

翌日、朝広い部屋で目覚めた…

「夢じゃない…」

「お目覚めになりましたか?」

綺麗なメイドさんがすぐに声を掛けてきた。美羽は起き上がって水を受け取りつつ

「おはようございます」

「おはようございます。朝食を用意しますか?」

「お願いします。」

美羽はテーブルに移動して待っているとメイドさんがパンとスープを持ってきた。

「いただきます…美味しい♪︎どーやって作ってるんだろ?」

コンソメスープは澄み渡っておりほんの少しだけ入っている青菜が食欲を刺激する。

きつね色に焼き上げられたロールパンをお行儀悪くそのままパクリ。バターが練り込まれたロールパンは香り高く柔らかで日本で食べたものとは比べ物にならない。

「は~ん、しゃ~わせ~」

美羽はスープをおかわりしてロールパンも4個食べてしました。

「お腹いっぱい」

「それではこの後王様に謁見していただきますのでお召し物を整えましょう」

「うえぇ…中身が出るぅ…」

美羽は初めて着けるコルセットに朝食を食べ過ぎた事を後悔した。ドレスを着せてもらうと簡単に礼儀作法を教えてもらい謁見室まで案内される。

大きな扉が開くと玉座に王様が座っておりその前には宝箱が置いてあった。

「勇者よよく来た。わしはメダリスト国の王ノート・メダリストじゃ」

美羽は頭を下げる。

「私は海野美羽です」

「ミュー殿だな。もう聞いておると思うがそなたには魔王を倒して頂きたいのじゃ」

「私に出来るか分かりませんが頑張ります」

「それは心強い言葉じゃの。それでは旅立ちに向けその宝箱を取らせよう」

「有難うございます!」

美羽は宝箱を開けると金貨10枚と鈍い金色の剣が入っていた。

「それでは旅立つがよい勇者ミューよ」


美羽が出て行くと王様と大臣がニヤニヤしていた。

「たった金貨10枚であの憎き魔王が倒せれば笑いが止まらんのう」

「あのような小娘に大金など与えられませんからな。すぐに死んでしまうのがオチでしょうて」

「なぁに死んだら死んだでまた勇者を召喚すれば良い。次はもっと強そうな奴が来る事を期待しようぞ」

「そうですな」

「「ワッハッハ」」


先程の部屋へ戻りメイドさんにこの世界の常識を教えてもらう。この世界ではスキルが大切なようだ。頑張ってスキルを手に入れないと何事もうまくいかないらしい。うちは何のスキルを持っているか分からないから冒険者ギルドで鑑定してもらった方が良いらしい。

「ふぅん…鑑定ねぇ…」

鑑定と考えると頭に文字が流れ込んできた。


チェリー

女性

年齢25歳

クラス メイド

レベル1

スキル ベッドメイク…


(あれ?もしかしてうち鑑定持ってる?)

美羽は自分を鑑定してみると…


海野美羽

女性

年齢17歳

クラス 勇者

レベル1

スキル 剣術レベル1 全属性魔法レベル1 身体強化レベル1 鑑定レベル1 料理レベル1…

「うち鑑定持ってるみたい」

「それはそれは…」

色々教えてもらい金貨10枚はどうやら日本で10万円位の価値しか無いみたい…

お城から1人で出ると門番のおじさんが

「大きな声じゃ言えねぇけどよ、勇者の嬢ちゃん魔王なんかほっといて適当に働いて結婚でもしたらどうだ?」

「でも王様が…魔王のせいでみんな困ってるんでしょ?」

「いや…あれはあのバ…やべぇこれ以上言うと不敬で首が飛んじまう」

門番は首をチョンとするジェスチャーをして笑う

「うーん?」

「まぁ日銭が欲しけりゃ冒険者ギルドでも行ってみな。嬢ちゃんでも出来るような簡単な依頼も沢山あるからよ」

「わかった。教えてくれてありがとう」

美羽は冒険者ギルドを探して歩く。

元の世界では女子高校生で体型は小学生並みだけど持ち前の元気さで男子顔負けに暴れ回っていた。部活で剣道をやっていたから剣の扱いはなんとかなりそうだ。

(確かにお金稼がないと金貨10枚なんかすぐ無くなっちゃうもんね…)

冒険者ギルドに入ると中は閑散としており受付はガラガラだった。

「あら可愛いお嬢さん。当ギルドのご利用ははじめてですか?」

「はい。はじめてです。仕事を探しに来ました。」

「冒険者証はお持ちでしょうか?」

「ありません」

「では冒険者証を作成をします。文字は書けますか?」

「書けます」

貰った紙に記入して渡す。

「えぇと日本ですか?聞いた事ない国ですね…」

「随分遠くから連れて来られましたので…」

受付のお姉さんは首を傾げつつ最低ランクであるFランクの冒険者証を発行して貰えた。冒険者証はドッグタグのようなものが付いたネックレスで首から掛けておかないといけないらしい。魔王軍のせいで魔物が大量発生しており身元確認無しでどんどん冒険者を増やしているらしい。魔物を倒すと魔石が出るのでそれをギルドに持ってくれば買い取って貰えるらしい。討伐対象の魔物なら討伐証明部位を切り取って提出すれば討伐報酬が貰える。魔物を倒さなくても薬草集めやドブ掃除等簡単な仕事も沢山ありやりたい仕事があれば壁に貼ってある依頼証を剥がして受付に提出すれば良いとの事。

「泊まる宿はお決まりですか?」

「まだです。」

「それでは優良宿一覧を渡しておきますので参考になさってください」

うちは「とりのとさか亭」という宿へ向かう

「いらっしゃい」

「とりあえず1週間泊まりたいのですが…」

「それでは金貨2枚です。こちらは素泊まり専用ですので食事は出ません。そのかわり部屋に備え付けのキッチンがありますのでご利用ください」

無事部屋が決まると街の外へ。

門番のおじさんが

「嬢ちゃんみたいな子供は森へ近づくなよ?強い魔物がいっぱい居るからな?」

「薬草を集めに行くだけですから」

鑑定を使って薬草を探していると

スライムがあらわれた。

美羽の攻撃剣で叩く

(注)銅の剣に刃はなく叩く武器

スライムはパシャンと弾け魔石が残る。スライムが出る度に魔法を試したりしてスライムを倒した。

お昼ご飯は屋台で買ったホットドッグ。

アイテムストレージに入れていたので熱々のままだ。

「あっつ…ハフハフ。美味しい♪︎」

焼きたてそのままのホットドッグはコッペパンに切れ込みを入れキャベツをカレー粉で炒めたものを挟んでその上に太いソーセージ。

最後にパンごと釜に入れて焼き上げてあるので上部に焼き色付いていて歯ごたえはサックリで香ばしい。キャベツにカレー味がついているのは冷蔵庫の無いこの世界で腐敗を防止する為だろう。スパイシーなカレー味にソーセージの塩気が絶妙であっと言う間に食べ終わってしまった。食後は水がわりの薄いエールを飲んで渇きを癒す。ごくごくと喉を鳴らしてエールを流し込みホットドッグの油を洗い流す。程よい炭酸が喉を駆け抜け軽い苦味と共に口の中に爽やかさが広がる。

「お水高かったからエールっての買ってみたけどちょっと苦くて美味しい♪︎エールって日本でビールの事みたい」

お腹を満たし再度薬草集めしながらスライム討伐。

周囲が薄暗くなってきたのでそろそろ街へ戻ろうと考える。

街へ向かって歩いていると…

「痛っ」

後ろから矢が飛んできて肩を掠める。

敵!?矢が飛んできた方を向いて剣を構える。しかし手が痺れて剣を落としてしまう。

私が混乱しているとだんだん足も痺れてきて膝をついてしまう。

「はぁはぁ」

四つん這いになって荒い息をしていると…

「こりゃ上玉じゃねぇか高く売ってやるからな冒険者さんよ」

山賊?のような男が現れる。

「うちは…勇者よ…うちに何をしたの…?」

山賊はうちの質問を無視してうちの両手を後ろに回した。

「ちょっ…やめてってば」

うちは両手を組むように後ろ手で縛られ膨らみの無い胸の上下にも縄を掛けられてしまった。

「解いてよ…変態!」

身体は痺れて動かないけど喋れたので必死になって叫んでいると…

「むぐぅ」

太い竹を噛まされて後頭部で縛られた。

山賊は私をひょいと担ぐと森の中に入って行った。

炭焼小屋のような所へうちを運ぶとブーツを脱がせて足首、膝の上下にもきっちり縄を掛けられて1本の棒のようにされてしまった。目隠しもされて完全に世界が真っ暗だ。

状況から考えると矢に痺れ薬のようなものが塗ってあったのだろう。うちに避けられたらこっそり逃げればやられる事もないもんね…

さて…これからどうしよう?現状は身体が痺れていて人形のように動く事が出来ない。痺れが治るまではとりあえず何も出来そうにない。とりあえずHPMPもほとんど無いし寝るか…

朝になり身体中の痛みで目が覚める起き上がろうとしたが手が動かない。

(そういえば山賊に縛られたんだっけ?)

縛られたままなのは変化無いがHPMPはちゃんと回復していた。

山賊が居ないようなので縄抜け出来ないか試してみる。

手首を抜こうと腕を左右に広げると胸の縄に阻まれて手首を抜く事が出来ない。

ならば胸の縄を解こうと肩を揺すったり身体を捩ったりしてみたが胸縄は身体に貼り付いているように身体にあわせて変形するだけで緩む事は一切なかった。胸縄を手で引き摺り下ろそうと試みるが身体と腕の間にある縄でギュッと絞られているから僅か数センチ程度動かす余裕もなかった。

足も擦り合わせてみたが縛られている箇所が多く、棒になった足を人魚のようにピチピチ跳ねさせるのが限界だった。

目隠しだけでも外せないか顔を地面に擦り付けてみたが無駄な努力だった。

(ダメ解けない!うち何で神様から縄抜けスキル貰わなかったんだろう!?この状態じゃ魔法も使えないし…)

(注)縄抜けスキルが必要な状況になる事は想像出来ないと思います。

(山賊?が帰ってくるまでに抜け出さないとうち売られちゃう!)

必死になってもがいたが男が帰ってきた時手首に擦傷が出来て赤くなっていた以外の変化を得ることが出来なかった。

「んんんー!!!」

「うるせえな!なんだよ?」

山賊?は口に咥えさせた竹を外した…

うちが縄抜け出来ない事に油断したのだろう。

「ファイアーボール!」

うちは自分の背中にファイアーボールを撃ち込んだ。ファイアーボールの勢いで山賊?に体当たりして吹き飛ばす。背中が焼けるように痛むが上半身を縛る縄は焼き切る事が出来た。

「ファイアーボール!」

山賊?の声がする方目掛けて火の玉が飛んで行く。直撃した山賊?は半死半生で転がっている。

うちは目隠しを外し足の縄を解いて自分の剣を回収すると山賊?を引き摺って城へ戻る。

城の兵士に山賊?を引渡すと懸賞金がかかった人攫いだったようで金貨50枚貰えた。

両手首に真っ赤な跡が残ったままでは縛られてましたって言っているようなもので恥ずかしいのでポーションを買って飲み身体に残った縄の跡も全部治してしまった。

「さてとお金いっぱい稼いだし…今日は美味しいものでも食べて宿屋でのんびりしようかな♪その前に着替え買わなきゃ♪」

新米勇者は城下町に消えて行った。


海野美羽

レベル5

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