第10話:一方その頃、魔法大学では1
ミューディは[魔法学校]の女子生徒だ。
もう就職先も決まり無事卒業課題も終えてあるので、学校に来るのは久しぶりだ。
今日は、毎月行われる[魔法学校]の演習試合がある。
勝敗には興味が無い。
どうせ今回も同じチームが勝つ。
王家のドラ息子がリーダーを務める、あのいけ好かないチームだ。
家柄でいばる性格の悪いクソ野郎。
そのクソ野郎に媚びへつらうクズ。
おこぼれを貰おうとする無能。
取り入ろうとする馬鹿。
戦力を均等にするために入れられた魔法の使えないガリ勉。
そんなチームなのに、彼らはやけに強かった。
最初はドラ息子が甘やかされているだけなのだと思っていたが、違った。
本気で潰そうとしても、あのチームに勝てる者はいなかったのだ。
しかし――。
「ねえ知ってる? レイヴンのチーム負けたんだって!」
「嘘だろ? あそこに勝てるとこあんのかよ」
「ううん、それが普通のチーム。何かあっさり勝っちゃったって」
「へえ! 時の運ってやつかねぇ!」
「レイヴンでも負ける時があるんだなあ」
あのチームが、負けた。
学内は噂でもちきりだった。
とは言え、それでもミューディは興味を持てない。
あのガリ勉を慰めてやろうかとも考えたが、やめにした。
特別仲が良かったわけでは無い。
何度か勉強を教えてもらったことがあるくらいだ。
そして本気で筆記試験の勝負を挑み、ミューディは彼に勝った。
魔法薬学一位の結果を自慢してやったら、彼は嬉しそうにしていた。
そして、こう言ったのだ。
『それじゃあ、今度はミューディが先生になって僕に教えて下さい』
根っからの学者肌。
一位を取るために学んでいるのでは無い。
学び、知識を蓄え続けた結果一位だっただけなのだろう。
いや流石にこれは評価を上げすぎか。
ともあれ、彼に関しては心配いらないだろう。
そのうち薬草学や魔法薬学の方からスカウトだって来るはずだ。
それに聞いたところによると――。
ふと、学生たちが言った。
「せっかく、足手まといがいなくなったのにな」
「そういや何でいなくなったの?」
「試験で不正してたんだってさ。答案用紙を盗んだって」
「ああ、やっぱり! おかしいと思ったのよ。魔法使えないくせにそっちばっかやっててさ!」
思わず、ミューディは足を止める。
いなくなった……?
試験で不正?
盗んだ?
ミューディは、噂をしていた学生の腕を乱暴に掴み上げた。
「その学生の話し、聞かせなよ」
※
「貴様は、俺の支援が仕事のはずだろう!!」
「俺は言われたとおりやりましたよ!」
「だったら何で負けた!? この俺の輝かしい戦績に、泥がついたんだぞ!」
レイヴンが仲間に向けて怒鳴り散らしているのは、部屋の外にも聞こえてきた。
「貴様を加入させたのが間違いだった! 出ていけ! 二度と俺の前にその面を見せるな!」
ややって、部屋の扉が乱暴に開かれる。
ミューディは、部屋から出てきた学生とすれ違った。
このチームの顔ぶれは知っているが、この学生は誰だ?
……あのガリ勉は、どこに行ったのだ?
と、レイヴンがミューディに気づく。
「――ッ! ミューディか……」
いつもの顔ぶれだ。
クソ野郎と、クズと無能と馬鹿が揃っている。
そして肝心の相手がいない。
「何のようだ、ミューディ」
「……ウチの弟子一号探してんだけど、知らね?」
「ハッ。お前まだリゼルとつるんでたのか?」
その言いようが気に入らず、ミューディは足に魔力を込め椅子を蹴り上げた。
木製の椅子が粉々になり、辺りに散らばる。
「質問に答えろボンクラ。……弟子一号、探してんだけど?」
すぐに取り巻きたちが敵意をむき出しにするも、レイヴンは手で制した。
「やめておけ。お前達では敵わん」
そして彼は向き直り、鼻で笑った。
「あぁ、リゼル君だったな? 出てったよ。いやさ、俺も騙されたっていうか、まさか不正を働いてたなんてな? リーダーとして責任を感じるぜぇ」
嘘だ。
それだと彼の知識量の説明が付かない。
「……どこに言ったか聞いたんだけど?」
「さあなぁ。故郷にでも帰ったんじゃないか? ど田舎の、なんて言ったっけ? ハハハ!」
取り巻きたちは、ニタニタといやらしい笑みを浮かべている。
昔から、このチームのことは気に入らなかった。
何度かリゼルを自分のチーム誘ったことがある。
結局彼は首を縦に降らなかった。
だからミューディは、レイヴンたちはクソ野郎でも根っこの部分ではリゼルと友人をやれているのだと考えていたのだが……。
……どうやら違ったらしい。
本当に彼らはクソ野郎だったのだ。
そしてこうも思う。
(あいつ、人を見る目が無いからな……)
リゼルは、人を信じすぎたのだ。
レイヴンという、ただのクズを――。
「なぁミューディ、ちょいと話しがあるんだが」
と、猫なで声になったレイヴンの手を払い除け、ミューディは踵を返す。
「ウチはもう就職するから」
「そう言うなって。俺のチームに入れば美味しい思いをさせてやるぜ? 何なら何人目かの妻にしてやろうか?」
それこそ、失笑ものの冗談だ。
「お前の? ウチが?」
「ああそうだ。俺は未来の皇帝だぜ?」
「は? 笑えないんだけど」
「悪い話しじゃあ無いはずだぜ? 学年一位と、学年二位が手を組めば向かうところ敵なしだろ?」
「……じゃあハッキリ言ってやる。ウチは、お前だけは、絶対にない」
不愉快だった。
吐き気もする。
だがふと思い立ち、ミューディはつい最近仕入れたばかりの情報を言ってやった。
「ウチの弟子一号さ。――[黒翼騎士団]からスカウト入る予定だったって話し、知ってっか?」
レイヴンの表情が青ざめる。
「ば、馬鹿を言うな。ハハ! そうさ、あのなぁミューディ! [黒翼]ってのはなぁ!」
「んなもん知ってる。今、一番、次期皇帝に近いお前んとこの長男が団長やってる、[帝国]最強の騎士団」
だから、レイヴンの言い様は笑い草なのだ。
彼は、最も次期皇帝から遠い三男坊でしかないのだから。
「……ウチは本当の戦いとか、殺し合いのことは知らない。けど――」
ミューディは、レイヴンの顔を真っ直ぐに見て言った。
「たぶん、ウチの弟子一号、戦いの才能あるよ」
何度か見た演習での彼の戦いぶりを覚えている。
魔法は使えず、身体強化もできず、ただ支給された杖を使うだけ。
だが、杖から放たれる貧弱な魔法で、リゼルは何人もの対戦相手を倒してきた。
防御の弱い場所。
魔法を唱える瞬間の隙。
彼は正確に、的確に狙うのだ。
そして同時にレイヴンたちの補助すらもやってのける。
ちゃんと、見ている人は彼を評価していたのだろう。
魔力の流れを見る、とは本人の談だが、ミューディには結局わからなかった。
「学年二位から一位に教えてやる。お前が今まで勝てたのは、優秀な補助役がいたから」
そしてミューディは振り返り、
「そんじゃ、もうお前と会うことも無いと思うから。つーか会っても声かけんなよ」
と言って外へと歩き出す。
扉が閉まる。
「くっそおおおお!」
と、レイヴンの悔しげな声が響いてきたが無視した。
ミューディは考える。
おそらく、レイヴン一人でできることでは無い。
流石に学長クラスが絡んでいるとは思いたくないが――。
ともあれ、卒業までの僅かな時間ですることは決めた。
まず彼の居場所を探す。
そして同時に、彼に何があったのかを調べてやるのだ。
徹底的に。
学年二位のプライドを賭けて。
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