魔創遊戯の王 〜やっと魔王軍から追放されたので、いよいよ人里でニート生活を謳歌するぞ! ……ん? 大聖女とやら、最近よく会うな。……なに? 魔王討伐に付き合えだとー!?〜

コータ

第1話 追放

「追放だと? ……そうか。それは……しょうがないな」


 とりあえず無難な返答をした。

 暗くどんよりとした宮殿内で、俺という存在だけが淡い光に照らされている。


 まるでお前は大罪人だ! とでも言わんばかりの重い雰囲気。ここは四魔王会議をするための恒例の場所だが、いつ来てもいやーな気持ちにさせられてしまう。


 事前のお知らせにはなかった追放宣言。俺の顔には、はっきりと困惑の色が浮かんでいたと思う。そういう顔をしている必要性があった。


 しばらくして、正面にある黒い石碑が光る。

 ああ、そうそう。今この場にやってきてるのは実は俺だけなんだ。魔石碑って奴を使って、他の魔王達は遠隔から会議に参加してる。直で呼び出されたのは、追放宣言を喰らった奴ただ一人なわけで。


「なんだ? 随分とあっさり納得するではないか。魔創王ゼルトザームよ。やはり貴様、自らが無能であるという心当たりがあったのだな。魔王という存在に成り上がるまでは華々しい活躍を見せておったが、就任後二年間の実績はほぼない。実力がない事が露呈した以上、いつまでも玉座に座らせるわけにはいかん」


 おっさんの声色が真っ暗な世界に響いて消えた。奴の名は魔剣王。呪われた剣を使いこなす格闘戦重視の魔王であり、自称最強の男。続いて赤い石碑が光る。


「ハッ! なっさけねー男だよなぁ。せっかく魔族最長老に魔王認定されたってのに! その後は全然結果を残さず終了なんてよ」


 この口の悪い奴は真炎王。とにかく血気盛んな奴でね。相手にしていると一番しんどい。残る一つである青い石碑からは、何かを語ってくる気配はない。魔氷王って奴なんだけど、無駄なことが嫌いなタイプだから静観しているのかも。


「しかし、俺の国はどうなるんだ? あんた達が面倒を見てくれるわけか?」


 黒い石碑がまた光った。


「安心しろ。貴様が作った【魔創国シオン】をどうするかはもう考えている。決して悪いようにはせんわ。ここでしばらく待っているが良い。ワシがそこに向——」

「あ、いいよ別に。それじゃあ、さようなら」


 ちゃんと面倒を見てくれるなら、話はもう充分。なぜ魔剣王がこっちに来るつもりになったのか知らないが、俺はすぐに席を立ち、並べられた石碑から背を向ける。


「な!? おい、待たんか! 貴様、話もロクに聞けぬほどの無能であったか!?」

「おいおいゼルトザーム。てめー、一つも言い返せねえで終了か。ちったあ骨を見せろって」


 もう関係なくなった間柄なのに、いつもまでも律儀に聞いてられるか。魔王達の避難の声が追いかけてくる中、足を止めずに宮殿を後にする。


 ようやく外へ出た時、俺は小さくガッツポーズをした。良かった! 完全に計画通りにいったぞ、と心の中では歓喜の風が吹いてる。


 実は俺は、前々から魔王という立場が嫌になっていたんだ。死んだ父の願いっていうか、うちの家系から魔王を誕生させたいっていう想いに答えるまでが全てだった。魔王として認定されるためには、さっき話に出ていた魔族最長老っていう爺さんに認められる必要がある。


 俺の場合、最も強さや成績をアピールするには、国を作っちまうことが一番だと思ったんだ。そして、元々組んでいたあの三人と同じタイミングで魔王に昇格した。良かった良かった。これで終われると安易に考えていたんだ。


 でもさ、いざなっちまうとなかなか辞めれないんだよこれが。毎日毎日山積みされていく仕事。よく解らん魔族達との付き合い。早朝から起こされて夜まで謁見だなんだと連れ回される毎日。苦痛でしょうがない。


 魔王ってこんなに忙しいのかよ。俺はいつの間にか、働かなくてもいい生活がしたくて堪らなくなってしまった。幸い蓄えは十二分にある。生まれてこのかた二十二年、のんびり過ごせる時間なんてなかった。だからこれからは、ずっと働かず、自分の好きなことだけをする毎日が欲しい。切実に欲しい。


 そこで俺は、自らが使えない存在だって他魔王達にアピールすることで、お役御免になる作戦に出た。そして上手くいったっていうところかな。安心感と開放感がないまぜになって身が軽くなり、空気が美味い。


 しかしまだ安心はできない。会議を早めに切り上げたのは意味がある。早くしないと部下が迎えに来てしまう。俺の右腕はとっても優秀なんだが、納得いかないことがあるとうるさいんだよ。


 アイツは俺が追放されたことを知ったら、どんな手を使っても抗議するに違いない。そして万が一でも、追放処分が取り消しにされたら、スローライフ的ドリームが儚く散ってしまう。


 俺は懐から一枚の【魔創カード】を取り出し、空へ向かって投げつける。世界中で俺にしか創造、使用することができないアイテムだ。

 どういうものかと言うと、作り上げた魔法を内包し、いざという時に使用することができるカードなんだ。無制限に作れるし、何枚所持していようが制約はない。


 空中に魔法陣が出現し、空から一頭のワイバーンがこちらに降りてくる。今回使用したのは召喚魔法で、こいつは俺の城で飼っている奴だ。


「レックス。悪いな。こんな遠くまで呼んじまって」

「クウウウン」


 レックスは俺が頭を撫でると嬉しそうに額を擦り付けてくる。少ししてから背中に跨り、夜空へと飛翔した。


 実はレックスの背中には、俺が所持品である宝石や日常品を入れた袋がくくりつけられている。この時の為に夕方、飛龍の小屋に忍び込んで背負わせておいたんだ。

 使いに頼んだらバレちゃうかもしれないし、今回はとにかく自分でやった。


 いやー、それにしても気分が良い。もうこれからは目立たず、静かに暮らしていこう。今後の展望を頭に思い浮かべながら、懐から地図を取り出した。


「アルストロメリアという村は……もう少し先か」


 しばらく前だったが、俺の領土に一人の人間が迷い込んできたことがあるんだ。そいつが暮らしている村がアルストロメリアというらしい。場所的に魔創国からはるかに離れているし、俺の右腕とかに見つけ出される心配もないだろう。平和に静かにのんびりと余生を過ごそうじゃないか。


 飛龍の背中でまったりと過ごしてしばらく、ようやく探し求めていた大陸に到着した。このまま村に降りるのは目立ち過ぎるので、近くにある森に降り立つことにする。レックスはなんだか悲しそうな瞳でこちらを見つめてきた。魔物ながらに解っているのだろうか、お別れの時ってやつを。


 くうう……辛い。長年連れ添った愛龍との別れは堪えるものがある。だが仕方がないんだ。大丈夫、お前はきっと新しい主人に愛されるだろう。ひとしきり大きな頬を撫でてから、俺は一枚のカードをレックスに向ける。


 そのカードには魔法陣と一枚の羽が描かれている。

 【転移】の魔法が内封されたカードが光の粒子となって消え、レックスの全身を白い光が包む。


 愛龍は小さく咆哮し、元いた龍舎へと転送されていった。さて、しばらく歩くとするか。村までは、まあ夜明けまでには辿り着くんじゃないかな。


 ◇


 先に弁明しておきたいが、俺は断じて方向音痴というわけではない。ただ、どうにも地図と実際に向かっている到着地点にズレがあるように思えてならなかった。


 妙だなー。この森を少し東に歩いていけば、アルストロメリアの村に着くはずなのに。うーん。おかしいなと悩みつつ歩みを進めていると、年季の入った石作りの家を見つけた。


 遠目に見ても、個人の家としてはなかなかの規模ではないだろうか。別荘でも建てている奴がいるということか。もしかしたら俺も、この辺りで別荘を建ててニート生活を送れるかもしれない。

 なんか夢が膨らんできたぞ。


 よし、ちょっと正門前あたりにお邪魔して、アルストロメリアへの道を尋ねてみようか。迷った時には地元の奴に聞くことが一番だ。流行る気持ちを抑え、懐からカードを取り出す。つい先日作った魔法、【飛翔】のカードを使うことにした。風魔法により、通常よりも少々高い跳躍が可能になる。


 人の周りを風が舞い上がる絵が刻まれたカードが消え去り、俺の体に風が舞い始める。それでは軽くジャンプをしてみることにしよう。


 だがこの時、俺は正直風魔法の加減を間違えていた。計算ではもっと手前に着地するはずだったが、思いの外勢いがつき過ぎてしまったんだ。

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