シェイプラヴ

エリー.ファー

シェイプラヴ

「好きなの、あの人のことが」

「やめたほうがいいよ、遊ばれてるだけっぽいし」

「いや、そんなことないの。本当なの」

「本当かどうかは、本人の視点じゃ分からないよ」

「分かるよ。今、この気持ちに嘘はないし」

「気持ちに嘘はなくても、現実として嘘があったわけでしょ」

「そりゃ、そうだけど」

「浮気されたじゃん」

「でも、一度だし」

「二度あったじゃん」

「二度は、あったか。うん」

「で、許したんでしょ」

「ちゃんと謝ってくれたし」

「じゃあ、また浮気するでしょ」

「なんでよ、あんなに謝ってくれたんだよ」

「謝れば浮気して良いってサンプルを提供しただけでしょ」

「そ、そんなことないよ」

「なんで分かるの」

「愛し合ってるから」

「なんでも分かるの」

「分かるよ、愛があるから」

「じゃあ、なんで浮気は気付かなかったの」

「えぇ、それは」

「二度も」

「そう、だけど。でも、今度は大丈夫だよ。三度目の正直だよ」

「二度あることは三度あるとも言うけどね」

「なんでそんなに意地悪なことを言うの」

「あたしの言葉が優しさではなくて、意地悪として聞こえている時点で、あんた相当冷静じゃないよ」

「れ、冷静だよ」

「そもそも、その人と付き合った時も浮気だったよね」

「まぁ、その。もうすぐ別れる予定だからって言われて」

「で、どうしたの」

「別れるまで時間は凄いかかったけど、ちゃんと別れてくれたよ」

「その時の彼女に、あんたが説明しに行ったんでしょ。この人は、もうあなたのことを好きじゃなくて私のことが好きだから別れてあげてくださいって」

「うん、そうだよ」

「その時、男はどこにいたの」

「横にいて、ずっと、私とその彼女さんの会話を聞いてたよ」

「で、男はなんか言ったりしたの」

「言わないよ。ずっと聞いていただけ」

「取り合ってほしいだけでしょ」

「でも、気持ち分かるじゃん。取り合ってもらえたら嬉しいのは本当だし」

「まぁ、あんたも昔、そういうことやったからね」

「え、あぁ。うん。だから、そういうものかなぁって」

「じゃあ、浮気もされるし、そうやって扱われることにも納得してるってことだよね」

「納得はしてないよ。愛されたいよ、本当に好きだもん。大好きだもん」

「自分だって、そういうことを今までしてきたのに」

「それはさぁ、そういうものだと思うけど。そういうことじゃないじゃん。だって、気持ちがそうなったら、そうやって動いちゃうし、それを止めるのって絶対できないでしょ。好きになっちゃったんだから、それは私のせいじゃなくて、そうなっちゃった状況が悪いっていうか。だからもう、止まれないの、思っちゃったら私は止まれないの。好きになっちゃって、どうしようもなくなっちゃうの」

「恋愛が好きで好きでしょうがないんだね」

「そう、だと思う。たぶん。本当に、死ぬまで恋愛をしてるのかもしれない。結婚しても恋愛が止められなくて、子どもを産んでも恋愛が止められなくて、恋愛の止め方が分からなくて、それで一生」

「一生、なに」

「死ぬまで、恋愛のためにせかせかして生きてる。ずっと、繰り返し」

「でも、それは幸せなことかもよ」

「そうかな」

「そうかな、じゃないでしょ」

「ど、どういう意味」

「もう直らないんだから、それを幸せだって思い込めないと本当にいつか不幸をこじらせて死ぬよ」

 髪の短い女性がワインを飲み、ため息をつく。

 髪の長い女性が静かに泣き始めて俯いた。

「恋愛が上手い人じゃなくて、幸せになるのが上手い人になりたかったなあ」

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